第45話貴族の罠と消えた記憶
第45話:貴族の罠と消えた記憶
王都への道のりは順調だった。魔物の襲撃もなく、途中の関所ではレイヴァンの身分証が通行証となり、俺たちは何事もなく越えていった。
そして三日後、ついに王都へと辿り着いた。
広大な城壁に囲まれたその都市は、まるで別世界のようだった。石造りの高層建築が立ち並び、人と魔族、亜人すら共に生活している。活気と混沌、そして冷たい視線が交差する場所。
「うわぁ……人がいっぱいいる……」
セレスが小さく息を呑む。彼女にとって、これほど多くの人と交わるのは初めてだった。
俺はそっと彼女の手を握る。
「大丈夫だ。すぐに慣れるさ。俺たちがついてる」
クロウは帽子を目深に被り、エリスはフードで顔を隠していた。どうやらこの街には、彼女たちにとってもあまり良くない記憶があるらしい。
「……早く“禁書庫”に向かいましょう。王宮の奥、許可がなければ入れないけど、レイヴァンがいれば通れるはずよ」
エリスの言葉に従い、俺たちはまず王宮へと向かった。
だが——王宮の正門前で、俺たちは立ち止まることになる。
「この先は関係者以外、立ち入り禁止だ」
門番が俺たちを睨むように見た。その視線は明らかに、セレスに向けられていた。
——いや、違う。
視線の奥には、何か別の意図があった。
「身分証を見せろ。そこの少女も含めて、全員分だ」
レイヴァンが静かに証を差し出すと、門番は一瞥してから低く唸った。
「……通れ。ただし、少女は連れていくな」
「は?」
クロウが眉をひそめる。
「お前たちは通っていい。だがその“少女”は、王都に入る資格がない。……いや、ある意味では“最も危険な存在”だと、既に通達が来ている」
「通達……?」
誰がそんなものを出したのか。俺が詰め寄ろうとした瞬間、背後からゆっくりと馬車が現れた。
中から現れたのは、一人の男。金と紅の刺繍が施された豪奢な外套。目を細めたまま笑みを浮かべている。
「やあやあ、ようこそ王都へ。……セレス嬢、君に会いたかった」
その声に、セレスが怯えるように身を縮めた。
「……あの声……知ってる……」
男の名は《リュード・アルフェリア》。この国の五大貴族の一人で、王都に強い影響力を持つ“情報貴族”と呼ばれる存在。
「久しぶりだね。覚えてないかもしれないが、昔……君を“保護”していたことがあったよ。そう、君が“歌”の力に目覚める前の話だ」
「な……にを……」
セレスの顔色が真っ青になる。
彼女は——記憶を失っていた。
いや、誰かに奪われていたのだ。
リュードは続ける。
「その力が暴走しないよう、我々が処置したのさ。“必要な処置”だった。君の過去にはまだ、誰も知らない“鍵”が隠されている」
クロウが剣に手をかけ、エリスが魔力を高めた。
俺も思わずレイヴァンに詰め寄る。
「レイヴァン。お前、知ってたのか?」
だが彼は、ほんの少しだけ目を伏せたまま、答えなかった。
沈黙が、すべてを物語っていた。
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次回:「眠れる記憶と禁書庫の謎」
なぜこの作品はいまだに消えていないのだろうか…。




