第34話偽りの楽園、ふたたび
第34話:偽りの楽園、ふたたび
村の中心部に現れた謎の存在。それは、亡霊たちとも異なる、明確な「意志」を持つ存在だった。
「……やっと、来たか。“歌い手”よ」
その声は、どこか懐かしさを含んでいた。
セレスは顔を強張らせ、震える声で問いかける。
「あなたは……“記録の守人”……?」
黒い影は、無言のままゆっくりと歩み出る。地面に足音が響かないことが、逆にその存在の異質さを際立たせた。
「私が……この村を封じた。いや、正しくは“守った”のだ。お前の歌が、あまりにも強すぎたから」
「私の……歌が?」
セレスが唇を噛む。
「この村は、かつて“楽園”と呼ばれていた。だが、お前の声がその法則を壊した。魂を癒やし、死者を留め、時間すら忘れさせた。だから私は……この村を時の檻に閉じ込めた」
記録の守人の言葉に、全員が息を呑む。
「……それは、保護なのか? それとも……支配だ?」
俺が問いかけると、守人は小さく首を振った。
「選ばれたのは私ではない。選んだのは、この村そのものだ。“永遠”を望んだ村人たちが、歌にすがった。その果てが今の姿だ」
「……哀れな」
クロウが低く呟く。
その時——。
「だったら、私が……終わらせる」
セレスが、一歩前に出る。
その瞳には迷いがなかった。
「私の歌で、彼らを“解放”する。もう、誰もこの檻の中に閉じ込めたりしない……!」
「ふふ……いい覚悟だ。だが、それを見届けるのは——私ではない」
空気が揺れた。
そして、空間が裂けるようにして現れた、二つの影。
「……遅れてごめんね。間に合った?」
「さて、ここからが本番かな」
現れたのは、ベラとリオ。
二人はそれぞれ、奇妙な微笑を浮かべながら、俺たちの前に降り立った。
「まさか、お前らが……!」
エリスが身構えるが、リオは手を上げて制した。
「敵じゃないよ。ただ、興味があってね。“楽園”の終焉とやらに」
「……それとも、始まりかもしれないわ」
ベラの視線が、じっとセレスを見据える。
彼女たちの登場で、封じられた村の運命は大きく動き始めた。
---
次回予告:「歌が導く、選択の扉」
セレスの歌が、村に眠る真実を解き放つとき、仲間たちはそれぞれの“選択”を迫られる。果たして、楽園の行き着く先は——?
遅れてすみません。ちょっと忘れてかけていたので。もう忘れない