第33話閉ざされた祈りと微笑みの記憶
第33話:閉ざされた祈りと微笑みの記憶
村を包む黒い霧は、セレスの歌声によって徐々に薄れていった。
亡霊たちは、まるで夢から覚めたようにその動きを止め、そして一人、また一人と光となって空へと還っていく。
「ありがとう……ありがとう……」
その言葉は、誰に向けられたものだったのか。だが、確かにそこには感謝の祈りがあった。
静けさが戻った村の広場に、重い沈黙が降りた。
「セレス……今のは……」
俺が言葉を探すと、彼女はゆっくりとこちらを振り返った。
「……あの人たちは、私の歌で封じられていた。だけど、本当は……それはただの封印じゃなかった」
セレスは唇をかみしめた。
「“救い”だったの。悲しみに沈みきった村人たちの魂を、永遠に閉じ込めて……忘れさせるための、優しい檻」
クロウが目を細める。
「優しさが……かえって彼らを囚えてしまっていたのか」
セレスは小さくうなずいた。
「私のせいじゃない。そう言い聞かせてた。でも……私の歌がなければ、彼らは……」
彼女はそこまで言うと、ふっと力が抜けたようにしゃがみ込む。
俺は静かに彼女の隣に座った。
「お前が悪いんじゃない。むしろ、ようやく救えたんだ。今日、お前の声が、彼らを眠らせるんじゃなく、目覚めさせた」
セレスはゆっくりとこちらを見る。目には涙が浮かんでいた。
「……ありがとう」
その声は、かすかに震えていたが、どこか柔らかく温かかった。
と、そのとき——。
「やれやれ、やっと片付いたか……!」
懐かしい声が村の外から聞こえた。見ると、何人かの冒険者たちが村に入ってきていた。
「……あんたたち、よく無事だったな!」
その中に、数日前に分かれたはずのベラやリオの姿があった。
だが、彼らの背後にいたのは——
「お前……は……」
俺の目が見開かれる。
そこには、かつて王都で見た“あの人物”が、静かにこちらを見つめていた。
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次回:第34話「来訪者と断罪の剣」
王都で見た人物……。
クロウだと思います!
それと新しいキャラの名前があると思いますが、あまり気にしないでください。多分ミス