表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/42

第30話黒霧の王と光の旋律


第30話:黒霧の王と光の旋律


 セレスの歌が響くたび、黒霧はわずかに揺らいだ。


 彼女の足元から広がる光は、まるで命そのもの。亡霊たちの呻きが次第に消えていき、悲しげだったその顔が、静かに穏やかさを取り戻していく。


「……まだだ」


 黒霧の王が、憎悪を込めた声で呟いた。


 男の体から噴き出した闇は、歌の光を押し返すようにうねりを強める。その中に、無数の怨念が詰まっていた。


「お前の歌は、ただの慰めではない。“封印”の力そのものだ。あの日、私たちをここに縛り付けた、呪いの根源……!」


「……っ!」


 セレスは歌を止めかけた。だが——。


「セレス!」


 俺の叫びが響く。


「お前の歌がなかったら、俺たちは今ここにいない! ……それは“呪い”なんかじゃない! 誰かを守るために歌った、お前の“祈り”だろ!」


 セレスの目が揺れる。けれど、次の瞬間、決意が宿った光が宿る。


「そうだね……私は、誰かを傷つけるためじゃなくて……守るために歌う。もう二度と、間違えない」


 再び、歌が紡がれる。


 先ほどよりも遥かに澄んだその旋律は、黒霧の中心に風穴を開け、王の体を蝕んでいった。


「これは……光……? いや、違う……こんなものは、偽善……っ!」


「違う! セレスの歌は、本物の“救い”だ!」


 俺は剣に力を込めて飛び込んだ。エリスの魔力が空に煌き、クロウの一撃が黒霧を裂く。


 そして——


 セレスの最後の一節が、夜空に消えた。


「……ああ……やっと……」


 黒霧の王が崩れ落ちるように霧散した。その顔には、怒りでも呪いでもなく——安堵のようなものが浮かんでいた。


 霧が晴れ、亡霊たちも静かに消えていく。


 沈黙が戻った村の中央で、セレスはそっと目を伏せた。


 彼女の歌が、今度こそ“正しく届いた”ことを、信じながら。



---


次回:「残された言葉、そして旅の続きへ」

封印された村の真実と、セレスの決意。物語は次の章へと進む——。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ