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クロユリは助手席がお好き

「どうだった?」

「それが……」


 車内でクロユリと待っている……と、言い張って譲らなかった真田が待つセダンへと、戻る犬塚。後部座席ではいいようにモッフモフと顎の下を撫でられているクロユリが、ブスッと仏頂面をしているが。……彼女の不機嫌は無視することに決め込むと、犬塚は多田見の調書だけがなぜかなかった事を、真田に告げる。


「ふぅむ……それは確かに、妙だな。あの日、多田見さんはエステサロンにいたのだし……」

「名簿からは抹消されていましたが、シフト表にはしっかりと多田見さんの名前が残っていました。そのことから察するに、多田見さんの潜入調査そのものが不都合な人物がいたか……」

「或いは調査を抜きにしても、多田見さんとの関わりが知られると困る奴がいるか、だな」


 予断なくクロユリの顎をさすさすと撫でながら、真田が唸る。


「なるほど、なるほど。……ここから先は、私の出番かな?」

「真田部長……?」

「なに、供述調書の更新履歴を洗うだけさ。データベースに保存されているデータなら、管理者に掛け合えば、最終更新者の()()()もつけられるだろう」

「あぁ、それもそうですね……」


 とは言え、供述調書は捜査に関する機密書類である。それが故に、管理者に問い合わせるのだって、本来であれば管理職の権限ないし、指示が必要なのだが。真田であれば、その壁も易々と超えられるということなのだろう。


「という事で……名残惜しいが、クロユリちゃんとはこの辺でお別れになりそうだなぁ。そろそろ夕刻だし、犬塚も今日はいいぞ」

「承知しました。では……ご確認、お願いいたします」

「うむ、任せておきなさい」


 いつもながらに頼もしい返事を残し、真田がほんの少し寂しそうに後部座席を後にする。そうして、パタンとドアが閉められ、寸の間の静寂が訪れるが……。


「ギャフ……ギュルルル……!」

「うん、分かってる。分かってるよ、クロユリ。……こっちにおいで」

「キャフ!」


 後部座席から、するりと運転席の横を器用にすり抜けて。クロユリはジットリした眼差しを犬塚に向けつつも、どこか満足げに助手席へと鎮座する。そうして、チラチラと犬塚に視線を送ってくるのを見るに……サッサとリードを固定しろと言いたいようだ。


「本当に、お前は助手席が好きだなぁ……。ほら、これでいいか」

「キュフフ!」


 ピコピコと尻尾を振ってご機嫌を上向かせたお嬢様は、いつもながらに愛らしい。それでなくとも、今日はクロユリにとって厄日だったのだ。帰るついでに、好物の豚バラ肉を買って帰るか……と、クロユリの災難を慰める算段もしつつ。犬塚は慣れた手つきで、ナビに自宅への経路を入力していた。


***

(おや……こんな場所に園原君がいるなんて。珍しいな)


 犬塚と交代する形で、本庁のオフィスへと舞い戻る真田。しかし、彼が目指すのは自身が所属する刑事課ではなく、とある部署である。部長ともなれば、窓際に広々とした自席も用意されてはいるが。自席から指示を飛ばすのではなく、直接掛け合った方が早いかもしれないと、庁内システムを管理している部署へ足を運んでみたのだが……。

 そのシステム管理課へと続く廊下の先に、久しぶりに見た気がする女性管理職の姿が見える。しかしながら、()()()()()()()が聞こえてこないとなると……彼女が廊下でしているのは、内緒話のようだ。


(盗み聞きはお行儀が悪いが……)


 しかしながら、このまま出て行ったのでは、内緒話が中断されてしまうかも知れないと……真田はサッと角に身を隠すと、聞き耳を立てる。場所が場所なので、そこまで秘密の話ではないだろうが。最近は別行動をとっていた事もあり、梓の動向は色んな意味で気がかりだ。それは梓が自身の部下であるという心配もあるが……何よりも、彼女が()()()()()の姪っ子だという、不信感によるものが大きい。


「結川の目撃情報が、青梅方面であったようだわ」

(なんだって⁉︎ そんな情報、共有されていないぞ⁉︎)


 結川の逮捕に繋がる情報は、捜査本部で即時に逐一共有するべき内容だろう。だが、梓は部署内での共有をしないどころか、他部署のシステム担当者に易々と情報を渡している。


「なので、明日は青梅方面へ向かうわ。このデータの解析結果、出次第に回してね」

「承知しました。しかし、園原課長」

「何かしら?」

「指名手配犯の目撃情報は、本部にも伝えた方が良いかと。それに、前回もそうでしたが……このあまりに精密なルート情報は、一体どこから……」

「うるさいわね! あなたは、私の言う通りにしていればいいの! これが警視総監直々の決定だって、分からないの⁉︎」

「すっ、すみません……」


 分かれば良いわ、分かれば……と言い捨てつつ。苛立たしげにカツカツとヒールを鳴らして、梓が去っていく。真田には梓の足元を彩るパンプスが、どんなブランドの物かは分からないが。鮮やかなレッドソールと、高いピンヒールは明らかに捜査現場には不釣り合いなチョイスだろうと、苦々しい気分にさせられる。そのことからしても……彼女は足を使わずに、何らかの方法で情報を得ていることになりそうか。


(ふーむ……彼はまだ、話が通じそうか……?)


 やり取りを聞いていても、怒られてしまった担当者は梓が握っている内情を知らないと同時に……標準的な対応を進言してくる時点で、常識的だと考えるべきだろう。それに、真田自身もシステム管理課に用事があるのだし、ここはポツンと取り残された彼に話を聞いた方が良さそうだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >鮮やかなレッドソール もしやルブタン!!!! 実力のある自立した、かっこいい女性にこそ履いてほしいなあ。
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