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イタリアンはクロユリの口に合わない

 逃げ出した重要参考人(彩華)がゼェゼェと息を切らしている、同じ街角で。一方の犬塚達は、クロユリのスマートタグが示す目的地へと辿り着いていた。そこは閑静な住宅街に、ひっそりと溶け込むような洒落たレストラン……とは言い難い、城とも見まごう大袈裟な佇まいの店が建っている。


(……この店構えは、()()()の趣味なんだろうか……?)


 石造りなのはまだ、いいだろう。だが、綺麗に組まれた大振りのブロックは何を勘違いしたのか、やたらに鮮やかなブルーをしている。色は軽薄なのに、作りがガッチリしているせいか……犬塚の目には、わざとらしい重厚さが周囲のハイセンスな建造物群から浮いて見えた。


「それはそうと……犬塚さん。真田部長へ状況の報告を行いました」

「あぁ、ありがとう。それで……まぁ、ここは待てがオーダーだろうな」

「そうですね〜。……クロユリちゃんが心配ですけど、無茶しない方がいいかもです……」


 ヒソヒソと警察官2人で、状況を窺っているすぐ横では……飽きもせずに、篠崎はスマートフォンを指で突いている。そんな彼に、犬塚は何を調べているのだろうと声を掛けると。篠崎からは意外な答えが返ってくる。


「先生、さっきから……何を調べているんですか?」

「おん? あぁ……あの店の評判が気になってな。俺はイタリアンなんて、小洒落た食い物にはとんと縁がないタイプだが。……しかし、この書かれようだと、相当にひでぇみたいだな、あの店。きっと、経営も上手くいってなかったんだろう。最近はずっと閉まってるみたいだぞ」


 そんなことを言いながら、篠崎が示したスマートフォンの画面を犬塚が見つめれば。そこには確かに、惨憺たる有様の「口コミ」の数々が並んでいる。


「うわぁ……ここまで悪評価が並んでいる店も、珍しいっすね……」

「こんなのを見たら、普通に行きたくなくなりますね……」

「だよな。……メニュー名がさっぱり分からんのもあって、別の意味でも入りづらいな、これは」


 店構えの浮き加減に、接客も料理も今ひとつ。気取ったメニュー名からは、どんな料理が出てくるのかさえ、分からない。……これでは、むしろ店を潰したいのではないかとさえ、思えてくる。


「……もしかして、ひょっとするのか……」

「えっ?」

「普通ならば、こんなにも悪評を立てられたら、改善しようとするだろうし……ここまでになる前に、手を打つ方が自然だ。しかし……かなりの期間、ずっと同じような評価が下されているのを見る限り、そのいずれもしてこなかったんだろう。何故か、店主は店の何もかもを改善しようともしなかった。……まるで、店はいらないとでも言っているかのようだ」

「しかし、よぅ。……店を潰したい店主なんて、いるもんかね?」


 呆れ気味の篠崎が言う通り、普通ならば店を潰したがるオーナーなんて、いないはずだ。だが、目の前の店は周藤修哉が望んで手に入れた城なのかは、怪しい部分がある。捜査会議でも積極的に取り上げられる話題ではなかったが……周藤三佳が一回りも若い修哉との結婚に至ったのには、いわゆる相思相愛ではなさそうに思える。おそらく……三佳側の()()()()()()による、経営陣の権力を使った力技だろう。


(近影を見る限り、婿殿はかなりの2枚目だったしな……)


 あまり良い表現ではないが。見目麗しい修哉はコックではなく、ウェイターをさせていた方が合っている気がする。


「それはそうと、犬塚さん」

「どうした、深山」

「周藤修哉さんと小春さんがご兄弟、あるいは親戚かもしれないのは何となく、分かるんですけど。……結川さんとはどういう繋がりなんでしょうねぇ?」

「そうだな……もし、先生を襲撃したのが結川だった場合、ただの同僚で片付けるにはインパクトが足りないよな。って……あっ」


 そこまで言いかけて、犬塚は何かに気づいたらしい。深山にラップトップノートを出してもらい、とある写真を表示させる。そうして、部外者に見せていい画面ではないと自覚しつつも……篠崎に、結川と周藤修哉の写真を見比べてもらうが……。


「あん? 俺を襲ったのがどっちか、分かるかって? って、言われてもなー。顔は半分、隠れてやがったし……」

「そう、ですよね……」

「ん? でも……こっちの泣きぼくろは、見覚えあるぞ?」

「えっ?」


 篠崎が「見覚えがある」と示したのは……派手なスーツの結川ではなく、コックコート姿の修哉だった。

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