1、馬の背
『女御国の攻防 2』を書いているので、改めて『女御国の攻防 1』から適切なジャンルと思われるコメディ部門から、連載を始めます。
『女御国の攻防 1』は、カクヨムでも連載されています。
改暦1250年、4月、女御国、馬の背
「隊長、賑やかですね~」
「隊長は止せ。今回はあくまで秘密裡の偵察で、ワシらは観光旅行客だ」
「そうでした。すみません」
「それにしても、ここは女の人が多いですねえ。女の人が活発に動いていて、男は遠慮がちに居やがる。影が薄いや」
「それが女御国の特徴なんだ。羅漢国の男らしい男でも、女御国に婿入りすると、借りて来た猫みたいにおとなしくなってしまうそうだ。女の方が働いて稼ぐし、女の方が地位も高いし、男は家で家事をやっていればいいし、逆らうと恐いしな」
「情けない」
「女の腐ったような・・・・いや、ここでは男の腐ったようなと、言うのかな」
「ははは、そんなようなところかな」
羅漢国の第一隊隊長、塗手金玉、副長、沼地広、曹長、阿郷高志、三人の軍人は、女御国の主要部の満の町を歩いていた。一行は羅漢国の北から女御国の馬の背というところに入り、視察を重ね満の町に出たのだ。視察といっても、見るべきものは何もなかった。牧草地と畑が点在する牧歌的風景が広がるばかりだ。
三人は旅行客を装っていたが、かなり女御国では浮いている。そもそも、女御国で活発に動いているのは、ほとんど女性で男はほとんど見かけない。そこへ、イカツイ男が三人も連れ立って歩いていれば、否が応でも目立ってしまう。
好奇の目に晒されながら満の町に入り、人混みに紛れてホッとした気分だった。
「ちょっと、そこの人・・・・」
『萬屋』との看板がある商店のスミの軒先に、女が居た。イスラム教徒の女性が着るような一枚布のような黒いチャドルをつけ、身体を黒い布ですっぽりと覆っている。その一隅だけが瘴気が漂っているみたいで、実に妖しい。
見ると、机に『占』と染め抜いた布の前で手招きしていた。
「俺・・・・?」
「そう、あなた。見てしんぜましょう」
副長がふらふらと吸い寄せられるように、近づいた。
「手を・・・・」
占い師は、差し出された手をしげしげと見つめていた。
「羅漢国から来なすったか」
「えっ、どうしてそれを」
「これでも、占い師をしています」
「う~ん」
隊長と伍長は、イカツイ、むさくるしい男が羅漢国の男、それも兵士であることに察しがつきそうと思ったが、副長が驚いているので黙ってみていた。本当は驚いているフリかもしれない。
「名前は」
「沼地、沼地 広です」
「ほう、ヌマッチ ヒロシねえ。手を出して」
占い師は、沼地の手をジッと見た。すると、見る間に眉間に深いたて皺を刻み、固まってしまった。
「何か良くないことでも」
ハッと占い師が沼地に視線を戻すと、「この占いは、無かったことに・・・・、お代はいりません」と言った。
「えっ、どういうこと」
「今日は、もう店じまいじゃ」
呆然とする三人をしりめに、机やイスを片付け始めた。その時、「不吉だ」「良くないことが起きる」と小さく呟いているのを三人は聞いてしまった。
―女御国、統合庁舎、総長室―
「女御さま、槐さまが至急お目通りをと申しておりますが」
「うん、槐殿が・・・・・」
訝しく思ったが、事前の通知も無く面会を求めるとは、事は緊急を要するらしい。
「通して下さい」
槐は通される早々「見ました」と言った。
「何を見たのです」
「あっ、失礼しました」
槐は最初から説明を始めた。
満の町で不審な三人組を見たこと。旅行客を装っているが、羅漢国の兵士らしいこと。
その中の一人、沼地 広を呼び止め手相を見たこと。そして、凶相が出たこと。
「私の占いが、外れていれば良いのですが」
「う~ん。槐さんの占いは当たるからね~」
「内内で笠原浄光教国から破魔娘さまに王子のお妃にとの、縁談の話しがあると聞きましたが。実は羅漢国の総裁に、年頃の息子がいるのですよ。それに絡めて、総裁の息子の縁談を提案するとか、あるいはいちゃもんを付けて、紛争、騒動に発展させるか。うがった見方かも知れませんが、それを前提の女御国視察ではないでしょうか」
「う~ん、取り敢えず、緊急幹部会議を招集します。槐殿もご参加を願います」
「承知しました」