最終話 ガハハ、めでたしめでたしだぜ!
雲一つない快晴の午後。
モーガン王国首都にある教会にて、ある男女の結婚式が営まれていた。
新郎は――白タキシードに身を包んだドルファ。
巨体の彼に合う特注のタキシード作りは、職人にとっても大いにやりがいのある仕事であったという。
新婦は――ウェディングドレス姿のパメラ。
普段は凛とした女剣士という風貌の彼女が、今日だけは天使と見まがう美しさを放っている。
二人が登場すると、招待客らは大いに沸いた。
一番間近で拍手するのは少年剣士カイとその母マリア。
毒に侵されていたマリアの病状もすっかり回復し、血色のよい笑顔を浮かべている。
カイは剣の稽古を毎日こなし、規模の小さい大会ではあるが剣術大会で優勝を果たしたという。
「ドルファさーん、パメラさーん、おめでとう!」
カイは大声で二人を祝福した。
式場の隅ではあるが、そこには驚くべきことにかつてパメラに振られた貴族、ケビン・ドレークの姿があった。
彼を守護する精鋭部隊“十鬼士”も一緒だ。
ドルファに懲らしめられて以降の彼は、以前のように傲慢に振舞うのをやめ、領民からも「多少はマシになった」などと評されている。
結婚式への招待状が来た時は憤ってはいたが、結局こうして来てしまった。
美しく着飾ったパメラを見て、ケビンはぽつりとこうつぶやいた。
「ふん……僕には勿体ない女だったな」
式場の一角にはロン老師が大勢の弟子を引き連れ、祝福に訪れていた。
今や彼の道場には100人以上の弟子が詰めかけ、ロン老師は「人生の最後に伝えられるものは全て伝える」とはりきっている。
「おぬしらのおかげで充実した老後を送れそうじゃ、ありがとうよ。幸せにな!」
弟子であるドルファとパメラの晴れ姿に、ロン老師は涙をこぼした。
なお、彼の隣にはかつて魔法協会会長であったムーアの姿もある。彼もまた権力への妄執から解き放たれ、救われた人間である。
そんなムーアから地位を引き継いだ賢者アレンも結婚式に駆け付けていた。
「ドルファさん、今思うとあなたに負けてよかったと思いますよ。あなたに負けてどん底を味わったおかげで……私は成長することができたのですから」
青い瞳の美男子がにこやかな笑みを浮かべている。
確かに闘技大会出場時の彼は、魔法を過信しているところがあった。
しかし、ホームレス生活も体験した今、そのような慢心はない。あるのは純粋に魔法を極め、発展させたいという信念のみ。
アレンはこれからさらに魔法協会を大きくしていくことだろう。
ドルファと決勝戦で戦ったベルギスもまた、客席で拍手を送る。
彼が勤める食堂の店主らも一緒だ。
ドルファに敗北し、魔界に居場所がなくなったベルギスではあるが、そのおかげで彼は人間への親愛に目覚めることができた。
魔族でありながら、人間の世界で懸命に働く彼の姿は、人と魔を繋ぐ架け橋といってもよいだろう。
ベルギスはこれから、人間界と魔界に多くのものをもたらすに違いない。
「二人とモ……おめでとウ!」
ベルギスは心からの祝福の言葉を贈った。
……
式がいよいよクライマックスを迎える。
教会の神父がドルファとパメラに問う。
「永遠の愛を誓いますか?」
二人は同時に答える。
「誓います」
神父は二人に促す。
「では……誓いのキスを」
向かい合うドルファとパメラ。天使のようなパメラを見て、ドルファは心臓の高鳴りが抑えられない。二人はまだ、口づけを交わしたことさえなかったのだ。
こみ上げる照れを隠すために、つい叫んでしまう。
「ガハハ、初めてのキスの相手はお前かよ!」
パメラはにっこり微笑んだ。
「そうだ、私だ」
そして、二人は誓いのキスを交わした。ドルファは体が大きいので、だいぶ体を屈めてのキスとなった。
口づけを終えた二人。
パメラは堂々としたものであるが、ドルファはキスの余韻からなかなか冷めないのか、赤面したまま呼吸を荒くしている。
これを見たカイ、ドルファに向かってこんな軽口を飛ばす。
「ドルファさん、真っ赤になってる!」
「う、うるせえ!」
そう返すドルファの顔は、まさに湯気が出てもおかしくないほどだった。
闘技大会では圧勝したが、キスという体験には圧倒されてしまったドルファに、会場の皆が祝福の笑みを浮かべた。
最強の大男ドルファと、美しき女剣士パメラ。
二人のこれからの人生に幸あれ――
~おわり~
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