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第4話 ガハハ、ジイさんの道場には弟子がいねえのかよ!?

 ケビンを懲らしめてから一週間が経った。パメラは毎日のようにドルファの家に遊びに来ていた。

 ただ遊びに来るだけでなく、料理を作ってくれる。彼女の手料理はなかなかのものだった。


「ドルファ、食事だ」


「お、いただきまーす」


 ドルファもまんざらでもない。パメラの作ってくれたオムレツをガツガツと平らげる。


「んめえぜパメラ!」


「ありがとう」はにかむパメラ。


 後片付けを終えると、ドルファが言った。


「なぁ、二人で町に遊びに行かねえか?」


「うむ、行こう」


 二人は仲良く町に繰り出した。



***



 賑やかな往来に差し掛かった二人、並んで歩いていると思わぬ人物を目にした。

 拳法家のロン老師だ。

 なにやら必死にビラを配っている。しかし、誰にも相手にされていない。


「あれは……三回戦で俺が倒したジイさんじゃねえか。なにやってんだ?」


「行ってみよう」パメラが促す。


 ドルファはロン老師に話しかける。


「おいジイさん!」


「おぬし達は……!」


「なにやってんだ?」


「ああ、ビラを配っておるんじゃよ」


「ビラ?」


 ビラの中身は道場の門下生を募集するものだった。

 ドルファが訳を聞くと、ロン老師はしみじみと話し始める。


「ワシも昔は別の土地でそれなりに大きな道場を持っていて、優れた拳法家を何人も輩出したものじゃ」


「へえ~」


「しかし、主だった弟子はみな独立し、ワシもこのモーガン王国に移り住んでのう。こちらでひっそりと道場を開き、静かな老後を……と思っていたんじゃ」


 しみじみと語るロン老師。


「しかし、最後にまた弟子を育ててみたくなってのう。あの闘技大会で優勝すればいい宣伝になると思ったんじゃが……」


「ドルファに負けてしまったというわけか」とパメラ。


「悪いことしちまったな、ジイさん」ドルファも謝る。


「いやいや、いいんじゃよ。しかし、今時ワシのようなジジイの弟子になりたいという若者はおらんのう……」


 全く減っていないビラがそれを物語っている。

 この様子を見てドルファは――


「だったら俺がなってやるよ!」


「え?」


「俺がジイさんの弟子になるよ!」


「あ、ならば私も」パメラも便乗する。


「ほ……本当か!?」


「ああ。ジイさん言ってたろ。戦いは腕力だけじゃねえって。せっかくだしそれを教えてもらいたいんだよ」


 ドルファとパメラの気遣いに、ロン老師は喜びの笑みを浮かべる。


「おぬしらの気持ち、嬉しいぞ! さっそくワシの道場に案内しよう!」



***



 ロン老師の道場は、首都から少し出た森の奥にあった。

 古びた木造建ての建物で、看板には「ロン流気功拳法」と書かれている。


「いかにも“仙人が住んでます”って感じの小屋だな」


 ドルファは思わずこんな感想を漏らしてしまう。

 パメラもうなずく。


「仙人か、それはよい。もっともその仙人も、おぬしの腕力には歯が立たんかったが」


「ジイさんがもっと若かったらどうなってたか分からねえよ」


 フォローするドルファ。


「それじゃ、さっそく俺たちにジイさんの武術を教えてくれ」


「うむ……ワシの拳法は気を操る術、すなわち“気功”を身につけるのじゃ」


「気功?」


 聞きなれない言葉に首を傾げる二人。


「人間の体には“気”というものが流れている。その気の流れをコントロールし、身を守ったり相手を攻撃したりするのがワシの拳法なのじゃ」


 ドルファたちは懐疑的な反応を見せる。


「なーんかうさんくせえなぁ」


「うむ、私も気なんて聞いたことがないぞ」


「モーガン王国ではあまり広まってないからのう。実際に見せる方が早かろう」


 ロン老師は近くにあった大きな岩に右手を当てた。


「むんっ!」


 老師が気合を込めると、岩にひびが入った。

 これにはドルファとパメラも驚く。


「すげえ!」

「おお……手で触れた状態から岩を!」


「慣れれば、例えばスイカの皮を傷つけず中身だけをジュースにするなんて芸当も可能じゃ」


「はぁ~……」

「まるで魔法だな……」


 嘆息する二人。


「お、教えてくれ!」

「私にも!」


 分かりやすい反応をする二人に気をよくして、ロン老師も微笑む。


「よかろう、道場に入るがよい」



……



 まず二人がやらされたのは座禅であった。

 慣れない姿勢に苦労する二人。


「ジイさん、こんなのやって意味あるのかよ!?」


「ああ……かなりキツイ体勢だ……」


 ロン老師は厳しい口調で諭す。


「まずは自分の中にある気の流れを認識せねばならん。そのためには座禅が一番ええんじゃ」


 その後もゆったりと決められた型をこなす稽古や、目を閉じてただ黙って立っているだけの稽古など、地味な修行が続いた。


 初めのうちは不満を漏らしていたドルファとパメラだが、だんだんと気を理解し、気を操るコツを身につけていき、いつしか稽古に集中するようになっていた。

 ロン老師もまた「流石はワシを負かした男と、闘技大会に出るほどだったおなごじゃ」と二人の成長に目を見張った。



***



 道場に通い始めて一ヶ月も経つと、ドルファとパメラはだいぶ気功をマスターしていた。

 ロン老師も満足そうにうなずく。


「おぬしら飲み込みが早いぞ」


「ジイさんのおかげだよ!」


「うむ、老師の教え方が分かりやすいからだ」


「基本はマスターしたといってもよい。元々おぬしらはそれぞれの武器があるし、あとはもうおぬしらが各々の技を磨く時じゃろう」


 事実上の免許皆伝。この言葉にドルファもパメラも喜ぶ。


「じゃあ飯でも食いに行こうぜ」


「そうだな」



***



 首都の繁華街で食事を済ませた二人。


「うまかったな」


「ああ、老師の稽古は激しく体を動かすことはないが、カロリーは消費するからな」


「俺ら二人とも、いい感じに身が引き締まったよな」


「確かに」


 腹ごなしもかねて街の中を散歩していると、なにやら人だかりができている。

 ドルファ達も駆けつける。


「何があったんだ?」


「それが……」


 建築現場で木材の束が倒れる事故が起き、作業員が一人下敷きになっているらしい。

 早く助け出さねば圧迫死は避けられない。

 これを聞いたドルファはすかさず棍棒を持ち出す。


「俺に任せろ! 俺が木材を吹っ飛ばして……」


「待て!」


 パメラが制止する。


「棍棒で木材をまとめて吹き飛ばすと、圧迫されてる者も巻き添えを食う可能性がある!」


「あっ……!」


 ドルファの一撃が「トドメ」になってしまう事態にもなりかねない。かといって木材を丁寧にどけていては、下敷きになっている作業員は助からないだろう。


「くそっ……どうすりゃいいんだ!?」


 手をこまねいていると、パメラがある発想にたどり着く。


「気功を使ったらどうだ?」


「そうか! 気功なら上手くやれば木材だけを吹っ飛ばせる!」


 スイカを皮に傷つけず実だけをジュースにできる技ならば、この難局を乗り切れるかもしれない。さっそくドルファは地面に手を置き、木材や埋まっている作業員の気を感じ取る。


「……よし。だいたい分かった。パメラ、吹っ飛んだ木材は頼むぞ」


「任せろ」剣を構えるパメラ。


「じゃあ……行くぜぇ!!!」


 ドルファは棍棒に“気”を乗せ、地面に叩きつける。

 すると――


 木材だけがドルファの“気”によって、綺麗に吹き飛んだ。


「はあっ!」


 すかさずパメラが吹き飛んだ木材を切り払い、周囲に飛び散るのを防ぐ。

 彼女の剣さばきもまた、気功を習得したことで飛躍的にレベルアップしていた。


 二人のコンビネーションに作業員たちや野次馬は沸き立つ。


「すげえ!」

「木材だけを吹っ飛ばした!」

「どうやったんだ!?」


 これにドルファは笑いながら答える。


「ロンってジイさんに教わったんだよ。気功っていう技なんだ」


 どこにいるのかと尋ねられたので――


「ジイさんなら首都を出たところにある森ん中で道場を開いてるぜ」



***



 次の日、ロン老師の道場には弟子希望者が大勢詰めかけていた。

 皆が「気功を教えてくれ」とロンに頼み込んでいる。


 ドルファたちが顔を出すと、ロン老師は嬉しい悲鳴を上げていた。


「いやー、何があったんじゃろ。いきなり弟子希望者がこんなに来てくれたんじゃ」


 ドルファにはさっぱりだが、パメラは合点がいったという表情で言う。


「多分昨日の件が宣伝になったんじゃないか?」


「なるほど……実演はなによりの宣伝ってことだな!」


 こうしてロン老師の元に大勢の門下生が集った。

 老いてもう一花咲かせたかったロン老師の道場は、これから栄えるに違いない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドルファさん、パメラさんと仲良くなっていてフラグが折れていて良かったです。 腕力だけでなく気功という技まで身に着けたドルファさん、虎に翼、鬼に金棒ですね! 老師の道場にもお弟子さんがたく…
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