第3話 ガハハ、嫌な男に求婚されて困ってるだとォ!?
カイの事件から二日後、ドルファ宅に来客があった。
ドルファは客の顔に見覚えがあった。なにしろつい最近会ったばかりなのだ。
「お前は……」
「闘技場でお前と戦ったパメラだ。覚えてるか?」
先の闘技大会二回戦で、ドルファに敗れた女剣士パメラだった。
「そりゃもちろん覚えてるけど……とりあえず入ってくれ」
「失礼する」
異性が家に訪ねてくるなど初めてのことなので緊張してしまう。部屋を普段から綺麗にしておいてよかったと心底ほっとする。
「んじゃ……茶でもどうぞ」
「かたじけない」
「……で、どうして俺んちに?」
「闘技場で“相談に乗ってくれる”と言っていただろう」
「そうだけど……どんな相談が? もし金貸してくれってことだとちょっと……」
カイに100万ベルを渡してしまい、今のドルファの手持ちは心もとない。
「そうではない。実は……ある男にしつこく求婚され、困っているのだ」
「求婚? 結婚を迫られてるのか」
「ああ、伯爵家のケビンという男にな……」
「伯爵家!? オイオイ、玉の輿ってやつじゃねえのか!?」
「本来は喜ぶべきなのだろうな。だが、ケビンは貴族としては最低の男だ。領民のことなどまるで考えていないドラ息子で、あんなのと結婚するのはまっぴらだ。私は剣で身を立てたいから結婚はできないと断ったのだが……」
ドルファには話が読めてきた。
「そうか。なら『闘技大会で結果を出してみろ』ぐらいのことを言われたか」
「そうだ。闘技大会で優勝すれば、結婚は諦めると。だが……私は二回戦でお前に敗れた」
「なんかごめん」
謝ってしまう。
「いや、お前が謝る必要はない! 私は正々堂々戦って負けたのだから。しかし、こうなった以上、もはや私がケビンからの求婚を断る理由がなくなってしまった。ケビンとは今から会うのだが、『闘技大会で優勝できなかったのだから、結婚しろ』と迫られるのは間違いない」
「……」
「そこで何かいい知恵はないか、と相談に来たのだ……」
相手は伯爵の息子。闘技大会で優勝するという条件も満たせなかった以上、求婚を突っぱねるのは難しい。
ドルファは考えた末、一つのアイディアを閃いた。
「いい手があるぜ」
「え?」
「恋人がいるから結婚できませんってことにすればいいんだよ」
眉をひそめるパメラ。
「私に恋人なんていないが……」
「ここにいるじゃねえか。俺だ」
「な、なんだと!?」
驚くパメラに、ドルファが笑いながら説明する。
「もちろん“フリ”だ。お前みたいな美人と俺みたいなでくの坊じゃ釣り合いが取れねえもんな」
「いや、そんなことは……」
「とにかく、さっそくそのケビンとかいうお坊ちゃんと話をつけようぜ!」
***
パメラはケビンと会う約束をしている場所に向かった。
待ち合わせ場所は街から少し離れたところにある、人通りの少ない雑木林だった。
約束通りケビンが待っていた。
前髪がやや跳ねた金髪に、長めの鼻を持ち、高価そうな礼服に身を包んでいる。胸にはなんと薔薇を挿している。
キザな貴族を体現したかのような男だった。
「やぁ、待ってたよパメラさん」
「……」
パメラが黙っていると、ケビンは身振りをつけながら求婚を申し出た。
「僕と結婚してくれ」
「断る」
「ほう? 闘技大会で優勝できなかったのにかい?」
約束を破るのか、という嘲りを込めた目つきになる。こうすることが戦士であるパメラに一番効くと分かっているのだ。
パメラはこみ上げる屈辱感をこらえつつ、言い放つ。
「だって私には……恋人がいるから!」
「は?」
見計らったかのようにドルファが現れる。ドルファの巨体にケビンも後ずさりする。
「ガハハ、闘技大会で知り合っちまってな! こいつはもう俺の女だ!」
鋭い眼光でケビンを睨みつける。
「だから、とっとと消えな。お坊ちゃん」
これがドルファの作戦だった。あとはケビンが怖気づいてくれれば事は片付くのだが――
「ふん、そうはいかない」
ケビンが指を鳴らすと、奥からゾロゾロと鎧をつけた男たちが出てきた。
「こいつらは……!?」と驚くパメラ。
「我がドレーク家の精兵“十鬼士”だ」
誇るように笑うケビン。ドルファも彼の真意を察する。
「こんな人気のない林を待ち合わせ場所にしたことといい、こいつらといい、てめえ最初からパメラを無理矢理さらおうとしてたわけか」
「まあね。パメラさんは素直じゃないから、こうなることは分かってたのさ」
十鬼士の発する尋常ではない気配にパメラは焦りの色を浮かべる。
「逃げてくれドルファ! いくらお前でもこの10人が相手では……」
「安心しな」
「え?」
「こんな奴ら、俺一人で叩き潰してやる!」
ケビンが号令をかける。
「パメラを捕らえろ! あのデカイのは殺してもかまわん!」
十鬼士が襲いかかってきた。
貴族の精兵に相応しい、力と速さとチームワークを兼ね備えた一斉攻撃。
対するドルファはというと、ゆっくりと棍棒を構える。
「むんっ!」
棍棒の一振りで、敵はまとめて吹き飛んだ。
十鬼士は全員のびてしまった。
「な……え、え!?」
何が起こったか分からず当惑しているケビンに、ドルファが棍棒を突きつける。
ようやく事態を理解したケビン、悲鳴を上げる。
「ひっ、ひいいっ!」
「求婚するのはいいとしても、断られたらいさぎよく引き下がるってのが男ってもんだ。まして部下使って女さらわそうとするとはな……」
「ま、待てっ! もうパメラのことは諦めるから――」
「俺は“諦める”ぐらいで許すほど、体ほど心はでかくねえんだよ!」
振り下ろされる棍棒。
ケビンのすぐ前の地面にぶつけられた。
「ひっ!」
抉れた地面は、今の一撃が当たっていれば自分がどうなったかを容易に想像できるものだった。
「いいか、貴族なら貴族らしく誇り高く生きろや。もしまたふざけたことしてたら……今度はドタマに振り下ろすからな!」
「あ……ああっ! ひいぃぃぃっ!」
腰が抜けた足でよろよろと逃げていくケビン。
ドルファはパメラに顔を向ける。
「これで少しはあの坊ちゃんも懲りただろうぜ」
「ありがとう……」
「じゃあ、これであんたとの恋人関係もオシマイだ。楽しかったぜ」
立ち去ろうとするドルファをパメラが呼び止める。
「ま、待ってくれ!」
「ん?」振り返るドルファ。
「その話なんだが……。また……家に寄らせてもらってもいいか?」
上気したパメラの顔を見て、ドルファも赤面してしまう。
「そりゃかまわねえけど……」
「それじゃまた!」
「お、おう!」
走り去っていくパメラを見つめつつ、ドルファはもしかして俺にも春が来たか、と思うのだった。