第1話 ガハハ、トーナメント優勝だぜ!
モーガン王国首都にある闘技場にて、年に一度開かれる闘技大会。
武器や魔法なんでもありのトーナメント。出場者は全員腕に覚えのある者ばかり。
ハイレベルな戦いが見られると、会場は熱狂で包まれていた。
闘技場の脇に控える実況者が会場を盛り上げる。
「お待たせ致しました! 只今より闘技大会を開催いたします! 一回戦第一試合の組み合わせは――」
まず、舞台に出てきたのは身長2メートルの大男、ドルファ。
岩石を思わせるゴツイ顔つきをしており、首から下もその顔に恥じない肉体に覆われている。
「ガハハハーッ! 俺の相手はどいつだ!?」
その筋肉を誇示するようにポージングを決める。
対戦相手は――少年剣士のカイ。
まだ15歳ながら精悍な顔つきをしている。が、ドルファとの体格差は明らかだ。
観客からもヤジが飛ぶ。
「まだガキじゃねえか!」
「ドルファの相手になるのかァ!?」
「ママんとこ帰れや、坊や!」
自分の勝利を疑わないヤジに気をよくして、ドルファが豪快に笑う。
「ガハハ、一回戦はこんなガキが相手かよ!」
挑発するドルファ。しかし、カイは冷静に剣を構える。
「ボクがただのガキかどうか……試してみなよ、おじさん」
「誰がおじさんだァ!? 俺はまだ25だぞォ!」
「なんだ、てっきり40歳ぐらいだと思った」
顔を真っ赤にし怒るドルファ。巨大な棍棒を握り締める。
審判が試合開始の合図を告げる。
「始めっ!!!」
開始と同時にドルファは猛然と駆け出す。カイはそのドルファの突撃を冷静に待ち構えていた。
……
一回戦を勝ち抜いたドルファだが、次の対戦相手はなんと女だった。
ふわりとした長い黒髪と凛々しい美貌を備えた女剣士パメラが、これまた美しい所作で剣を抜く。
ドルファが笑う。
「おいおい、二回戦の相手は女だとォ!? 女が俺の相手になるかよ!」
「女だからといって甘く見てると痛い目を見るぞ。おっと、あまり女には縁がなさそうだが」
「なにぃ!?」挑発に怒りをあらわにするドルファ。
剣を振り、構えを取るパメラ。
「まぁいい……貴様のようなでくの坊、すぐに片付けてやろう」
「ケッ、優しく倒してやるぜ!」
「フッ……倒されるのは貴様だ」
大男と女剣士の戦いが幕を開ける――
……
パメラを宣言通り優しく倒したドルファ。三回戦の相手は老人だった。
拳法家ロン、熟練の達人である。
呆れるドルファ。
「おいお~い、三回戦の相手はジジイだと!? この大会はどうなってんだ!?」
「ほっほっほ……若いのう」
「あ?」
「腕力だけで勝ち上がれると思うとる。昔のワシを見ているようじゃよ」
「ケッ、戦いでパワー以外に必要なものなんてあるのか!?」
「それを教えてやろう……来るがよい」
手招きするように右手を動かす老人に激怒し、奥歯を強く噛み締めるドルファ。
「上等だァ! 覚悟しやがれジジイ!」
……
老師ロンを倒し、準決勝まで勝ち進んだドルファ。
次の相手は金髪で海のような青い眼を持ち、鼻筋の通った美青年だった。ローブを着ていることから、魔法使いであることが窺える。
「初めまして、私は賢者アレンと申します」
「賢者ぁ? てめえのような優男がここまで勝ち上がってくるとはな! この大会は猛者揃いじゃなかったのかよ!」
「ずいぶんと体格のいい人だ……私の魔法を試すにはちょうどいい」
不敵に笑うアレン。
「ああ、そうそう。一発でダウンしないで下さいね。試したい魔法が山ほどありますから……」
「おもしれえ! やってみやがれぇ!」
魔力を高めるアレン。
筋肉と魔法の頂上決戦が今、始まろうとしていた。
……
ついに決勝戦――
決勝まで無傷で勝ち上がったドルファ、その相手は灰色の布で全身を包んだ不気味な男だった。いや、正確には男なのかすら分からない。なにしろ顔すら見せていないのだ。
さすがのドルファも少々腰がひけている。
「不気味な野郎だ……!」
「ククク……」
「ん?」
「我が名はベルギス……。このトーナメントは我ら魔族の強さを見せつけるための遊びに過ぎン……」
「声がボソボソしてて何言ってるか聞こえねえよ!」
「始めようカ……。これまでの対戦相手はかろうじて生かしてやったガ、貴様だけは特別に血祭りにしてやろウ……」
「うるせえ! てめえをブッ倒して優勝するのはこの俺だ!」
盛り上がる観客。審判が合図する。
決勝戦が始まった。
……
優勝者が決まった。
「やったぜぇ!」
優勝者は大男のドルファ。全ての試合を一撃で決めてしまう圧勝だった。
しかも、絶妙な手加減であまり怪我をさせないように倒している。
「それでは、優勝者のドルファ選手には優勝賞金100万ベルと、トロフィーが贈られます!」
闘技場の支配人に賞金とトロフィーを手渡されるドルファ。
「ありがとよ!」
観客たちの声援を受けて、手を振りながらその場を退場するのだった。
……
ドルファが選手控え室に戻る。
するとそこには、偶然にもドルファが負かした選手たちが待機していた。
「あれ、お前らどうした?」
本来負けた選手がいつまでも控え室にいることはないのだが、彼らは敗北のショックからまだ立ち直れていないようだ。
「お母さん、ごめん……」と沈む少年剣士カイ。
「私としたことが……」女剣士のパメラも落ち込んでいる。
「やはり、若さには勝てんのう……道場は終わりじゃ……」悲嘆に暮れる老師ロン。
「魔法協会からの除名は免れないな……」青ざめた表情の賢者アレン。
「人間に惨敗するなド、魔王様にどう報告すれバ……」正体不明の戦士ベルギスも頭を垂れている。
この光景を見て、「もしかして俺に負けたせいで……?」とドルファも罪悪感を覚えてしまう。
「みんな、気にすんなよ! 勝負は時の運だって! 次の大会で頑張ればいいじゃねえか!」
柄にもなく励まそうとするが、五人とも反応しない。まるで「自分たちに次はない」と言わんばかりに。
「えぇっと……みんな何か悩みがあるんだろ!? もし、よかったら俺が相談に乗るからさ!」
やはり反応がない。
「じゃあ……ここに俺の住所書いた紙置いておくから、もし相談する気になったら来てくれよ! ……んじゃな!」
ドルファは控え室にあった机の上に自分の住所を書いた紙を置いて、部屋を後にした。
ドルファは一見粗暴だが根は優しい男である。せっかく優勝したのに、あまり喜べなくなってしまった。
***
大会が終わり、首都近郊にある自宅に帰ってきたドルファ。彼は大男だが、家は小屋といえる規模である。
ひとまず家に保存してあった骨つき肉をかじる。
「ふぅ、うめえ! 大会も優勝したし、今日はいいことづくめだな!」
持ち帰ったトロフィーは棚に飾る。
「これでよし。殺風景な部屋にトロフィーだけ豪華で、なんだか浮いちまってるけどまあいいか」
100万ベルの札束はテーブルに置く。
「賞金ももらったはいいけど、金の使い方なんてよく知らねえんだよな。いずれ、豪勢なメシでも食べる時のためにとっておくか」
体と態度は大きいが、欲はさほど大きくない男であった。
すると――
「ん?」
ドアをノックする音がした。
「誰だ?」
ドアを開けるドルファ。
そこには先ほど倒した少年剣士カイの姿があった。
「お前……さっきのガキ……カイっていったっけか」
「……」
カイは深刻な表情をしている。
何か自分に頼み事があるのだろうと察したドルファ。
「お前……何か悩み事があって、ここに来たんだろ? 話してみろよ」
「うん……」
カイは土下座をした。
「お願いします! お金を貸して下さい!」
「え!?」
10歳年下の少年に土下座され、ドルファは戸惑ってしまった。
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