第十二話 第一王子の憂鬱
恭介が国境の街から屋敷にトンボ帰りしている頃、最前線で戦う第一王子「ヘンリー・オンディーヌ」率いる第一軍は連戦連勝の快進撃を続けていた。
「オンディーヌ王国」は風の神を祭っている国であり、大陸の中央に位置している。
全方位他国から攻められる可能性があるが、建国以来領土を奪われた事がいちども無い堅守の国として有名である。
一方、対する西の国の名は「ザラマンドル王国」火の神を祭り、かつて『時渡りの剣聖』たる勇者が所属した事で、最盛期は大陸一の領土を誇っていた国である。
しかし、こちらは先代オンディーヌ王とカイル辺境伯の圧倒的戦闘力と不満が溜まっていた自国民に裏切られる形で大きく領土を失っていた。
先の戦争から時間がたっても一度失った国勢というものは中々回復せず、それが今までの戦いの結果として明らかになっている。
今日もオンディーヌ王国陣地では夕暮れ時に引き上げて戻って来たヘンリーを称える声で沸いている。
「やれやれ、毎日飽きもせずに良く騒げるな。飯を食ったらさっさと休んで欲しいのだが」
天幕に入り呆れたように副官に愚痴をこぼすヘンリー。年の頃は20半ば。180センチ越えの眉目秀麗な金髪碧眼の青年である。
「ごもっとですがお許しください。なにせここ数十年戦争が無かったので兵達も殿下のお見事な戦いぶりに高揚感を抑えられない者が多いのです」
かつての戦争を知る壮年の副官が苦笑いしながらフォローを入れる。
しかし、ヘンリーの表情には連日の格下相手への連戦での若干のモチベーションの低下が見え隠れしている。
「相手が弱すぎるだけだ。歴史に名を遺す火炎魔法騎士団・・・本当に形骸化しているようだな」
「前の戦争まではそこそこの戦力だったみたいですが、若き日の陛下とカイル辺境伯の前に敗れて以降は技術継承が上手く行かなかったようですな」
事前に諜報部から情報は得ていたものの、流石にここまで情報通りだと拍子抜けする。
「それに、戦は順調かもしれないが、こちらも問題を抱えている」
「補給部隊の造反の一件ですか・・・伯爵家のクーデターでは無さそうだったのが唯一の救いでしたな。」
「いや、それよりも俺が懸念しているのはここで父上が・・・」
ヘンリーの言葉は天幕内に慌てた様子で入って来た騎士達の声で中断させられる。
「殿下ー!たった今、国王陛下が近衛兵を連れて出陣されました!!」
王子は頭を抱えた。
「やはりこうなったか・・・急いで援軍を編成するぞ!」
「はっ!!」
急いで軍を再編成して夜間の強硬出撃をした兵士達が夜明けと共に、ボロボロになった城の城壁の上で近衛兵と酒盛りを始めてる国王の姿だった。
~ その頃の恭介 ~
とんぼ帰りを指示されたとはいえ夜間の移動は難しいのでは?
と思っていたら近衛の皆さんから夜間も移動できる馬車という明らかにバグってる馬車を提供されたので好意に甘えたが本当に快適でワロスw
アイリーンに起こされてるまで完全に寝てた。馬車ではありえん快適さだった。
「それは良いんだけどアイリーンさんや」
「わかりません」
「いやいや、俺史上最優秀専属メイドたるアイリーンさんならこれくらいの説明わけないでしょ?」
「それって私一人しかいませんよね!?」
いやーだって聞きたくなるでしょーよ。
勝手に爵位譲渡された挙句に屋敷もどったら王国の近衛兵の方々に占拠されてるんだから。




