第十話 あっけない勝利と予想外の展開
「農場から移動してきただけなのに、何故そんなボロボロになってるんっすか?」
国境の街に着いて合流してリスティから呆れた口調で言われて言葉も無い。(正確には喋る元気がない)
一方のアイリーンと来たらノーダメージですました顔で俺の後ろに控えている。
さっき凄い形相でイチゴを奪ってきたあのシーンを撮影できるスマホとかデジカメをこの世界に持って来ることが出来なかったのが残念でならない。
「俺のダメージはさておいて、状況は?」
「バッチリですよ♪こちらをご覧あれ」
どや顔ウインクでしながら取り出りたのは一見なんの変哲もない川の袋。でも俺は直感でこれが自分の『図鑑』と同じものである事を感じる。
「ちなみに既に牧草は全部街の倉庫に格納済みです」
「え!?もうそこまでやってるの?有難いけどさ!!」
詳しく話を聞くと、お気に入りの娘からの手紙を受け取るなり、一人で昼間はあまり人気のない娼館に向かった所を捕獲したそうな。
その後、どうやって言う事を聞かせたのかは深い追及は避ける。
何せ長年に渡り戦争と小競り合いを繰り返していた最前線。スパイや敵兵から情報引き出したり懐柔したりするノウハウは幾らでもあるはずだ。
その辺りのダーティな話はあえてスルーして聞きたい情報だけを聞く。
「一応軍人のクセにちょっと捕えてヤキ入れたら簡単に言いなりになりましたよ」
可愛い顔して悪い顔になってるリスティに苦笑いしながら手渡された『袋』のリストを見るが・・・想像以上にエグい内容に戦慄する。
辺境伯領各地から搾り取った異常な量の食料のみならず、金品が大量にリストに載っている。そして明らかに異質を放つ項目が一つ。
「大量にある建物の名前は何?」
原典にあるコテージやテントに始まり、家やら蔵やらがあるってどういう事だ?
「いや、それがですね・・・」
途端に表情を暗くして歯切れが悪くなるリスティ。
さらに話を聞くと、恐るべきことに『袋』は建物ごと人を閉じ込めることが出来るらしく、
『ヒューム伯爵家』の子女達が取り出した建物の中から見つかったそうだ。
「人質にして好き勝手を始めた訳か・・・でもそれだけで済むわけないよな」
そこから先の話は・・・自分で促しておいて何だけど、あまり愉快な物では無かった。
人身売買に輸出禁止な希少動物等を大量に保有していたそうな。街の広い公園はその『被害者達』への対応で野戦病院状態らしい。
きちんと耳を澄ませば、街の入り口からでも大分慌ただしい人の動きと喧騒が感じ取れる。
「まさか建物に入れれば『生き物』ごとを格納できるとは・・・」
原典にそんな機能は無かった筈なので、俺の品種改良品を出すのと同じく追加で実装された機能なのだろう。
殺せば『袋』ごと中身が消失の可能性大とあっては伯爵もどうしようも無かっただろう。
「他の輸送部隊の連中はどうしてる?」
「殆どは娼館や飲み屋で頃酔い潰されてると思うッス。その他の留守番連中は自分と街の守備隊で捕縛済みです」
何でもここ数年ガラが悪くなって軍隊として練度が低いと悪評が他くなっているこの第二補給部隊は簡単に捕えることが出来たらしい。
まぁ、そもそもトップが任務中に娼館に行ってしまうんだから下の連中のモラルも推して知るべしって感じか。
「良し、ここ数年で隊の連中が変わってる事実と併せて全員真っ黒だからそのまま牢に入れてくれ。問題は補給部隊の荷をどうするかだよなぁ・・・」
袋以外の普通に運んで来た荷物だって約3万単位の軍の補給なんだから相当な量だ。
「言うまでもありませんが一々検品している余裕はありません」
「分かってるけどさ~こんな連中の食料を前線に運んでいいか考え物だよな~」
やっぱり俺が馬車馬のようになって食料を供給するしかないか・・・
領内に種を送るのとは訳が違う未体験ゾーンの稼働を覚悟していると、リスティが五指のポシェットからやたらと豪華な封蝋付きの手紙を差し出して来た。
「誰からの手紙・・・ってこの封蝋は王家のじゃん!?」
「はい、こっちに向かう直前に諜報部を名乗る人に渡されました。前線に居る国王陛下からだそうです」
え!?俺が国の諜報部のお力借りて調査してから殆ど1日しかたってないのに王から手紙来るってどういうこと!?




