ロストワールド3
【1939年 2月 10日 ノイシュバーベンラント 拠点】
リッチャー達は道に少し迷いながらも、拠点までの帰還に成功した。しかしラプトルによる襲撃によって30名いた隊員は3分の1までその数を減らし、さらに道中もラプトルの追撃でさらに減り、最終的に帰還できたのはリッチャー含めたった4人だけであった。
拠点に帰還した彼らを研究者や護衛していた隊員は驚き、何があったのかを尋ねた。
リッチャー達の話を聞き、今後の調査を継続するか撤退して本国に戻るかが議論された。
最終的にはリッチャーの判断で本国に撤退することを決めた。探検隊は撤退する準備を進め、内海に停泊しているシュヴァーベンラントにことの顛末を伝えた。
こうして準備を完了した探検隊は11日に拠点から内海に向けて出発した。しかしここで思わぬ事態が発生した。湖で水を飲んでいた恐竜達が突然警戒し始めたのだ。最初自分達に警戒しているのだと思っていたがどうやら違うようである。恐竜達は南にある森の中にいる何かに熱い視線を向けていた。探検隊も注意深く見ていると中から巨大な2匹の恐竜が現れた。その口にはギラリと大きな牙がのぞいている。大きさは10mは超えているように見えた。二足歩行で手は驚くほど小さいが頭部は非常に大きかった。2頭の間には一回りほど小さいものがいた。どうやら親子らしい。
その親子を観察していると親が子供を一瞥すると親は小さく吠えた。それを確認すると子供は一目散に湖に向かって走り出した。どうやら狩りの練習らしい。しかし子供は狩りにまだ慣れていないのか、まるで古代のスパルタ兵のようにツノを全面に出して円陣を組み子供を守る恐竜に怖気付いてしまった。
子供も8mはあるかという巨体ながら、子供を守ろうとするトリケラトプスの覇気に圧倒されてしまった。子供は何回か円陣に向かって吠えて諦めてしまった。
しかし諦めきれなかったのか、次の目標をその光景を呑気に眺めてしまった探検隊達に向けた。隊はノイハンブルク港にある「穴」まで追いかけ回された。探検隊10人のうち、応戦して皆を逃がそうとした探検隊員4人が犠牲となった。隊員はライフルで応戦したもののやはりここでも何故かライフル弾は戦車に当たったかのように音を立て弾かれた。
なんとか内海までたどり着き、陸地に乗り上げているUボートの艦砲で内海まで追ってきた子供を撃退した。
長い間放置されていたのにも関わらず運良く艦載の88mm機銃は一発だけ発射することができた。
子供はこの時の砲撃にはさすがに応えたらしく、ひめいのような鳴き声をあげた。仕留められると思っていた探検隊達を置き去りにして、内海の浜から親のいる森へと逃げ帰った。それ以来彼女の首にはその時にできた傷が残り判別する手段となった。
その光景を見ていた船員は急いで彼らをカッターで回収した。船内で治療を行い、すぐさま水路を抜けて祖国ドイツ・ハンブルク港へ向けて舵を切った。
彼ら探検隊の冒険談は建国神話として現在でもドイツ国の教科書に大きく誇張されながら語り継がれている。
この時襲ってきたのはティラノサウルスと呼ばれる恐竜である。体長13m体重6トンもある大型肉食恐竜である。武器は優れた視力や嗅覚、巨大な顎にズラリと並ぶ太い牙である。足もラプトルほどではないが早く時速約40キロと当時のトラックほどのスピードが出た。通常は夫婦で狩りを行う。この事件以来この子供は人間を酷く憎むようになり、さらにドイツの開拓・移民・ドイツ国建国によって自分達の生息地を奪われたことでしばしば、ドイツ国防軍と戦闘を繰り広げた。その戦いの中で兵士達は彼女のことを北欧神話の戦神トールと呼ぶようになり、彼女の名前として広く知られることとなった。再建計画「ヒョウアザラシ」を進めたいマルチン・ボルマンはこの化け物との闘争を終わらせることを国防軍に強く命じた。最終的にこの闘争が収束へ向かうのは1945年のことである。