内海
【1939年 2月 2日 シュヴァーベンラント 会議室】
謎の海棲爬虫類と思われる生物と遭遇した一行は疑問に思うことが一つあった。
なぜか大陸側から10m以上はある生き物が現れたのにも関わらず、連絡を得た探検隊はその生き物の足跡などの痕跡が一切見つけられなかった。しかしパイロットは「ヤツは陸地の方からいきなり現れた」と言う。
会議室ではあの生き物がどこから来たのか、様々な仮説が立てられ、検証されていたがどの説も決定打に欠けており、無駄に時間が浪費されていた。それを変えたのはリッチャー隊長であった。
「そろそろ良いだろう。ここで話をしていても何か変わるわけではないだろう。まずはヤツが最初に現れた位置を小舟で探ってみよう。」
こうして小舟によってヤツが最初に目撃された付近の沿岸を調査してみると、ヤツが通って来たと思われる大きめの水路を発見した。どうやら周りにある氷山や氷河によってカモフラージュされていたようだ。小舟を格納した船を「入り口」の前まで移動させると船長が航海長に尋ねた。
「大戦後にイギリスに流れついた連合軍輸送船船長の手記は知ってるか?」
「いえ、存じませんが、、、何が書いてあったのですか?」
「そこにはな襲ってきたUボートを乗っ取ったはいいものの、そのUボート艦長の妨害工作で南極まで流されてしまったようだ。そしてそこで唯一の入り口である狭い地下水路をくぐり抜け、島の内海に出たらしい。」
「ということは船長はこの入り口の先には内海があると推測しているのでしょうか?」
「ああ、そう見ている。この先本当に内海があり、船が大量に入港できる大きさがあるとしたら他国に干渉されない安全な基地となる天然の港が確保できる。最初はこんな土地にそんな都合の良い土地があるもんかと思っていた。なによりこの船も海の上で吹きさらしになっているよりはいいだろう。」
「本当ですよ。ここならヤツも追って来れないでしょうから。小説とかみたいに襲われるのではないかとヒヤヒヤしていましたよ。」
そう笑う航海長と一緒に笑っていた船長には一抹の不安を感じていた、、、
船はそんな船長をよそに水路をゆっくりと進んでいった。水路は探検隊員達が思っていたよりずっと長く、しばらく進んでいると大きく開けたところに着いた。
周りはぶ厚い氷河の壁に囲まれていた。水道から湾まではまるでTの字をような形をしており、湾は広い楕円形をしていた。艦隊の1〜2個は余裕で入港できるほどの余裕がある内海であった。そして船長の話していた話の通りに古めかしいUボートが一隻停泊していた。U31型潜水艦であろうか。その姿から長い間整備されていなかったであろうことは一目で分かった。艦体はボロボロで多くの備品も遠くからでもわかるほど劣化していた。
船底を擦る前に小舟を繰り出し、深度を測定した。ある程度の深度があることがわかり、船の錨をガラガラと音を立てつつ下ろした。
「ずいぶんと広いなぁ。まるで小説に出てくる秘密基地にピッタリな場所だな。」
「まったくその通りですよ。良い基地が造れそうです。」
「まずは調査だな。臨時の臨検隊を組織してあの古めかしいUボートを探ろう。」
「了解しました。隊員を至急選別します。」
こうして23年ぶりにこの湾に新たな来訪者が訪れた。