逃走劇
【1942年 2月 26日 ドイツ バーデン=ヴュルテンベルク州 船内】
夜が明けてきた頃、彼らは現在の状況に多少の怒りも覚えてはいたものの、大半のものはこの星で起こっていることを考えると仕方がないとも思っていた。
「彼ら」はこの星に遭難してきた。
地球でいう「台風」のようなものに巻き込まれて。
彼らの所属している国家(惑星)は星間戦争を繰り広げている真っ最中で「彼ら」は物資を母星に送り届けるために輸送船団を組み、その航海に挑んでいるところであった。しかし彼らの船は嵐に巻き込まれた影響か通信システムが故障し、長距離ワープシステムも大半の船は稼働したものの一部の船は故障してしまった。
置き去りにもできないため、とりあえず現地の生命体に助けを求めることになった。しかし彼らも遭難した船の乗員が現地の生命体に殺されてしまった話を聞いていたので、彼らは現地の生命体の情報を集めることにした。
そこで地球でいうインド洋や南太平洋、ソロモン諸島で生命体の観察を始めた。彼らの戦闘機などを追尾し、戦場を監視するように飛び回った。
その結果この惑星では現在自分たちと同じように戦争の真っ最中であることや彼らの文明のレベルが自分達基準の中世であること。またその惑星の中でほとんどの発展している大陸で戦争が起こっているものの、一つだけずば抜けて発展している割に戦火が少ない大陸を発見したこと。しかし遠くから眺めて居ただけで対話などをしたわげではないため、それ以上のことはわからなかった。後に彼らの行った観察はもちろんは観察される側も気づいており、連合国・枢軸国それぞれの上層部にも情報が届いたほどであった。
追いかけ回された戦闘機のパイロットは戦後「まったく、今までの人生で見た中で、一番畏敬の念を起こさせるもので、一番おそるべきスペクタクルだった」と述べている。
彼らは観察を終了すると、救援を求めるために発展してる割に戦火がまだ及んでいないと判断したアメリカ合衆国・ロサンゼルスに訪れた。しかし結果は先の通りの状態である。彼らは予想だにしないほどの猛烈な対空砲火という名の歓迎を受けることとなった。
ロサンゼルス上空で迎撃されてしまった輸送船団15隻の内、ワープ航法が使える船はほとんどが逃げ出した。しかしロサンゼルス上空の対空砲火で被弾してしまった4隻とそもそも遭難した時にワープ航法システムが破損した2隻の合計6隻は地球に取り残される羽目になってしまった。
彼らはアメリカ大陸から急いで離れた。幸い彼らの船は時速40,000kmほどの最高速度を発揮することが可能であったために脱出に関して特に心配はなかった。しかし致命的な被弾をしてしまったものは脱出した以降はエンジンに負荷をかけないために巡航速度で飛ぶしかなくなり、あまり長くは飛べる状況ではなかった。さらに食料も担当の船が宇宙へと脱出してしまったがために、残り僅かしか残っていなかった。
こうして彼らが途方に暮れている時であった。彼らの短距離通信装置のもとに消えるような小さい電波であるが救援要請と思わせる通信が入ってきた。しかも相当に古い救援要請であった。その通信はアメリカ大陸を挟んだ反対側のヨーロッパ大陸から流れているようであった。彼らはその通信に小さな希望を抱いてヨーロッパ大陸の中央にあるドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州ハイデンハイム郡シュタインハイムに向かった。
そこには船はなく上空からでもわかるほどの大きなクレーターだけが残され、その周りには現地住民も暮らしているようであった。彼らは休息も兼ねてそのクレーター付近に着陸した。どうやらクレーターを作ったであろう船は地中奥深くに眠っているようであった。
こうして彼らは地上に降り立った。実はこの時、フランスにあるドイツのレーダー網が彼らの機影を捉えられていた。しかし明らかに地球の飛行機では早すぎる速度によって迎撃機がい追いつけなかった事とシュタインハイム・クレーターにあろうことか着陸した事からドイツ空軍は上層部に連絡を入れ、上層部は現地の調査と謎の飛行物体の回収を陸軍に命じた。
「彼ら」と出会った時、ドイツ陸軍の偵察隊はその奇怪な乗り物と乗っていた乗員を見て困惑したものの偵察隊員の1人がジェスチャーで彼らと会話を試み始めた。意図を読み取った「彼ら」もジェスチャーによって敵意がたいことや自分達が助けを必要としていることなどを伝えた。これが世界初の地球外生命体との初めての交流であった。
しかし通じ合ったと言っても、彼らは不法入国者ということで、暫定的に現地に彼らと彼らの宇宙船を収容する施設が設置されてそこに収容されることになった。近くの住民達には隕石落下が起き、そこから謎の『ペストのような』病原菌が発生したということにして待避区域を設定して彼らとの関係を極秘扱いにした。その理由は彼らの持っている船と彼らの知識をスパイに漏らさないためである。
後に彼らの言語を知り、また彼らがドイツ語を話せるようになるとことは大きく進むようになる。収容施設だった建物は改築されて、大きな研究施設と宇宙船の基地として生まれ変わった。研究員や上層部の間では第2のペーネミュンデと呼んだ。宇宙人達は秘匿のため「Bereich 88」と呼ばれることとなるドイツ空軍管轄下の施設でドイツへの技術提供の代わりに快適な安住の地を手に入れるはずであった。しかし彼らも3年後のソ連軍の進攻によって二度目となる逃走劇を繰り広げる羽目となる。




