2話
親切な方々に方向を示してもらって小一時間。
何もない、たまに小動物が駆け回る平原を歩き続けた先に石造りの大きな城門が見えてきた。
門番が二人、とりあえず声をかけ…
「止まれ!」
「は、はい」
先に威圧されてしまった。
「何の用でメリスに立ち入る」
転生してきたなんて言ったら2度と口を聞いてもらえないかもしれないから…
「えと、旅の者です。食料などを調達するべくこの国へ来ました」
「…何の荷物も持っていないじゃないか?」
一瞬で怪しまれた。まずい。
「盗賊に取られて…しまったんです」
「なるほど…またガロン盗賊団の仕業か、いいだろう、貴様を通す」
「おお、ありがとうございます」
筋は通ったらしい。
この辺には盗賊がうろついているのだろうか。
物騒だが、今は少し助かったと言えるかもしれない。
「ようこそメリスへ、問題を起こさぬように」
----------------------------------------------------------------
とりあえずメリスに入国。
ただ今の所持品は着ている体操着とタグホイヤーの腕時計のみ。
とりあえず国民の視線を集めまくる体操着を着替えたいが、金の価値すら不明なこの世界ではどうしようも無い。
このまま考えても埒が開かなそうなので、長椅子に腰掛けているおばあさんに、職業案内所の場所を聞いてみる。
金は、大事だからな。
「少しいいですか?おばあさん」
「おや?見かけない格好だねェ」
「外から来た者です。それで、この辺で仕事を探せる場所はどこにあるのでしょうか?」
「お兄さん、若いから冒険者ギルドがいいんじゃないかい?」
冒険者ギルド、物騒な所じゃないといいが。
「わかりました。行ってみます」
「それにしても言葉遣いが綺麗だねェ、生まれは貴族かい?」
「いえいえ、普通の…」
「そこのクソガキィ!!!ワシの嫁を奪うつもりかぁ!!!」
「うわ、なんか来た!」
「あらあらジェイソンさん、誤解だよ」
「待ちやがれこの、よくわからん格好のガキ!!」
「なんで俺が50歳くらい年上のおばあさんを口説くんだよ!」
こうして場所を教えてもらった俺は、おばあさんの夫であろう男から逃げながらギルドへ向かった。
ここがギルド本部か。
外装は意外に綺麗な木造建築で、扉の上にはみたことのない文字で何か大きく書かれている。
対話はできても文字は読めなかった。
改めてここが異世界であると再び実感させられながら、俺はドアを開けた。
「元はと言えばこのガキが俺様にジュースこぼしやがったのが悪いんだろうが!」
「この子はさっきから謝ってるじゃない!大人らしく許せばいいでしょう!?」
「ごめんなさい…ごめんなひゃい…」
…間違えたかな、入り口。
荒くれと魔女っぽい女性がやいのやいのと言い争っている。
見たところ荒くれのズボンの股間部分が紫色に染まっている。
少年のジュースが、偶然股間にかかってしまったのだろう。不幸にも。
「階段……2階があるのか?」
もしかしたら上の階がちゃんとした異世界ハローワークなのかもしれない。
喧騒はとりあえず放っておき、階段を登った。
「ようこそ、冒険者ギルド・メリス本部へ、本日はどのような用件で?」
本当によかった。まともな仕事はここにありそうだ。
「初めて来たので色々説明して欲しいのですが」
「ではまず冒険者登録しましょうか。こちらの羊皮紙にサインをお願いします」
そういってギルドの職員さんから紙と羽ペンを受け取る。
初めて使う異世界の筆記用具でどうにか自分のサインを記し、紙を提出する。
「ありがとうございます。発行はすぐにできるのでおかけになってお待ちください」
近くの椅子に座る。
無骨な作りだが、ホコリやゴミが溜まっていないため清潔感を感じる。
「お兄さん、お兄さん!もしかして一人ですか?」
知らない少女に声をかけられた。
「俺か?」
「そうです!もしお独りでしたら私と一緒に一稼ぎしませんか?」
「・・・まだギルドカードすら受け取ってないのだが」
「大丈夫ですよ!発行されれば即冒険者ですから!」
おそらく彼女も今は一人なのだろう。
今日はこの少女についていき、この世界のことを聞いてみる日にしよう。
あわよくば仕事で食事にもありつきたい。
「わかった、今日はよろしくな」
「ありがとうございます!私はアルと言います。それではギルドカードを受け取り次第仕事選びに行きましょう!」
----------------------------------------------------------------
「えっ、俺のギルドカードがおかしいだって?」
「ええ、私もこの仕事で何枚も刷っているのですが、こんなことは初めてですよ」
「うんうん、生きているのがおかしいくらいだよ」
ギルドカードには氏名、年齢、冒険者ランク、そして魔力適正というのが書かれてある。
「とりあえず、各項目の説明をしておきますね、氏名と年齢はここに、そしてこれが冒険者ランクです」
「依頼を見つけて、こなして、報酬を受け取ることで上のランクに上がるの」
「なるほど、それでこの魔力適正というのは」
「問題はここなんです」
職員さんの説明によると、この世界には8つの属性があり、人々は生まれ持った適正によってどの属性を行使できるかが決まるらしい。
普通の人間は、火・水・風・地・雷・氷・光・闇の内どれか一属性以上持って生まれてくるのだが、俺のギルドカードにはどの属性が使えるかが書かれてなかったのだ。
つまり地球人はこの世界において魔法は使えないらしい。
アルのギルドカードを見ても魔力適正のところに色々書かれてある。
「貴方の黒目は何の小細工もなかったのですね」
「目だって?目と魔法が何か関係があるのか?」
「重要よ。普通私たちは使える属性と同じ色の目をしているの。例えば火属性なら赤、氷属性なら水色ね」
「つまり複数の属性を操れるものは目が白に近いってことか」
「そうゆうこと。そして君の目は黒い。これは闇の魔法で相手の認識を阻害するときくらいにしか見られないわ」
神め、少しくらい魔法を使える体にしてくれてもいいじゃないか。
「全く、この世界の俺は魔法も使えず肉体労…おや?」
カードの裏に何か書いてある……[summon]?
なぜ異世界で作られたものに英語が?
「このカードの裏に書いてある文字、読めますか?」
「…初めてみる言語だな、君は読めるの?」
「俺は読めるが…職員さんは?」
「…神殿へ」
職員さんが急に真面目な口調で話し出した。
「神殿へ行ってください。そこで意味がわかります」
とても重要なことを話している雰囲気だ。
おそらくこれはただの落書きではなく、少なくとも俺の人生に大きく関わることだろう。
「わかりました」
「わ、私も一緒についていきます」
「いや、アルが来る理由は無いだろう」
「だって、面白そうだよ?」
「何が」
「気まぐれに誘った人が大ごとに巻き込まれそうな雰囲気なのが」
アルは思ったよりガキっぽいやつなのかもしれない。
だがやはり、道案内がいるのは心強いので…
「わかった、では神殿までの道を教えてくれ」
「りょーかい!」
こうして俺たちはギルドカードの謎を明かすべく神殿へ向かった。




