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未来ノート ~幼馴染の甘くて痛い、不明瞭な感情~  作者: 餅月兎
第一章 清水伶香は砂糖のように……。
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バタフライエフェクト・I

 今日一日、緊張や恐怖で気が滅入ってしまいそうになる。

 でもまだやることがある。


 授業が終わり、帰りのホームルームがすぐに始まった。


 ホームルームの間、なんと言い返すべきかと考え過ぎているあまり、堂々と両腕を机の上に置き、両手でしっかりとしおりを持ってしまっていた。


 しおりを見つめる。とても綺麗な絵だ。夜空に打ち上り、海面に反射する花火、遠くにある明るく光る建物やガントリークレーン。


 しおりに見惚れていると、右の方から視線を感じた。

 右を向く。伶香が少し驚いた顔で熱海の持っているしおりを見つめている。そのあとすぐに目線を上げた伶香と目が合った。


「……」

「……」


 今はホームルームの最中で、先生が話をしている。だが先生の声は聞こえず、なぜか周りは静かに感じられた。今朝のような数秒の見つめ合いの時間。


 伶香は少しうれしそうな顔をしている。そんな顔をされて見つめられるせいか、顔が熱くなるのを感じた。

 緊張と焦りで縮こまってしまう。それと同時に意識がはっきりとしてきた。先生の声も徐々に聞こえてくる。見とれていたのかもしれない……。


 熱海は伶香を見ながら小さく頷く。先生が話している最中のため「ちゃんと話を聞け」と注意されかねない。返すのはホームルーム後に、という意味で頷いた。伶香も察してくれたようで小さく頷き、先生の話を聞き始めた。頭を冷やすためにもちょうどよかった。


 それから五分くらい先生の話があり、ホームルームが終わった。


「浜北さん、そのしおり……」


 ホームルームが終わるとすぐに伶香が話かけてきた。


「あぁうん。これ清水さんのだよね。名前が書いてあった」

「はい、ありがとうございます」


 伶香の口から「見つかってよかった」と小さな声が聞こえたような気がした。しおりを両手でやさしく握りしめている。それほど大切にしていたモノなのだろう。安心した表情を見せている。

 あまり感情や表情を表に出さない子のようだが、その表情はなんとなく読み取れた。もしかしたら靴箱で探していたのはしおりだったのかもしれない。


 その後、伶香は何も聞いてはこなかった。熱海もあえてそれ以上は何も言わなかった。どこで見つけたのか、などと話が広がってしまうといろいろと困る。


 熱海はもう疲れ切っていた。今日はもう帰って寝たい気分。


 伶香はスマホをいじっていた。文字を打っているようだ。メッセージのやり取りをしているのだろうか。


 視線を感じ、廊下に目をやると巧が手招きしているのが見えた。またニコニコしている。

 熱海は立ち上がり、かばんを持って教室を出た。


「なんだ?」


 ニコニコしながら巧がそう言った。


「いやそれは俺のセリフだろ」


 熱海はそれに突っ込む。


「さっき何してたんだ」

「しおりを見つけてさ。返してたんだよ」

「これはもうしおりによって結ばれる運命だったんだな。しおりから赤い糸が――」

「運命、ねぇ……」

「バタフライエフェクトだよ。運命って怖いねぇ」

「俺にはよくわからん」

「そうかそうか。まぁいずれ熱海くんにもわかる時が来るさ」


 わざとらしく言う巧がなんとなくムカつく。ムカつくとは言ってもふざけ半分だが。


「はいはい」


 言いながら軽く手を振っておいた。


「じゃ、俺はお先に帰ります」


 とだけ言い残し、巧は足早に階段を下りていった。

 熱海ももう学校での用はないため、靴箱へ向かった。

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