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プロローグ
8/16

仕込み鉄扇

 ロマンとは、仕込みとは。それは実用性の無さを内包するものである。

 鉄扇とは。それは武器ではなく、ただの硬くて重い扇子である。

 以上より、仕込み鉄扇とは、ただの実用性の無い硬くて重い扇子である。

[Q.E.D.]


 木立は言った。僕は言う。


「全然違う。」

「何が違うんだよ。」

「ロマンとは芸術で、仕込みとは変形だ。そして鉄扇はロマン武器っ。ここから導き出される答え、それは、」

それは!

「仕込み鉄扇とは、変形する芸術作品だ。」

 はいはいそうですね。と言いつつ木立は先に進む。



 現在、無事に猪と鹿を狩り、帰宅途中である。鹿と猪を木立に持ってもらい、体力の無い僕はゴブリンだけを重そうに担いでいる。

 情けない限りではあるが、二十年間、一ヶ所から動かなかった人の体力が多いはずもなかった。


 少し山道をそれて進んだから、周りはうっそうとしている。

「ここは木立?」と訊くと

「違う。」と返ってくる。

 木立には道が分かっているらしく、どんどん進んでいく。夜になるのも少し怖いから、僕も早足で後を付ける。


 魔物は野性動物と同じで、基本的には人を襲うことはない。しかし、一部の魔物は積極的に人を襲うらしい。


「クマ型の魔物はだいたい襲ってくるね。後は、虫系の魔物もたまに襲ってくる。」


 虫か。大きい虫には、襲われないにしても会いたくないものだ。想像するだけで寒気がする。甲虫や蝶、例外的に日本のザトウムシだけなら大丈夫だが、他の虫は全般的に苦手だった。



ふと、後ろから差し込んでいた日が隠れる。何かと思って後ろを向くと熊がいた。

三メートルくらいありそう。

 まさに噂をすれば影がさすという感じ。



 僕らは急いで距離を取る。


「あれは何?」

「通称フォレストベア。日本名はモリノクマサン。普通にめちゃくちゃ硬くて速くて強い。」

つまり普通の熊か。


 熊が追いすがるので、僕らは示し合わせて二手に別れる。獲物は諦めて捨てる。


 熊は一瞬僕らの獲物を見て、その後木立の方を追う。

 僕は弓を出して狙いも付けずに射った。矢は熊の背中に当たるが、皮に刺さったような気配すらない。


 普通なら物理的に硬い敵って、魔法には弱いんじゃないのか?


 効果はなくても、矢は熊を刺激したらしい。熊は僕の方を向いた。


 僕は鉄扇を開き、その羽のうち端の一枚を持って振る。弓は閉じてポケットにしまう。

 鉄扇は刀のような形になる。


 僕は緊張を忘れて一瞬感動に浸るが、すぐに熊に対峙する。

 熊が突っ込んでくるので全力で避け、刃先を脇腹に当てると少し切れた。

 どうやら怒ったようで、大声で吠える。


「〈超無音〉。」

 僕は呟く。多分発動してるだろう。そのまま伏せて僕は動かない。

 その様子は見られていたようで、熊は迫ってくる。


 熊の背中に魔法が当たる。何の魔法か分からないが、熊の怒りを買ったらしい。向きを変えて走っていく。

 僕は後ろから追う。


 熊が減速したところで迫り、弓を出してさっき付けた刀傷の場所に当てて接射する。

 熊に気づかれたが、気にせず射った。



 矢は熊を貫通したが、死ぬ様子はない。多分内臓は傷付いているから何日か経てば死ぬと思うが、その前に僕らが殺されるだろう。


 熊の腕が後ろに振られ、爪がかすって頬から血が出る。恐怖心が増し、全力で走る。熊が追いかけてくるような音は聞こえないがどうしたことかと、途中で止まって後ろを見ると、熊は魔法で攻撃されていた。

 全く効いているようには見えない。

 

 魔法が効かない敵。倒すには鉄扇しかないかと思う。買っといて良かった。

 熊の真後ろに位置取り、近寄る。


 熊は誘導されるようにまっすぐどこかに進んでいて、こちらを向く気配はない。

 時折激しい動きをするから、タイミングの見極めが難しかったが、三回ほど近付き、離れるのを繰り返したところで熊を思い切り刺した。

 肋骨の下の辺りから突き上げるように。


 熊は少しの間暴れ、静かになった。どうやら倒したようだった。



 遠くから木立の声が聞こえる。

 声だけではどこにいるのかいまいち分からなかったので熊の近くで待っていると、木立が森の奥の方から歩いてきた。


「よく倒したね。」

 ねぎらい半分、呆れ半分みたいな口調で言われる。

「誘導してくれて助かった。」

僕がそう言うと木立は首を振る。

「そういう訳じゃない。」


 事情を聞いたところ、木立は熊を山奥に連れていこうとしていたらしい。

 山の木の分布はランダムで、実は山奥の一ヶ所に小さな木立があるとか。


「そこに向かって誘導して、〈精霊の力〉で別の木立に飛んで撒こうと思ってたんだ。」


「殺すつもりはなかったのか。」


「まあ、殺せないと思ってたし。さっきのゼロ距離射撃といい、止めといい、丈は結構無謀だね。」


 それはただ、まだ堅実な戦い方が分からないだけだ。



 僕らは相談して、熊は持ち帰らないことにした。ギルドに連絡すれば明日にでも回収されて、利益の一割は僕らに来るらしい。


 日は暮れていて早く帰りたかったが、回収したゴブリンとかを持ち帰ったので、重くてあまり足は進まなかった。


 結局、ギルドに着いたのは夜の八時頃だった。依頼達成だけを報告して、お金をもらって出る。


「実際、どうなんだその、ロマン武器ってのは。」

「別に熱く語らなくていいから、使い勝手の雰囲気だけ教えて。」

 木立は言った。


「どうせ魔法使いは武器を使わないだろ。」


 僕が返すと、まあね。と木立は頷き、言う。


「でも、あの値段で武器を買えるなら、持っててもいいかなとは思う。見た感じ、かさばらなさそうだし。」


「少し使ってみるか?」


 僕は鉄扇を渡す。木立は受け取り、先ほど僕がしたようにそれを軽く振ると、シュンという音がして鉄扇が刀の形になる。


「音が大きいなあ。」


「魔法も使えない緊急事態だったら関係ないだろ。」


 そんなもんかなと言いつつ、木立は家に入ろうとする。扉の枠に刃が当たり、木枠が薄く切れる。


「これはどうやって閉じるんだ?」

「刃先の方を持って軽く振る。」

僕はやって見せる。木立はなるほどと呟きつつ、何回か収納と展開を繰り返した。


「ありがとう。でも俺はいいや。魔法で何とかする。」


そうか。まあ魔法使いだからな。

僕は鉄扇をポケットにしまった。




 一ヶ月ほど経ち、何度か依頼もこなし、ランクがDに上がった。

木立からは「Eランクはお試しみたいなものだからね。」という言葉をもらった。

 改めて依頼を確認すると、どれも難なくこなせそうなものばかりになっていた。


 何人かの冒険者と親しくなったが、多くは一週間ほどでランクをEからDに上げ、町を出ていった。


 この町は入れ替わりの激しい町らしい。初めに入った高級な武器屋の武器も、実はそんなに高くなかったことを知った。


 木立はこの近くの山で生まれたらしい。僕も世間に戻ってきて初めての町だったので愛着はあるが、初心者が初めてこなすような依頼を、十分に成長した僕らが取ってしまうことに罪悪感が生まれてきた。


 家に入り、リビングに向かう。少し話したいことがあると言うと、木立も付いてくる。


「唐突に申し訳ないけど、僕、この町を出ることにした。」


 僕は言う。

・一ヶ月のステータス変化


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 木立(kodachi) 3才 

 魔法使い ランクD相当


 魔力  300→310

 体力  150→170

 硬度  60

 筋力  100→110

 器用  90

 俊敏  150→140

───────────────────────

スキル

〈精霊の力〉

〈風読み〉

〈風詠み〉new!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 宮崎 丈(takeru miyasaki) 36才 

 射手 ランクE相当


 魔力  120→130

 体力  50→80

 硬度  100→90

 筋力  70→90

 器用  1010→1040

 俊敏  150→140

───────────────────────

スキル

〈超無音〉

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


・スキルの紹介

〈風詠み〉

風を少しだけ動かすことが出来る。

〈風魔〉

風を自在に操ることが出来る。



・能力値等変化の理由

 木立、丈ともに仲間を得、一人で戦うには厳しいような大きな魔物を狩る依頼を頻繁に受けられるようになったため、重い魔物を持つことで筋力と体力が上昇。

 また、連携によって対応する場面が増えたため、素早く行動する必要性が以前より減り、俊敏が減少。

 木立は意識的に風の流れを利用するようになり、〈風詠み〉を習得。

 丈は魔法弓を常用することで魔力と器用さが上昇した。


(3/31/2021 ステータス 一部訂正)

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