二十年
説明回です。
二十年前、僕が高校生だった頃、世界は平和だった。
国際連合が全世界の平和的な統一を果たしてから数十年。事務や製造などの仕事はAIやロボット、ゴーレムが行い、僕ら人間は専ら考え事をしたり、創造的な仕事をしたり経済を循環したりして生きていた。
科学と魔法の融合は人類に自由をもたらした。
教育は大学まで無償化されていて、その目的は日常生活に必要な思考力を育むことだった。
高校は午前もしくは午後だけの授業で、必修科目は火曜から木曜日までの三日間に集中していた。
僕が二十年をウロの中で過ごす切っ掛けとなったのも、毎週の休みの四日間で行く、仲間との登山での事だった。
ちょうど僕がウロでの生活に慣れてきた頃、日にして四十日が経とうとしている頃だったらしい。
世界に大きな変化が起きた。
ここから先は武器屋のおばあさんから聞いた話だ。
太平洋、大西洋、インド洋、北極海にそれぞれ小さい大陸が現れた。
現在、この事件は大分断と呼ばれ、これらの大陸は魔大陸と呼ばれている。
大分断という前代未聞の天変地異が起きて、世界は大混乱に陥ったらしい。
海面の上昇によりオセアニアの多くの島々は沈み、沿岸にある都市もことごとく沈んだ。
国際連合は各国から糾弾され、もはや世界の秩序を保つことは困難だった。
幸いにも、どの国も自国の復興が忙しかったため戦争などは起こらなかったらしいが、国交は断裂して、食料などの資源の少ない中東や東南アジアの新興国は国としての体をなさなくなっていった。
日本も首都が沈むなど大きな被害を受けたが、奇跡的にネット環境への被害が少なく、復興というか経済的な寛快へのめどは立っていた。
現在は関東平野の上に大きな埋め立て地を作って再び東京の辺りが首都になっているらしい。
国際連合は魔大陸に調査団を送り、調査や研究を進めた。
魔大陸には、大量のマナがあった。マナとは魔法の源となる粒子のことだが、空気中に五パーセントほど含まれていた。
しかし、魔大陸のマナの全てが地球上に分配されると、空気中のマナの量が少なくとも十倍になるという研究結果が出ていた。
この膨大な量のマナが生物の体に影響を及ぼすことも分かっていて、実際に大分断から三年後、世界のマナの量の平均が二倍を越えた頃、体が異常に変形した生物が何種か発見された。
こういったものはマナの当て字である魔那と動物という言葉から一文字ずつ取って、“魔物”と呼ばれた。
マナの量が大分断前の三倍を越えたとき、意思を持ったマナの集合体として精霊や幽霊、マナの影響を強く受けて生まれてきた人間として亜人などの新しい生物(と言うしかない人種)も生まれた。
亜人や精霊に対する差別などが広がり、再び戦争が起きた。世界に張り巡らされたネットワークが災いし、全世界でテロやクーデターが同時多発的に起きた。
一説によると世界の人口の四分の一がこの戦争で死んだとも言われている。
ちなみに大分断の影響による死者は、この時点で大分断前の世界の人口の半分を越えた。
世界各国の富豪や実業家などは資金を出し合い、この新しい世界に対応した新しい企業を立てた。
それは魔物を倒し、そこからとれる珍しい素材を加工したりして儲けを生み出す会社だった。
会社はギルドと名付けられた。
そのうち魔物を倒す仕事をしていた人々が独立して冒険者を名乗り、ギルドは冒険者から素材を優先的に買い取るため、子会社として冒険者ギルドという会社を立てた。
他にも教育関係を行う部署が独立して“ギルド学園”、研究をしていた部署が独立して“研究者ギルド”等、多くの子会社が生まれた。
だれも市場の独占とは言えなかったし、これらがなければ多くの人の生活は成り立たなくなった。
それから世界は、冒険者の時代になった。
発電所の多くが機能しなくなったことで、機械などの動力は魔法に変わったが、複雑な機械を空気中のマナだけで動かすことは出来ず、機械は魔石を必要とした。
魔石とは魔物が体内に溜め込んだ魔力が結晶化したものである。
人間や精霊にも魔石があったが、その体内から魔石を取り出すことは倫理的でないとされ、供給は魔物を倒すことでなされた。
魔物を倒せるのは基本的に冒険者だけだった。
危険な魔物が出たときに人が頼るのも冒険者だった。
冒険者は物をよく消費し、経済を活性化させた。
その結果、冒険者の数は増加していった。
どの町も冒険者を誘致し、冒険者は自分の能力に合った町で依頼をこなした。
この町、菅原は冒険者の誘致に大成功したという。
菅原からほど近い山(僕がいた山だ。)はなぜかマナの濃度がやや薄く、魔物の量が少なかった。
そのため、初心者向けのPRをしたところ、人が多く集まったらしい。
今では菅原を本拠地として活動するベテランの冒険者なども増え、今は冒険者を中心とした町作りが行われている。
「私たちも、そのびっくうえーぶに乗って来た、移住者なんだよ。」
おばあさんは言った。
「ありがとう。」
とても参考になった。
なるほど二十年の間にそんなことがあったとは、思ってもみなかった。
人間の対応力に感服脱帽した。
修行を始めてから一ヶ月とすぐのうちにそんなことが起きていたのかという驚きもある。
おばあさんは久しぶりに長話を出来たのが嬉しかったのか、昼食に招待してくれた。
ロマン武器を作るおじいさんにも会ってみたかったが、おじいさんは昼食を取らないらしい。
早い朝食と晩酌だけ。その他の時間はずっと工房に籠っているとか。
「まさに職人って感じですね。」
と僕が言うと、
「ただの頑固じじいだよ。」
といっておばあさんは笑った。
武器を定価の二割引で売ってくれると言うので、僕はだれも買わないようなピーキーな武器を選んでもらった。
初めにおばあさんが見せてくれたのとは大きく違う、とてつもないロマン武器であった。
「完全にあの具現化ですね。」
「あの人は終わりの○ラフ世代でね。」
時代を感じる響きだった。高校では三度目くらいの終わりのセ○フブームが来ていたのだ。僕もはまっていた。
今は漫画の人気も下がっているらしく、冒険者も堅実な武器を選ぶことが増えていると。
「ロマンの時代は終わったんだっていくら言っても分かってくれないのさ。あの頑固じいは。」
また笑う。おばあさんは見た目によらずよく笑うようだった。
店を出て、商店街を見回す。予想以上に時間を使ってしまった。
すでに武器を買ったあとではあるが、職業を決めに行こう。
どんな店があるのかと回りを見つつ僕は冒険者ギルドに向かった。
幽霊と精霊の違いは
幽霊:触れられない。
精霊:触れられる。
です。
説明でよく分からないところがあるかもしれません。