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anti-sound   作者: :
プロローグ
4/16

超無音

〈超無音〉

 動いても音が出なくなる。

「おう。そう硬くなんねえで座れや。」

 厳つい男にそう勧められ、僕たちは男の向かいのソファに座る。


「そんな緊張すんなって、俺がそんなに怖いか?」


 正直、めちゃくちゃ恐い。なんかヤバいオーラを感じる。

 僕と木立は縮こまっていた。すがるように先ほどのギルド職員の方を見ると、すでに退室したのか、その姿はなかった。


「俺はここのギルド長だ。吉田っていう。よろしく!」


雷のような声にからだが震える。


「〈鑑定〉のスキル持ちでもいたら良かったんだが、こんな辺境の支部にいるわけがねえ。だから、取り敢えずの報告のために、スキルの効果だけ見せてくれや。」

 僕は頷いた。


 能動的スキルは使おうと考えるだけで使えるらしいが、スキルの名は唱えれば必ず発動することが分かっている。


「〈超無音〉」


 僕は唱えるが、何が変わっているのか分からない。

 木立と吉田も首を傾げている。


「何が起きているのか分からない。」


 そう呟くと、彼らは軽く歓声を上げた。


「声が全く聞こえん。」

吉田は言った。

「本当に?」

「ああ、本当だ。」

木立は答えた。

「へえ、てことは何を言っても聞こえないのかな?」

「そうじゃないか?」


「「……」」


「明らかに聞こえてるよね。会話してるからね。」

「まあ俺には風読みがあるからな。音は聞こえないけど、口元の風の動きで何を言っているか分かる。」

なるほど。なら吉田には聞こえてないのか。


 その場で跳ねてみたり、スキップしてみたり、近くの物を持って引きずってみたりもするが、ことごとく音が出ない。

 僕が干渉するだけで音が出なくなるのか。

 木立に触ると、木立の声も消えた。


「なるほど、これは“超”だ。」

ギルド長も驚いて言う。



 しばらく実験をしたが、効果が途切れる様子は全く無かった。


「これはどうやって解除すれば良いんだ?」

「無音の解除だから、音を出そうとすれば良いんじゃないかな。」

 僕は手を思い切り叩く。

 パンという音が部屋に反響するのが聞こえた。


「解除されたね。」


 僕はほっとする。いつの間にか、なにかに不安を感じていたらしい。


「動いても物を動かしても音を出さないスキル、と本部に伝えておく。」


吉田は言った。




僕らはギルドを出る。


「そういえば、家を借りれるんだから、結構なお金は持ってるよね。それなら慰謝料は払えると思わないか?」

 交渉によっては今よりもずっと得する気がして、僕がそう言うと


「慰謝料の話はもう過ぎたことだよ。」

 と木立は笑った。騙された気分だったが、そこまで嫌な感じはしなかった。

 いざとなれば引きこもって、全ての生活費を負担して貰おうかな。


 話し続けていて、振り向くと木立がいなかった。遠くを見ると笑いながら立っている。家の場所だった。

 同じ家が連立していると自分の家がどこか分からなくなる。しばらくは覚えられそうになかった。


 食事は木立が作ってくれた。ゆで卵の入ったハンバーグだった。いつの間に食糧を買ったのかと思うと、食料は週末に一週間分を買い貯めるタイプらしい。

 冒険者ギルドの裏の通りが商店街になっていて、生活に必要なものはそこで買えるとか。


 生活感のある話の流れから、家事の分担の話になってしまった。そのままの流れで、家にいる人が家事をやることになる。

 引きこもりにはなれそうにないな。家事は得意じゃないから、できるだけ外にいようと思う。


 夜、ベッドが一つしかないので、異性と寝るのに躊躇は無いのかとか、ベッドが小さいとか色々と非難されて、僕はリビングで寝ることになった。




 次の朝。美味しそうな匂いと音で目を覚ます。リビングから見えるキッチンでは、木立が何かを焼いている。


「起きた?」


 声を掛けられる。

 少し昔のことを思い出して懐かしい気分になった。

━━━

 夜中までゲームをしていて、リビングで寝落ちしてしまった次の朝。

 料理をしている音で目が覚めて、

「起きたの?」

と母親が僕に声を掛ける。

━━━

 みたいな。

 そんなことがあったような無かったような。


 朝食を済ませ、一緒に家を出る。依頼を達成しなければならないので、木立はまた山に上るらしい。

 僕は職業を決めたり装備や武器を買わなきゃいけないので、いくらかのお金を貰い、商店街に行く。



 道に迷うとまずいので、商店街へはギルドを経由して行った。


 商店街にもやはり、品揃えと看板以外は全く同じデザインの建物が連立していた。

 取り敢えず、目についた剣と盾の看板の店に行く。おそらく武器屋だろう。現実世界で武器を持つことになるとは、人生分からないものだ。


 店に入ると、壁にずらりと剣が並んでいる。盾はショーケースに並んでいる。

 僕が想像する武器屋そのもので、ワクワクする。


 店員の一人に話しかける。


「すいません。冒険者を始めたばかりなんですけど、初心者向けの武器とかって有りますかね。」


「予算はどのくらいですか?」

店員は言う。


「武器や防具、全部で三百クレくらいですかね。」


 店員は渋そうな顔をする。

「ここは価格帯が五百クレからなので、申し訳ない。予算的に難しいと思います。」


「いえいえこちらこそ。」

と言いつつ店を出る。

 武器って案外高い物なんだな。


 武器屋でどこか良い場所はないかと探すと、二軒目の武器屋はちょうど良い価格帯だった。

 ただ、剣や長物が置いていなかった。


「なんだい、その顔は。」

 気の強そうなおばあさんが奥から声を掛ける。


「ここは剣とかは売ってないんですか?」

「売ってるが、ひどいもんばっかりだから、置いてないよ。」


 そうなのか。じゃあ何の店なのか。


「どういう武器を売ってるんですか?」

「うちは仕込み武器の店だね。」

仕込み武器?

「じいさんが凝り性で、変に凝った武器しか作ろうとしないんだ。」


 一つ見せてもらう。

 柄の付いたペットボトルのような形をした金属製の武器だ。


「どうやって使うんですかね。」


 おばあさんに訊くと、店の裏手に案内してくれた。


「振ってみな。」

と言われたので、柄の部分を握って軽く振る。


 ペットボトルの部分が八つくらいに割れ、中から刃が飛び出して伸び、剣の形になった。


「おお。」


 思わず声が出る。これは格好いい。是非欲しい。


「そういう反応をしてくれると嬉しいね。もっと見せたくなっちまうよ。最近は客足も少し減ってねえ。暇なのさ。」


 おばあさんは店に戻って、いくつか武器を持ってくる。


 ペン型、盾型や傘、扇子など、どれも剣や槍に変形できたり弾を発射するなど、ロマンの塊だった。


「こういうのは、ベテランになればなるほど買わなくなるのさ。」

おばあさんは言う。

「ここは初心者が多いから、他の町に比べればよく売れるんだね。」


「初心者が多い……へえ、初耳です。」


「なんだ。てっきりそれを知ってここに来てたのかと思ってたよ。」


 実は、と自分の事情を話す。おばあさんは半分くらい納得してくれた。


「世間知らずって顔してるからねえ。」

 そう言って笑われた。


 武器を買うという約束で、おばあさんはこの世界の変化について話してくれた。

〈鑑定〉

ものの名を見るとそのものの有りようが分かる。

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