冒険者
説明回っぽいです
大通りを進み、僕らは体育館のような場所に向かった。
ガラス張りの両開きの押戸が開け放たれ、少年はその中に入った。僕もついていく。
扉の脇には冒険者ギルドと書かれた看板があったが、その時、僕はそれを見逃していた。
一階は左右に別れていた。
右側は広い食堂のように見えて、長机がところ狭しと並んでいる。しきりは無いが左側は、銀行のように受付が並び、ソファや観葉植物が置かれて待合室のようだった。
少年は左側に進み、僕もそれに続く。
少し待っていてほしいと仕草されるので一度立ち止まり、入り口の観葉植物の隣に並ぶ。
少し遠いが、受付での会話が聞こえる。
「木立くん。依頼の達成かな?」
「いえ、少し急用が出来て、戻ってきました。」
少年の名前は木立というのか。
「それはそこの人のこと?」
「そうです。」
急用とは僕のことのようだった。受付の女性がこちらを見たので会釈する。
「見たことがないけど、どこの人なの?山の向こう?」
「いえ、中腹にある木のウロの中にいました。」
受付の女性がまたこちらを見る。少し困った顔をしている。僕はもう一度会釈する。
「何でここに連れてきたの?」
「冒険者に向いてそうだなと思ったので。」
「今、登録する?」
「いえ、身なりを整えさせてからまた来ます。」
木立が戻ってきた。僕らは再び建物を出る。
「冒険者ってなんだい?」
僕が訊くと、木立は驚いたような顔をした。
「冒険者も知らない?」
「フィクションでは聞いたことがあるけど、現実では知らない。」
「二十年って長いな。」
木立はため息を吐いたが、説明してくれた。
大まかには僕のフィクションでの知識と同じで、冒険者は冒険をしたり、ギルドで依頼を受けて仕事する人だった。
冒険者はランク付けされ、そのランクに応じて依頼を受けられる。
ランクはアルファベットでE,D,C,B,A,Sの六段階で、ランクアップの是非はステータスと依頼の達成数から総合的に判断される。
「ステータスとは?」
「それもかよ。」
木立がため息をつくたびに申し訳なさを感じる。
ステータスもフィクションと同じで、何かしらの媒体に自分の状態を表示するものらしい。
冒険者ギルドでもらえるIDカードに表示されるとか。
木立のカードを見せて貰うと、表記はこんな感じだった。
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木立(kodachi) 3才
魔法使い ランクD相当
魔力 300
体力 150
硬度 60
筋力 100
器用 90
俊敏 150
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スキル
〈精霊の力〉
〈風読み〉
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「……三才?」
「人間じゃないので。」
僕はその言葉に衝撃を受けたが、平穏を装って返す。
「それにしても簡素な表示だね。この数字はどういう目安で決められてるんだ?」
「平均的な成人男性が百。」
なるほど。分かりやすい。IQみたいな感じか。
「じゃあ普通よりちょっと不器用で柔らかいんだね。」
木立の程よく引き締まった腹部をぷにぷにと押す。
「性犯罪だよね?」
「同性では?」
「同性でも性犯罪は性犯罪だし、そもそもおじさんとは同性じゃない。」
「女の子?」
そうだったのか。やはり三才児の性別は一見では分からん。
「女でもない。無性だ。」
「無性?」
隣からため息が聞こえる。
「俺は精霊だ。そして精霊に性別は無い。つまり無性だ。」
へえ、男っぽく見えるが。
「どんなに男っぽくても無性だから、おじさんは性犯罪常習者だ。」
常習者ではないだろ。
「ここが俺の家。」
全く同じ形の家が立ち並ぶ中の一軒の前で木立は立ち止まった。
「これは貸家だから、ほんとうは浮浪者を中に入れたく無いんだ。壁や床に取れないシミを作るのはやだからね。」
木立は言う。
「だからここに住まわせるのが慰謝料の代わり。いいね。」
僕は頷いた。
シャワーを浴び、足先から耳まで全身を洗った。
さっぱりした。風呂を出ると服が無かった。
「服が無いんだけど。」
「今、洗ってる。タオルでも巻いといて。」
剃刀も無かった。
「剃刀は?」
と言うと、フルーツナイフを渡された
「これが家で一番小さな刃物だから。爪切りとどっちが良い?」
と訊かれたので、あきらめてフルーツナイフで髭を剃ることにした。
血まみれになった。
暫くして服を渡されたので着て、脱衣所から出る。
すぐにまた、冒険者ギルドに行くことになった。
受付に行くと、どのようなご用件かと訊かれる。
どう言えば良いのか分からなかったので木立を見ると、
「冒険者登録。」
と木立は言った。
受付の男は小さな機械を持ってきて、機械の穴に指を差し込めと言った。
差し込むと、機械のスイッチが押され、高い電子音声の
「ちくっとしますよー」
という言葉と同時に、指先に針が刺さった。
全く痛くない。技術の進歩か。
すぐに機械から、一枚のカードが出てくる。先ほど木立が見せてくれたカードの色の違う奴だ。
表記は…
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宮崎 丈(takeru miyasaki) 36才
無職 ランクE相当
魔力 120
体力 50
硬度 100
筋力 70
器用 1010
俊敏 150
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スキル
〈超無音〉
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「器用、高くね?」
思わず声が出る。
ギルド職員がカードを確認する。
「確かに高い、体力や筋力以外の四桁は初めて見た。それに〈超無音〉?聞いたことがありそうで無いスキルだな。」
カードが返却されたところを木立が横から取った。
「器用が千?さっき髭剃るだけで血まみれになってたのに。」
髭を剃れただけで常人の十倍は器用だと思う。
「〈超無音〉は、まあ妥当だな。」
職員は知らないスキルだったが、木立は知っているのか。
「どんなスキルなんだ?」
「分からんけど、音が無くなるんだろ。超絶に。」
「少し良いか?」
職員から声をかけられ、二人で注意を向ける。
職員は大きな辞書のような本を持っている。今持ってきたのだろう。
「これは今年度版のスキル全集なんだが。〈超無音〉ってスキルは載ってない。〈超音速〉とか〈超能力〉、〈無音〉とか〈静穏〉ってスキルは載ってるんだけどな。」
「それで?」
「新しいスキルの発見だ。一応、こちらで効果を確認したい。」
そう言って、職員は僕らを奥へ案内した。
「スキルってどうやって決まってるんだ?」
そう訊くと、木立は何も言わず首を降った。分からないらしい。
「複雑なアルゴリズムを使って決めているらしい。」
「〈無音〉や〈静穏〉といったスキルなら名前の意味は分かるが、〈お前の色は何色だ?〉とか、意味の分からないスキル名もあって、実はよく分かってない。」
職員は言った。
応接室のような場所に案内され、木立と僕は恐る恐る部屋に入る。
中にはすごい厳つい男がいた。
・スキルシステム
スキルシステムは、数値だけでは表せない個々人の能力を示す単語またはフレーズを表示するシステムです。
スキルの決定はステータス魔法の一部です。システムの設計者はこの魔法の中に二つの複雑なアルゴリズムを仕込ませました。
一つは名称製作。一つは名称決定。前者は指示がなくても自動的に動き続けます。
分かりやすく言えば、延々と「スキル診断」を作り続けるシステムと、人の脳内のログを参照してスキルを選ぶシステムということになります。
このシステムを作ったのはステータス魔法を作った人の友達で、漫画とアニメが大好きな人でした。
そのため、少しふざけたような名前がつくことがあります。
ステータス魔法のスキルシステム以外の部分は血液のデータから各能力を計測するだけの魔法なので、大した魔法では無いのですが(それでも世界で最も複雑な魔法の一つとして知られている)、スキルシステムが複雑すぎるせいで、通常の詠唱や操作では発動することができません。
そのため、スキルを含めたステータスの計測は専用の機械でなければ行うことが出来ません。
・〈精霊の力〉
自分と関わりの深いものを介して、長距離の転移を行える。
・〈風読み〉
風の動きをはっきりと認識できる。
・〈静穏〉
静かに行動できる。
・〈無音〉
自分が動かない限り音を消すことができる。
・〈音速〉
空気中を音速を越えた速さで動ける。
・〈超音速〉
液体もしくは気体の媒質中を音速の二倍以上の速さで動ける。
・〈超能力〉
魔力を消費せずに無詠唱で魔法を使える。
・〈お前の色は何色だ?〉
相手のステータス(スキルを含む)、感情、思考を読み取れる。
・ギルドカードの色
それぞれ
S 黒
A 金
B 銀
C 赤
D 青
E 緑
です。