聖女
彼女は神の声を聞いた。凡人には到底、理解など出来る筈が無い。しかし、彼女は皆に伝えた、神の言葉を。
勇気を振りしぼり、懸命に。
だが彼女の声は民衆には響かない。父や友人にも響かない。
唯一、母だけが信じてくれた。
だが母にも響いてはいない。
彼女は其れから度々、神の声を聞き、そして、伝える。
彼女の懸命な姿に、神は嘆く。
汝よ、はやまるな。私の言葉をよく聞きなさい。
汝は、汝だけが、私の言葉を聞けるのだ。
正しく伝えねばならない。
汝よ、私は、そんな事は言ってない。
彼女は今日も、神の声を聞き、間違えた通訳をする。
民衆は、神がそんな事を言う筈が無いと、信じはしない。
父や友人は、何かが違うと疑う。
母だけは、信じてくれる。