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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第9章 東大陸北部路線
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第96話 緊急出産

「大変だ! 子供が生まれるぞ!」


 突如として聞こえてきた叫びに、オレは聞き覚えがあった。

 ダイトの声に、間違いなかった。


「た、大変だ!」

「ビートくん、今の声って……!?」


 オレの隣で眠っていたライラも、叫び声で目を覚ましたようだ。

 乱れた長い髪を整え、ドレスのスカートについてホコリを払って立ち上がった。


「ダイトさんの声に間違いない!」

「ビートくん!」


 ライラの声に、オレは頷く。

 通路につながるドアを開けると、そこにはダイトが立っていた。慌てて来たらしく、上着を身に着けていない。ズボンを吊っていたサスペンダーも、片方が外れていた。


「ビートくんにライラちゃん!」

「ダイトさん、産まれそうなんですか!?」


 オレの問いに、ダイトは頷いた。


「妻が……クリスに陣痛が始まったんだ!」


 ダイトの言葉に、オレは身体中をアドレナリンが駆け巡るのを感じた。

 列車内での出産になる。さらに、医師は乗っていない。


「すぐに行きます! ライラ!」

「うん!!」


 オレとライラは、ダイトに案内されてダイトとクリスが使っている個室に向かった。




「クリス!!」


 個室に入ると、ダイトはすぐにクリスに駆け寄った。

 クリスは苦しそうに叫び、呻いている。見ると、シーツに染みがついていた。どうやら、破水しているらしい。


 もういつ産まれても、おかしくないだろう。


「ダイトさん、車掌さんは!?」

「呼んだ! 今は医者と取り上げ経験のある女性を探してもらっている!」


 オレたちにできることは、あるのだろうか?

 そんなことを考えていると、ライラがクリスに駆け寄った。


「クリスさん、しっかりしてください!」


 ライラはクリスの手を握り、声をかける。

 クリスはライラの手を握り返し、呻きながらもそれに応えている。


 そうだ、できることはあるはずだ!

 ライラがしたように、オレにもできることが……。


「ーーそうだ!!」


 オレは、ある人のことを思い出した。

 あの人なら、力になってくれるかもしれない!!


「ライラ、ちょっとの間、任せたよ!」

「うん!」


 ライラが頷くと、オレは駆け出した。


「ちょっ、ちょっと、ビートくん!?」


 ダイトが驚くが、オレは廊下に飛び出した。

 ポケットから取り出した紙を見て、オレは廊下を駆けていった。




 オレは5分ほどして、ダイトとクリスの個室に1人の男性を連れて戻ってきた。


「助っ人を連れてきました!!」

「あっ、あなたは!!」


 ダイトが、オレが連れてきた男性を見て目を見開いた。


「カリオストロ伯爵!!」


 オレが連れてきたのは、カリオストロ伯爵だった。

 以前、車内で再会したときに、オレはカリオストロ伯爵から部屋番号を書いた紙を受け取っていた。困ったことがあったら、いつでも訪ねてきていい。カリオストロ伯爵がそう云っていたことを、思い出した。

 カリオストロ伯爵なら、力になってくれるかもしれない。


「君がダイトかね?」

「そっ、そうです!!」


 カリオストロ伯爵の問いにダイトが頷くと、カリオストロ伯爵はすぐにベッドに駆け寄った。


「話はビートから聞いた。君の妻に陣痛が来たとな!?」

「そっ、そうなんです! もう産まれそうなんです!!」


 ダイトの言葉に頷くと、カリオストロ伯爵は持ってきた往診カバンから、聴診器や医療器具を取り出した。

 聴診器でクリスの診察を行う様子は、まさに医師そのものだった。


「まずいぞ。これは今すぐに生まれてきてもおかしくない!」

「カリオストロ伯爵、分かるんですか!?」


 ライラの問いに、カリオストロ伯爵は頷く。


「私は医師としての資格も持っている。すぐにシーツと、タオルを用意してくれ。それと応援の人を! 女性であることが望ましい!」

「それでしたら、車掌さんに頼んであります!」


 ダイトが云うと同時に、ドアがノックされた。


「すみません! 取り上げ経験のある女性を数人、連れてまいりました!!」


 ドアが開くと、車掌と4人の女性が個室に入ってきた。


「まぁ、カリオストロ伯爵じゃありませんか!?」

「カリオストロ伯爵が居れば、百人力ですわ!」


 カリオストロ伯爵の姿を見た女性たちが、口々にそう云う。

 本当に、カリオストロ伯爵は何者なのだろう?


「それでは、男性の方とお手伝いの女性以外の方は、しばらく外で待っていてください!」


 カリオストロ伯爵が指示を出し、車掌さんがすぐに廊下へと出ていく。

 オレもライラを連れて、廊下に出ようとした。


「ライラ、外で待とう!」

「うん!」


 オレとライラが廊下に出ようとすると、ダイトがベッドに駆け寄った。


「伯爵様! クリスのことを、どうかお願いします!」

「わかった。後は私たちに任せて、外で待っていてください!」

「はいっ!」


 オレたちに続いてダイトが廊下に出ると、個室のドアが閉じられた。


「ビートくん……」

「ライラ、きっと大丈夫だ。クリスさんと、カリオストロ伯爵を信じよう」


 根拠があるわけじゃなかったが、オレはそう思うしかなかった。

 今できることは、無事に出産が終わるよう祈ることだけだった……。




 オレとライラは、ダイトと共に部屋の前で出産が終わるのを待っていた。


「あぁ、神様……どうか……!」


 ダイトは手の指を組んで、天に祈り続けている。

 オレは時折、懐中時計を取り出して時間を確認した。時計の針は、確認するごとに時を切り刻み、時間が流れたことを教えてくれる。しかし、いつ無事に生まれてくるのかまでは、教えてくれなかった。

 そして時計の針は、ついに深夜3時を指し示した。


「ビートくん……」


 ライラがオレの名前を呼び、オレは懐中時計から顔を上げた。


「ライラ、どうしたの?」

「赤ちゃん、無事に生まれてくるといいね……」

「……きっと、元気な赤ちゃんが生まれてくるさ」


 オレは頷いて、そっとライラの手を握った。


「……うん!」


 ライラが笑顔で頷き、オレの手を握り返した。

 どうやら、ライラは安心してくれたみたいだ。



 そのときだった。



「オギャーッ!! オギャーッ!!!」

「「「!!?」」」


 オレとライラ、そしてダイトは目を見開き、個室のドアを見た。

 今の声は、間違いなく赤ん坊の泣き声だ。


 子供はどうやら、無事に生まれたみたいだ。

 そして残るは、クリスだ。


 緊張状態のまま、オレたちは個室のドアを見つめ続ける。


 そして個室のドアが開き、手伝いに入った女性が出てきた。


「無事に生まれましたわ。お母さんも赤ちゃんも、元気ですよ!」

「ほっ、本当ですか!?」


 ダイトが問うと、女性は頷いた。


「えぇ。さ、早くお子さんとお母さんに顔を見せてあげてください。お父さん」

「はっ……はいっ!!」


 ダイトは目元を拭い、個室の中へと足を踏み入れていった。


「あぁっ、クリス!!」


 すぐに、個室の中からダイトの声が聞こえてくる。

 オレとライラも気になり、個室の中へと足を踏み入れた。


「おめでとう、ダイト氏! 立派な男の子だ!」


 カリオストロ伯爵が、汚れた手をタオルで拭きながら告げる。

 ベッドを見ると、クリスが布に包まれた赤ちゃんを抱いていた。


「あなた、男の子よ。あなたに、そっくりな……」

「クリス……ありがとう!!」


 ダイトが泣きながら、クリスを赤ちゃんと共に抱きしめた。

 無事に新しい命が、この世界に生まれてきた。

 それを見ると、オレは胸に熱いものがこみ上げてくるような気がして、涙があふれてくる。


「ライラ、良かったね……」

「うん。わたしも、安心したわ」


 オレの言葉に、ライラがそう返した。


 ダイトとクリスが喜びを分かち合い、オレたちがそれを眺めている間。

 集められた手伝いの女性たちとカリオストロ伯爵は、出産の後片付けを進めていった。




 カリオストロ伯爵と女性たちが引き上げようとしたとき。

 ダイトが、カリオストロ伯爵に駆け寄った。


「カリオストロ伯爵! それにお手伝いしていただいた女性の方々、本当にありがとうございました!! 妻のクリス、そして生まれた我が子と共に、お礼を申し上げます!!」


 ダイトがそう云って、カリオストロ伯爵たちに頭を下げた。


「いや、ご婦人方はともかく、私よりもビートとライラにお礼を伝えてください」


 カリオストロ伯爵はそう云って、オレたちの方を見る。


 オレたちに、お礼を伝えてほしい?

 どういうことなのだろう?

 オレたちは、出産の手伝いをしたわけじゃない。ずっと外で待っていただけだ。カリオストロ伯爵のように、出産の手助けをしたわけじゃない。オレもライラも、何もしていない。


 それなのに、どうしてオレたちにお礼を?

 オレとライラはカリオストロ伯爵の言葉の意味が分からず、顔を見合わせた。


「ビートとライラが居なければ、私はきっとこのことを知ることは無かったでしょう。私がここで、あなたの赤ちゃんを無事に取り上げることができたのは、ビートとライラが居てこそなのです」

「伯爵様……はい……!」


 ダイトはオレたちの前にまで、やってきた。


「ビートくんにライラちゃん、カリオストロ伯爵を連れてきてくれて、ありがとうございました!!」


 オレたちに頭を下げ、ダイトはお礼の言葉を告げる。


「いえ、オレたちは……」

「ねぇ……」


 オレとライラは困惑しつつも、ダイトのお礼に、こう返すことに決めた。


「それよりも……おめでとうございます、ダイトさん」

「おめでとうございます!」

「あ……ありがとうございます!!」


 祝福の言葉を、オレたちは贈った。




 それから間もなくして夜が明け、バーン・スワロー号は次の停車駅のボーンに到着した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、5月8日の21時更新予定です!

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