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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第9章 東大陸北部路線
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第95話 月の夜

 バーン・スワロー号は、丸1日走り続けていた。


 しかし、どこまでノンストップで走り続けても、次の停車駅は見えてこない。東大陸の広さと、アークティク・ターン号がいかに早かったのかを嚙みしめながら、オレたちは列車に揺られていた。

 そしてそのまま、オレたちは夜を迎えることとなった。




 夜になると、空には満月が昇って月明かりを砂漠に降り注いでいた。

 オレとライラは、明かりを消した個室の中でカーテンを明け、月光浴を楽しんでいた。


 満月の夜は、オレたちは遅くまで起きていることが多い。

 なんといっても、満月の夜はオレたちにとって特別な夜だ。


 オレとライラが結ばれた、思い出深い夜。

 それが満月の夜だ。

 グレーザー孤児院に居た頃、満月の夜にライラがオレに夢を話してくれた。両親に会いたいという、ライラの夢。あの夜から、全ては始まったとも云える。そしてオレがライラの尻尾を触った、初めての夜でもある。あの夜から、オレはライラの尻尾に夢中になったとも云える。


「ビートくん、こうして月明かりを浴びていると、ビートくんがわたしに約束してくれた夜を思い出すよ」


 月明かりの下で、ライラがオレに云う。

 月明かりを浴びたライラは、いつもより美しく見えた。


「グレーザー孤児院での夜だね? オレも、あの夜を思い出すよ。だけど、同時にライラとの結婚式も思い出すなぁ」

「結婚式も?」

「あぁ。結婚式も満月の夜に行っただろ?」


 オレが指摘すると、ライラは納得したらしく、頷いた。


「それに月明かりを浴びたライラの顔を見ると、ウェディングドレスを着たライラを思い出すんだ。あの夜の月明かりを浴びたライラは、とっても美しかったよ。ライラと結婚できて本当に良かったって、思ったよ」

「ビートくん……!」


 ライラが、オレに抱き着いてきた。

 オレがライラを受け止めると、ライラはそっと身体を預けてくる。頭に手を乗せると、ライラは尻尾を振った。


「それって、本当?」

「もちろん。月明かりを浴びたライラほど、美しい女性を他に見たことが無いよ。そんな女性のライラが、オレにべったりで一途。しかも、結婚してオレを生涯のパートナーに選んでくれた。今も時々、これって夢じゃないのかなって思うことがあるんだ。夢じゃないよね……?」

「もちろんよ、夢なんかじゃないわ。わたしのビートくんに対する気持ちは、本物。ビートくんとずっと一緒に生きていくことを、わたしは誓ったの。ビートくんのためなら、なんだってできるよ!」

「ありがとう、ライラ。ありがとう……」


 そう云ってくれたライラに感謝しながら、オレはライラの頭を撫でる。

 本当にライラは、どこまでオレのことを信頼してくれているのだろう? いくら結婚した相手だといっても、ここまで信頼を寄せてくれるものなのだろうか?

 しかし、ライラはオレを信頼してくれている。

 オレはそんなライラのことを、守る義務があるはずだ。


 これからも、オレはライラと共に生きていく。

 結婚式で、オレはそう誓ったのだから。


 すると、ライラが顔を上げてオレを見た。

 まぶたが半分ほど、閉じている。


「ビートくん……なんだか眠くなってきちゃったよぉ……」

「そういえば……オレも眠たいや……」


 ライラから云われて、オレも眠気を感じてきた。

 体温で温められたせいだろうか?

 ベッドに行って眠ったほうがいいのは、分かっている。

 だけどオレは、このまま月明かりを浴びながら眠っても、いいような気がした。


 オレはライラから手を離し、そっと横になる。

 ライラもそれに応じるかのように、オレの隣で横になると、オレに抱き着いてきた。


 そしていつしか、オレたちは意識を失った。




「んっ……?」


 オレが目を覚ました時、隣でオレに抱き着いていたはずのライラが、いなくなっていた。


「あれ? ライラ……?」


 起き上がって辺りを見回すと、ライラはオレに背中を向けていた。

 オレは立ち上がり、背中を向けているライラに近づいていく。


「ライラ、どうしたの?」

「ビートくん?」


 ライラはオレに背中を向けたまま、オレの名前を呼ぶ。


「……驚かないって、約束してくれる?」

「えっ、どうして?」

「いいから、約束してくれる?」


 これは約束しないと、進まないパターンだ。

 オレはそう思い、驚かないと約束することにした。


「わかった、驚かないよ。約束する」

「うん……ありがとう」


 そう云うと、ライラはオレの方に身体を向けた。

 その直後、オレは目を見張った。


 ライラの下腹部が、大きくなっていた。

 食べすぎでも、ここまで膨らむことはない。これはどう見ても、妊娠した女性に特有の膨らみ方だ。


 つまり、ライラのお腹には子供がいる!


「ビートくん……わたしたちの子よ」


 ライラはいとおしそうに、自分の膨らんだお腹を撫でた。

 わたしたちの子。

 ライラと……オレの間にできた子供ということだ。


「お……オレとライラの……子供……!」


 オレはゆっくりと、ライラに近づいていく。

 ライラが、オレとの間にできた子供を、身ごもった。

 新しい命を宿したライラに、オレは触れてみたくなった。


「ライラ、ちょっと……」

「うん、いいよ……」


 ライラが許可してくれた。

 オレはゆっくりと、ライラのお腹に手を伸ばしていく……。




「うーん、ライラぁ……んっ!?」


 オレは、目を覚ました。

 起き上がって辺りを見回す。ライラは、オレの隣で眠っていた。下腹部に目を移すが、大きくなってなどはいない。


「さっきのは……夢?」


 どうやら、夢を見ていたようだ。

 ライラとオレの間に子供ができるなんて、そんなこと……。


 いや、きっといつかは――。


 オレは月明かりを浴びながら、オレの隣で眠るライラを見た。


「そういえば、満月の夜は子供が生まれやすいって、聞いたことがあるな……」


 もしかしたら、オレが見た夢は、未来の光景だったのかもしれない。

 いつかきっと、迎える未来なのかもしれないな。


 そんなことを考えていると、外から声が聞こえてきた。




「大変だ! 子供が生まれるぞ!!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、5月7日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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