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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第7章 開拓地横断旅行
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第91話 三姉妹

「ご覧下さい。素晴らしい眺めでしょう?」


 長老がそう云って、オレとライラに目の前の景色を指し示す。


「わぁ……!」

「すごい……!」


 オレとライラは、息を呑んだ。




 オレたちの目の前に広がっていたのは、広大な畑だった。

 畑には、見渡す限りトウモロコシが植えられている。トウモロコシといえば、開拓地では重要な主食となる穀物でもあり、同時にナヴィ族にとっても主食の位置にある食べ物だ。オレとライラは、パンや米をよく食べるが、ナヴィ族はほとんどがトウモロコシを食べて生活している。


「こんな広大なトウモロコシ畑があったなんて……!」


 オレが見とれていると、ティオが口を開いた。


「ビートにライラ、俺達ナヴィ族にとって、畑を見せることは信頼の証でもあるんだ」

「畑を見せることが? それはどうしてですか?」


 オレの問いに、長老が答えてくれた。


「ビートよ、ワシらナヴィ族は農耕以外に、狩猟採集を行って食べ物を得てきた。そしてその中では、時に食料を巡って争いになることもあったのじゃ」


 なるほど。確かに食料を巡って争いが起こることは、どこでもあることだ。時にはそれが、大規模な戦争に発展したことも、歴史の授業で習ったことがある。

 だけど、それがどう畑を見せることと関係してくるのだろう?


「同じナヴィ族同士が争い、殺し合う。そんな状況は誰も望んでいなかったことじゃ。それで先祖は知恵を出し合い、争いを止める方法を思いついた。それがお互いの畑や狩猟採集しているものを、見せあうことなんじゃ。自分たちが持っている食料生産の手段をお互いに見せあうことで、共に食料を得るために苦労していることと、自分と相手に足りていないものを確認する。こうすることで、争い合うことを減らしていったのじゃ。今ではそれが、相手を信頼する意思表示として残ったのじゃ」


 つまりは、自分の懐を相手に見せてしまうということか。

 食料を作っている畑を襲ってしまえば、相手を全滅に追いやることもできる。畑はある意味、急所とも呼べる部分だ。そんな弱い部分をさらけ出してしまうことで、敵意がないことと、相手を信頼していることをアピールする。

 それで争いを防ぐとは、よく考えたものだ。

 オレはすっかり、感心してしまった。


「そういうことだったんですね」

「とても平和な方法ですね! ナヴィ族の皆さんって、すごいんですね!」


 ライラがそう云うと、長老は少しだけ照れたようだった。

 すると、再びティオが口を開いた。


「ビート、ここに植えられているのは、トウモロコシだけじゃないんだ」

「えっ!?」


 ティオの言葉に驚き、オレは広大なトウモロコシ畑を見回す。

 トウモロコシ以外にも、何か植えられて栽培されているというのか!?


 だが、いくら目を凝らしても、トウモロコシ以外の作物は分からない。ティオが嘘を云っているわけではないことは、オレにも分かった。ティオは嘘をつくような性格じゃないし、たとえついたとしても表情に出てしまうだろう。


「ビートくん、確かにトウモロコシ以外の匂いがするわ」


 ライラが、鼻をすんすんとさせて云う。

 間違いなく、ここにはトウモロコシ以外の作物も植えられて、栽培されている!


「長老、ここにはトウモロコシ以外に、何が栽培されているんですか!?」

「近くで見たほうが、よく分かるはずじゃ。ついてきておくれ」


 長老はそう云って、再び歩き出した。

 もちろんオレとライラは、長老の後に続いて歩いていった。




 畑のすぐ近くまでやってきて、オレたちはやっと何が栽培されているのか分かった。


「トウモロコシに……豆とカボチャ……?」

「その通りじゃ」


 オレの言葉に、長老が頷いた。


「トウモロコシは、ワシらナヴィ族にとって、主食ともいうべき重要な作物じゃ。トウモロコシパンにしたり、そのまま食べても美味しい。長期保存もできるし、まさに無くてはならないものなのじゃ。しかし、かといってトウモロコシだけを食べていればいいかというと、そうではないのじゃ」


 長老はそう云って、トウモロコシの根元を指し示した。

 豆がツタを伸ばしてトウモロコシに巻き付き、カボチャのツルも広がっている。ツタにはさやに入った豆ができていて、カボチャは小さな実がついていた。カボチャはこれから大きくなるらしい。


「トウモロコシ、豆、カボチャ。この3種類を食べることで、ワシらナヴィ族は病気を予防し、長生きができるのじゃ」

「最初にトウモロコシができて、次に豆。そして最後に余った養分を吸って、カボチャができあがるんだ。この3種類の作物は、保存も効いて食べ方も様々。俺達ナヴィ族にとって、本当に重要な食べ物なんだ」


 長老に続いて、ティオが説明する。


「そしてワシらの村では、三姉妹がこの畑を守っているのじゃ」

「三姉妹?」


 三姉妹が、この畑を守っている?

 どういうことなのか、首をかしげていると、長老が杖を頭上に挙げて軽く左右に振った。


 すると畑の中から、ナヴィ族の少女が3人現れた。

 それぞれ、トウモロコシと豆とカボチャを模ったアクセサリーを、首から下げている。少女たちは顔も背丈も服もそっくりで、首から下げたアクセサリーしか違いがないとオレは思った。


「あれ? あなたたちは確か、さっき昼食の時にもいた……」

「「「はい。私たちは、三姉妹です」」」


 ライラの言葉に、3人の少女が同時に云った。

 声までそっくりだ。ますます見分けがつかない。


「私たちが、この畑を守っています」

「えっ、君たちが!?」


 オレは驚くが、少女たちは胸を張って頷いた。

 オレたちよりも、ずっと年下だ。まだ10歳くらいじゃないか?

 そんな小さな3人の少女が、この広大な畑を守っているなんて、信じられなかった。


「どうやって、こんな広い畑を3人で……?」

「お手伝いしてくれる大人の方が、たくさんいます」


 トウモロコシのアクセサリーを下げた少女が、答えた。


「私たちは、種まきや成長の確認が、主な仕事なんです」

「私たちが種まきをしますと、不思議と作物がよく育つのです。そして作物が育っていることを確認して、最適な収穫のタイミングを決めています」

「なので、私たちがこの畑を守っているのです」


 トウモロコシの少女に続き、豆の少女とカボチャの少女が、そう説明した。

 不思議だが、この少女たちのおかげで、この村のナヴィ族は美味しい作物にありつけるわけか。


「長老様、お呼びですか?」

「この友人たちは、とても美味しいポムパンと、その作り方を教えてくれた。私たちからも、お礼をしなくてはならない」

「かしこまりました」


 トウモロコシのアクセサリーを下げた少女が一礼し、他の2人と立ち去っていった。




 そしてすぐに、3人の少女は何かを持って戻ってきた。


 乾燥トウモロコシが入った袋。

 乾燥豆が入った袋。

 乾燥カボチャの種が入った袋。


 その3つの袋を、少女たちはオレとライラに差し出した。


「これは、私たちからのお礼の気持ちです」

「この畑で採れた作物から、取り除いた種です」

「故郷でも、この3つの作物を育ててもらえると、嬉しいです」


 こんな小さな少女を相手に、差し出されたものを断ることなど、オレたちにはできなかった。

 少女たちから、種が入った3つの袋を、オレたちは受け取った。


「ありがとう!」


 ライラが、1人ずつ少女たちの頭を順番に撫でていった。

 撫でられた少女たちは、目を丸くしてから、パッと顔を紅くして喜ぶ。ライラから撫でられたことが、いたく気に入ったみたいだ。

 まるでライラが、少女たちの姉に見えてくる。


「わたしも、これがすごく欲しかったの! 故郷に帰ったら、絶対に育てるからね!」


 ライラがそう云うと、少女たちは満面の笑みになる。


「きっと、美味しい作物ができるはずです」

「ライラさんのポムパンも、とっても美味しいものでした。私たちの種から育った作物を使うと、きっともっと美味しくなるはずです!」

「これらの種から育った作物は、私たち3人の分身です。是非、故郷の皆さんで食べてくださいね」


 少女たちはそう云い、オレとライラは頷いた。




 畑を離れ、オレたちは長老とティオと共に、ナヴィ族の村へと向かっていた。


「本当にこんなに貰っちゃって、悪い気がします」

「いやいや、それはもう君たちのものだ」


 ライラの言葉に、ティオが3つの袋を見て告げる。


「あの三姉妹から種を分けてもらえることは、ナヴィ族でも滅多にないことなんだ。君たちはすごく気に入ってもらえたらしい。あんなに美味しいポムパンを、作ってくれたからかもしれないな」


 ティオがそう云い、ライラは嬉しそうな笑顔を見せる。

 オレもライラが褒められて、嬉しくなった。


 とても平和なひと時が、そこには確かに存在していた。

 しかし、それは長くは続かなかった。



 ドゴォン!!!!



 突如として、シャイアンの方角で爆発が起こった。


「なっ、なんじゃ!? 今の爆発音は!?」


 長老が驚いて叫ぶ。


「ビートくん……」

「うん、嫌な予感がする」


 オレはそっと、ガンベルトのソードオフに、手を添えた。


「とっ、とにかく村へ戻るのじゃ! 何か分かるかもしれん!!」

「長老、急ぎましょう!」


 ティオがそう云い、オレとライラも頷いた。




 一体、何が起こったんだ!?


 オレたちは急いで、ナヴィ族の村へと向かっていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、5月3日憲法記念日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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