第86話 西大陸の開拓地
ライドの駅を出た後。
オレたちの行く先に広がっている景色は、開拓地の田畑や牧場だった。
開拓地は広い。
その広さを生かして、田畑や牧場を営む開拓民は多い。開拓民たちは使える土地を、使えるところまで余すところなく使おうとする。その結果として、田畑や牧場は後代になる。
オレたちの前に広がっているのも、広大なトウモロコシ畑だ。
収穫量が多くて主食としても使える作物のトウモロコシは、開拓地には持ってこいの作物だ。それにこの辺りの土地は、トウモロコシ栽培に適している。だからこそ、どこまでも広がるトウモロコシ畑を作ることができる。
「ビートくん、すごい景色ね!」
ライラが、どこまでも広がるトウモロコシ畑を見て叫ぶ。
「こんなにたくさんのトウモロコシを見たの、初めて!!」
「開拓地では、あまり珍しくない景色だけど、やっぱりすごいよな。こんなにたくさんも、全部人の手で植えたんだからな」
すると、突如として目の前に広がっていたトウモロコシ畑が、そびえたつ岩山によって遮られた。
目の前に岩肌ばかりが映し出される。
それが1分か2分ほど続くと、岩肌が目の前から消えた。
しかし、次に目の前に広がったのは、トウモロコシ畑ではなく荒野だった。
「ビートくん、どうしてこんなに違うの!?」
あまりにも極端な景色の変化に、ライラは目を丸くしていた。
「開拓地はまだまだ、手つかずの土地も多いんだ」
そんな大自然も拝める景色の中、バーン・スワロー号は次の停車駅に向かって進んでいった。
バーン・スワロー号が停車したのは、ナヌムチという町だった。
3時間しか停車時間がないことに、オレとライラは顔を見合わせた。たった3時間では、何かをしようとするにはあまりにも短い。それにここも、開拓民が集まってできた、小さな町だ。何があるかくらいは、すぐに分かる。もちろん、見て回るような場所も無い。
「ビートくん、降りてみる?」
ライラが訊いてくるが、オレは首を横に振った。
「降りても、やることが無いよ。お昼は食べた後だし、夕食には早い……」
オレは懐中時計を取り出した。
ライドの駅を出てから、まだ2時間も経っていない。なんでこんな場所で3時間も停車するのか、オレには分からなかった。
荒野の真ん中にあるような場所で、わざわざ列車から降りてする用事など、思い浮かばなかった。
買い物をするにしても、購入しないといけないものは見当たらない。弾丸も食料も、まだ手持ちは十分にある。
それにオレたちはライドで外出中に、銃撃戦に遭遇した。またしても、そんなことが起こらないとは云い切れない。だから外出する気には、なれない。そうそう何度もトラブルに巻き込まれるのは、勘弁願いたい。
「それに……」
オレはライラに目を向けると、そっとオレはライラに手を伸ばしていく。
すると、それを見たライラは、少しだけ前かがみになった。そのまま狼耳も、そっと伏せる。どうやら、オレの考えていることを理解してくれたみたいだ。さすがはライラだ。
ライラの頭に手を置き、オレは優しくライラを撫でた。
オレが撫で始めると、それに呼応するかのように、ライラは笑顔で尻尾を振り始める。
「オレは今とっても、ライラの頭を撫でたい気分だったんだ」
「わたしはいつだって、大歓迎よ?」
「そうしたい気持ちはあるけど、やっぱり人目のあるところだと恥ずかしいからね。プライベートな場所じゃないと、難しいなぁ」
オレはそう云って、ライラの頭を撫でていく。
「あぁ、気持ちいいよぉ……くぅーん」
「ライラ、また犬みたいな声出してる」
「犬じゃないよぉ……どうしても出ちゃうの」
ライラは尻尾を振りながら、オレにそう云った。
そんなライラが可愛くて、何度もライラの頭を撫で続けた。
そしてオレがライラを撫で終えると、出発を告げる汽笛が鳴り、バーン・スワロー号は走り出した。
オレは3時間ほど、ライラを撫で続けていたことを、汽笛で知った。
再び走り出したバーン・スワロー号の車窓からは、相変わらず荒野が広がっていた。
夕焼けが差し迫ってきて、荒野の景色はもの悲しさを演出しているようだった。
「ライラがいて、本当に良かった……」
夕焼けを見ながらオレがそう云うと、ライラの耳がピクンと動いた。
「ビートくん、どうしたの?」
「いや、ちょっとね……昔読んだ、旅人の伝記を思い出したんだ」
オレの脳裏には、グレーザー孤児院に居た頃に読んだ、旅人の伝記の内容が浮かんでいた。
荒野を旅する孤独な旅人の胸の内をつづった伝記は、子供心にもの悲しくなったことを、オレは今でも覚えている。どうしてあんな内容の本が、グレーザー孤児院に置いてあったのかは分からない。
だけど、オレはその本を何度か読んだことがあった。
「旅人の伝記? それとわたしが、関係あるの?」
「その中には、こう書かれていたんだ。……どこまでも続く荒野と、それを照らす赤い夕焼け。その中を歩いていると、自分がこの世界に独りぼっちになったような錯覚に陥る。あぁ、誰でもいい。共にこの誰も居ない道を歩んでいく者が居てほしい。夜にはたき火を囲んでコーヒーを飲み、共に道を進もう。誰であっても構わない。もう独りぼっちは十分だ。この寂しさを埋めるには、私独りではどうにもできない……」
オレは本の文章を語りながら、夕陽を眺める。
「……あの旅人の寂しい気持ちが、読んだときはあまり分からなかった。だけど今は、なんとなく分かるような気がするんだ。こんな寂しい景色の中を独りでいくと思うと、どうしてもツレが欲しくなるよ」
ムギュッ!
云い終わったと同時に、オレはライラに抱き着かれた。
「わあっ!?」
「ビートくん、その旅人の気持ち、すっごくよく分かるよ!!」
驚いて顔を紅くしたオレに、ライラが真剣なまなざしで云った。
「ビートくんが隣に居ないと思うだけで、すごく寂しくなってきちゃった!」
「ライラ……オレも隣にライラが居ないと思うと、寂しくてたまらないよ」
オレはそっと、ライラを抱きしめる。
「ライラ、オレはいつまでもライラの隣に居るから!」
「わたしも、ずーっとビートくんと一緒だから!」
オレとライラはそう云うと、顔を合わせて、笑い合った。
やっぱりオレとライラは、これから先もずっと一緒にいるだろう。
「さて……そろそろ夕食にしようか」
「うん! グリルチキンが食べたい!!」
ライラのリクエストに、オレは頷いた。
その後、オレたちは食堂車でグリルチキンを食べてから、個室に戻って眠りについた。
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