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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第7章 開拓地横断旅行
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第86話 西大陸の開拓地

 ライドの駅を出た後。

 オレたちの行く先に広がっている景色は、開拓地の田畑や牧場だった。


 開拓地は広い。

 その広さを生かして、田畑や牧場を営む開拓民は多い。開拓民たちは使える土地を、使えるところまで余すところなく使おうとする。その結果として、田畑や牧場は後代になる。


 オレたちの前に広がっているのも、広大なトウモロコシ畑だ。

 収穫量が多くて主食としても使える作物のトウモロコシは、開拓地には持ってこいの作物だ。それにこの辺りの土地は、トウモロコシ栽培に適している。だからこそ、どこまでも広がるトウモロコシ畑を作ることができる。


「ビートくん、すごい景色ね!」


 ライラが、どこまでも広がるトウモロコシ畑を見て叫ぶ。


「こんなにたくさんのトウモロコシを見たの、初めて!!」

「開拓地では、あまり珍しくない景色だけど、やっぱりすごいよな。こんなにたくさんも、全部人の手で植えたんだからな」


 すると、突如として目の前に広がっていたトウモロコシ畑が、そびえたつ岩山によって遮られた。

 目の前に岩肌ばかりが映し出される。


 それが1分か2分ほど続くと、岩肌が目の前から消えた。

 しかし、次に目の前に広がったのは、トウモロコシ畑ではなく荒野だった。


「ビートくん、どうしてこんなに違うの!?」


 あまりにも極端な景色の変化に、ライラは目を丸くしていた。


「開拓地はまだまだ、手つかずの土地も多いんだ」


 そんな大自然も拝める景色の中、バーン・スワロー号は次の停車駅に向かって進んでいった。




 バーン・スワロー号が停車したのは、ナヌムチという町だった。

 3時間しか停車時間がないことに、オレとライラは顔を見合わせた。たった3時間では、何かをしようとするにはあまりにも短い。それにここも、開拓民が集まってできた、小さな町だ。何があるかくらいは、すぐに分かる。もちろん、見て回るような場所も無い。


「ビートくん、降りてみる?」


 ライラが訊いてくるが、オレは首を横に振った。


「降りても、やることが無いよ。お昼は食べた後だし、夕食には早い……」


 オレは懐中時計を取り出した。

 ライドの駅を出てから、まだ2時間も経っていない。なんでこんな場所で3時間も停車するのか、オレには分からなかった。

 荒野の真ん中にあるような場所で、わざわざ列車から降りてする用事など、思い浮かばなかった。


 買い物をするにしても、購入しないといけないものは見当たらない。弾丸も食料も、まだ手持ちは十分にある。

 それにオレたちはライドで外出中に、銃撃戦に遭遇した。またしても、そんなことが起こらないとは云い切れない。だから外出する気には、なれない。そうそう何度もトラブルに巻き込まれるのは、勘弁願いたい。


「それに……」


 オレはライラに目を向けると、そっとオレはライラに手を伸ばしていく。

 すると、それを見たライラは、少しだけ前かがみになった。そのまま狼耳も、そっと伏せる。どうやら、オレの考えていることを理解してくれたみたいだ。さすがはライラだ。


 ライラの頭に手を置き、オレは優しくライラを撫でた。

 オレが撫で始めると、それに呼応するかのように、ライラは笑顔で尻尾を振り始める。


「オレは今とっても、ライラの頭を撫でたい気分だったんだ」

「わたしはいつだって、大歓迎よ?」

「そうしたい気持ちはあるけど、やっぱり人目のあるところだと恥ずかしいからね。プライベートな場所じゃないと、難しいなぁ」


 オレはそう云って、ライラの頭を撫でていく。


「あぁ、気持ちいいよぉ……くぅーん」

「ライラ、また犬みたいな声出してる」

「犬じゃないよぉ……どうしても出ちゃうの」


 ライラは尻尾を振りながら、オレにそう云った。

 そんなライラが可愛くて、何度もライラの頭を撫で続けた。


 そしてオレがライラを撫で終えると、出発を告げる汽笛が鳴り、バーン・スワロー号は走り出した。

 オレは3時間ほど、ライラを撫で続けていたことを、汽笛で知った。




 再び走り出したバーン・スワロー号の車窓からは、相変わらず荒野が広がっていた。

 夕焼けが差し迫ってきて、荒野の景色はもの悲しさを演出しているようだった。


「ライラがいて、本当に良かった……」


 夕焼けを見ながらオレがそう云うと、ライラの耳がピクンと動いた。


「ビートくん、どうしたの?」

「いや、ちょっとね……昔読んだ、旅人の伝記を思い出したんだ」


 オレの脳裏には、グレーザー孤児院に居た頃に読んだ、旅人の伝記の内容が浮かんでいた。

 荒野を旅する孤独な旅人の胸の内をつづった伝記は、子供心にもの悲しくなったことを、オレは今でも覚えている。どうしてあんな内容の本が、グレーザー孤児院に置いてあったのかは分からない。

 だけど、オレはその本を何度か読んだことがあった。


「旅人の伝記? それとわたしが、関係あるの?」

「その中には、こう書かれていたんだ。……どこまでも続く荒野と、それを照らす赤い夕焼け。その中を歩いていると、自分がこの世界に独りぼっちになったような錯覚に陥る。あぁ、誰でもいい。共にこの誰も居ない道を歩んでいく者が居てほしい。夜にはたき火を囲んでコーヒーを飲み、共に道を進もう。誰であっても構わない。もう独りぼっちは十分だ。この寂しさを埋めるには、私独りではどうにもできない……」


 オレは本の文章を語りながら、夕陽を眺める。


「……あの旅人の寂しい気持ちが、読んだときはあまり分からなかった。だけど今は、なんとなく分かるような気がするんだ。こんな寂しい景色の中を独りでいくと思うと、どうしてもツレが欲しくなるよ」


 ムギュッ!

 云い終わったと同時に、オレはライラに抱き着かれた。


「わあっ!?」

「ビートくん、その旅人の気持ち、すっごくよく分かるよ!!」


 驚いて顔を紅くしたオレに、ライラが真剣なまなざしで云った。


「ビートくんが隣に居ないと思うだけで、すごく寂しくなってきちゃった!」

「ライラ……オレも隣にライラが居ないと思うと、寂しくてたまらないよ」


 オレはそっと、ライラを抱きしめる。


「ライラ、オレはいつまでもライラの隣に居るから!」

「わたしも、ずーっとビートくんと一緒だから!」


 オレとライラはそう云うと、顔を合わせて、笑い合った。

 やっぱりオレとライラは、これから先もずっと一緒にいるだろう。


「さて……そろそろ夕食にしようか」

「うん! グリルチキンが食べたい!!」


 ライラのリクエストに、オレは頷いた。




 その後、オレたちは食堂車でグリルチキンを食べてから、個室に戻って眠りについた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、4月28日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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