第84話 トワイライト・トラベラー
夕方が、訪れた。
太陽が西へ西へと傾いていき、その中をバーン・スワロー号は走り抜けていく。
もうすぐ太陽が、地平線まで到達することは、誰もが分かり切ったことだ。
そんな中、オレとライラは、食堂車へと向かっていた。
「ビートくん、今日は夕食も早いね」
ライラが、オレに云う。
先ほどまで娼婦のドレスを着ていたライラは、今は薄紫色のドレスに身を包んでいた。
「今日は色々とあって疲れたからね。だから、早めに夕食にしておいて、夜はゆっくり休もうと思うんだ」
「あー、それ賛成!」
オレの言葉に、ライラは頷いた。
「昼寝したけど、なんだかあんまり疲れが取れていないような気がするの。わたしも、今夜はゆっくりと寝たい!」
「それじゃあ、夕食を食べた後は、眠くなったらそのまま寝ちゃおうか。満腹になっているときのほうが、よく眠れるからね」
「うん! ビートくんと一緒に寝たい!」
「ちょっ、ライラ……!」
ライラの言葉に、オレは辺りを見回した。
幸いにも、オレたち意外には誰も居なかった。
「恥ずかしいから、個室以外でそういうことを云うのは、止めて!」
「えへへ……」
緊張で身体が熱くなっているオレの隣で、ライラは嬉しそうに笑った。
食堂車に入ると、まだお客さんは少なかった。
懐中時計を見ると、まだ18時だ。ピークがやってくるのは、あと1時間後だろう。今なら、好きな席に座って、好きな料理を注文できる。
空いている席に座り、オレたちはメニューを開いた。
「ライラ、何を食べようか?」
そう云ってメニューを見たオレは、目を丸くした。
メニューに載っている料理の品数が、明らかに少なかった。
・サーロインステーキ
・ステーキ
・フリーランチ各種
・豆スープ
・煮豆
・ペペロンチーノ
・グリルチキン
・お酒とソフトドリンク
これくらいしかなかった。
昼はあまり注意深く見ていなかったため、気がつかなかった。
アークティク・ターン号の食堂車に比べて、そのメニューの差は大きかった。しかもメニューには『ランチ&ディナーメニュー』と書かれている。どうやらこれとは別で、朝食用のメニューもあるみたいだ。
しかし、朝食用メニューもあまり期待はできそうにないな。
「……オレは、グリルチキンにするよ」
「わたしも!」
オレがメニューを選ぶと、ライラも同じものを頼むことになった。
オレは卓上の呼び鈴を鳴らして、ウエイターを呼んだ。
食事を終えると、オレとライラは紅茶を飲んだ。
グリルチキンやステーキなどは、セットメニューになっていて、全てに紅茶かコーヒーのどちらかがついていた。夜遅くまで起きているつもりは無かったため、オレたちはコーヒーではなく、紅茶を選んだ。
「ビートくん、すごい夕陽ね」
ライラが、窓の外を見て云った。
太陽はそろそろ、地平線に到達するところだ。西日は勢いを増し、多くの人はブラインドを閉めて食事をしていた。そんな中、オレたちはもうすぐ個室に戻ることもあり、夕陽を眺めながら紅茶を楽しんでいた。
外の世界が、太陽の光で赤く染まっていく。まるでオレたちが飲んでいる紅茶のような色になっていくのが、なんだかおもしろく感じられた。
「やぁ、旅の少年少女、ビートにライラじゃないか!」
聞き覚えのある声。
もうその声が誰なのか、オレたちは知っていた。
「「カリオストロ伯爵!?」」
オレたちは、同時に相手の名前を呼んだ。
振り返ると、そこにはカリオストロ伯爵がいた。
「どっ、どうしてまた!?」
「実はこれから、北大陸のサンタグラードに向かわなくちゃいけないんだ。仕事が入ってしまってね」
カリオストロ伯爵は、ころころと笑う。
北大陸のサンタグラード。そこを目指しているのは、オレたちも同じだ。
「この前までいたサンタグラードに、また行かなくちゃいけないんだ」
「そうなんですか。実は、僕たちもサンタグラードに向かっているんです」
「ほう!」
オレの言葉に、カリオストロ伯爵は目を丸くした。
「それはそれは、なんという偶然だろう! そういえば、ビートとライラはトキオ国の跡地を目指していたんだな。だけど北大陸のサンタグラードに向かっているということは……トキオ国の跡地を、訪ねたということか!」
「えぇ、その通りです」
オレが頷く。
カリオストロ伯爵は、うんうんと頷いた。
「そうかそうか。また機会があったら、是非旅の話を伺わせてほしいな。……それにしても、すごい夕陽だな」
オレたちが掛けている座席の窓から、カリオストロ伯爵は外を見て云った。
「すごいですよね。わたしもこんな夕陽を見たのは、久しぶりです」
「そうだ! いいことを教えよう」
ライラの言葉の後に、カリオストロ伯爵は手を叩いてそう云った。
いいことっていうのは、どんなことだろう?
「夕陽の中で、告白するというシチュエーションがあるだろう? あれはロマンチックだから行われるというものもあるけど、実はもう1つの意味もあるんだ」
「もう1つの意味、ですか?」
「そうだ」
頷くカリオストロ伯爵の前で、オレたちは顔を見合わせる。
夕陽の中で告白することで、ロマンチック以外にどんな効果があるのか。
「実はね……夕陽が訪れる時間帯というのは、夕方だ。夕方には、その日の仕事で疲れ切っている人が多い。そんな時は、相手の意見に流されやすいんだ。思考や判断能力が、弱くなる時間帯だからね。だから夕方に行うと、告白の成功率が上がるともいわれているんだ。演説が夕方に行われるのも、同じことだ」
へぇ、そんな効果があったなんて。
オレとライラは、カリオストロ伯爵の博識さに、またしても驚かされた。
「さて、私はこれから1等車の個室に戻る。ここの個室に居るから、何かあったらいつでも訪ねてきておくれ」
カリオストロ伯爵は、そう云って、オレに1枚の紙を手渡した。
そこには、部屋番号が記されていた。
「それでは、さらばだ!」
カリオストロ伯爵は、そのまま食堂車を後にしていった。
どうやらオレたちよりも先に、食事を済ませていたらしい。
その後、オレたちも紅茶を飲み終えると、支払いをして食堂車を後にした。
1等車の個室に戻ってくる頃には、太陽は半分が地平線に沈み、夕陽もピークを迎えていた。
個室の中にまで差し込んでくる夕陽がまぶしくて、オレはブラインドを下げた。
「ねぇ、ビートくん……」
オレがベッドに腰掛けて休んでいると、ライラが隣に座った。
「ライラ、どうかした?」
「……尻尾、触りたい?」
ライラの言葉に、オレは驚いた。
尻尾をライラの方から触ってもいいと云ってくるなんて、オレウジュを出発した後以来だ。
「いっ……いいの!?」
「うん……!」
オレが問うと、ライラは尻尾をオレの前に差し出した。
「いいよ、いっぱい触って」
「それじゃあ……!」
オレはそっと、ライラの尻尾に触った。
尻尾がピクンと動き、ライラの表情も変化する。
「んうっ……!」
ライラが喘ぎ声に似た声を放つ中、オレはライラの尻尾を触り続ける。
あぁ、ライラの尻尾はモフモフしていて気持ちがいい……!
「あんっ……気持ちいいよぉ……」
「意外だね、ライラ」
尻尾を触られて、気持ちいいとライラがいうなんて……!
オレは嬉しくなって、さらに触っていく。
「尻尾を触られるのが、ライラは気持ちいいんだ?」
「うん……ビートくんに、すっかり変えられちゃったぁ……!」
恥ずかしそうに、ライラが云う。
あぁ、なんて可愛いんだろう。
オレはいつしか、思考停止したように、ライラの尻尾をモフるマシーンと化していた。
結局その後、オレはライラと共に眠くなるまで、ライラの尻尾をモフり続けた。
バーン・スワロー号は、オレたちを乗せて、さらに西大陸の開拓地を進んでいった。
第6章 帰り道のはじまり~完~
第7章へつづく
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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次回更新は、4月上旬の21時更新予定です!
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年度末で決算が重なって忙しくなってしまうため、また少しの間休載します。
楽しみにして頂いている方には申し訳ありませんが、更新再開まで今しばらくお待ちください。
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次回からは、第7章へと突入いたします!
開拓地でビートとライラはどんな事件に巻き込まれていくのでしょうか!?
乞うご期待ください!
それと、幼馴染みと大陸横断鉄道の主人公、ビートとライラの姿は、漫画家の山田牛午先生(@ymd95)に依頼して描いていただいております!!
Skebにて、ビートとライラの姿が見れます!!
とっても可愛くてカッコいい、ビートとライラです!!
山田牛午先生のSkebは、こちらです→https://skeb.jp/@ymd95
山田牛午先生、ありがとうございます!!
ちなみにファンアートは大歓迎です。
ビートとライラの姿を描いていただけますと、ルトくんもとっても喜びます!!
今後も頑張って更新していきますので、どうぞよろしくお願いします!





