表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第6章 帰り道の始まり
81/140

第81話 ホープへの到着

 ブルーホワイト・フライキャッチャー号は、オレたちを乗せて終点である、ホープに向かって進んでいく。

 決して早くはないが、心地よい揺れに揺られていると、客室のベッドはとてもいいゆりかごになってくれる。そのため列車で移動中に、寝る人は多い。

 単に景色が単調で、つまらないから寝ているしかないというのも、大きな理由ではあるが……。




「毎度ありがとうございましたー!」


 オレはブルーホワイト・フライキャッチャー号にある売店の1つで、雑誌とポケットサンドイッチを2つ購入した。雑誌はもちろん読むためのもので、ポケットサンドイッチはオレとライラの軽食だ。

 昼食はもう食べたが、オレはまだ少し食べ足りないところがあった。携帯食料も持ってはいるが、いつも携帯食料を食べていると、飽きてしまう。それに携帯食料は非常食も兼ねているから、食べ尽くしていざいという時に食料が無いという事態を招くわけにはいかない。


 それに携帯食料ばかり食べていると、野菜不足になってしまう。

 旅行中はただでさえ、野菜不足になりやすい。だからなるべく、野菜を使った料理を食べるように意識していた。ライラにも、なるべく食べてほしいと思っているが、ライラはあまり野菜を食べようとしない。

 だが、オレが買ってきたものなら、喜んで食べるはずだ。


「このポケットサンドイッチ、美味そうだな……」


 オレは購入したポケットサンドイッチを見て、そう云った。

 野菜だけではない。ライラが好きなグリルチキンも、薄切りにして挟んである。冷たいが、それでも美味しく食べられるようになっているみたいだ。

 きっとライラも、喜んでくれるはずだ!


 雑誌とポケットサンドイッチを手に、オレはライラが待つ個室に戻っていった。




 ドアを開けて、個室に入り、短い階段を登ってベッドに向かう。

 そこでは、ライラが待っている。


「ライラ……あれっ?」


 オレはライラを呼んで、目を丸くした。


 ライラは、ベッドの上ですやすやと眠っていた。

 寝転がっているのではなく、本当に眠っている。しかも熟睡しているらしく、静かな寝息しか聞こえてこない。ライラの寝息以外で聞こえてくるのは、列車が走る音だけだ。


「寝ちゃってる……」


 時折動く獣耳を見ながら、オレは呟いた。

 昼食を食べてから、ほぼ1時間が経った頃だ。食後の眠気に誘われて、眠ってしまったみたいだ。


 オレも食後に眠くなることはある。

 グレーザー孤児院に居た頃は、それが原因で授業中に眠ってしまったこともあった。昼食を食べた後というものは、どうしても眠くなるものだ。


 ポケットサンドイッチを買ってきたが、わざわざ起こしたりする必要もないだろう。

 オレはライラを起こさないように、ベッドの隅に腰掛け、近くにポケットサンドイッチを置いた。


「オレはしばらく、ゆっくりと雑誌を読むとするか」


 久々に、1人でゆっくりと本……ではないけど、雑誌を読める時間ができた。

 オレは雑誌を開くと、なるべく音を立てないように、ページをめくっていった。




 事件の記事や、エッセイに連載小説、コラムなどを読み進めていく。


 どの記事も面白く、オレはついつい時が経つのを忘れてしまった。

 この雑誌、初めて買ってみたけど、意外と当たりだったな。


 そして読み進めていくうちに、恋愛系の記事に辿り着いた。

 恋愛なんて、ライラと結婚した今のオレには関係がないだろうな。

 そう思いながらも、オレは記事の内容に目を通した。


 しかしその記事には、信じられないことが書かれていた。


「……!?」


 オレはその記事の内容に、目が釘付けになった。

 そこには、次のような内容が書かれていた。


「なになに……結婚した女性や気になっている女性と2人っきりの部屋で、相手の女性がぐっすり寝ているときは、あなたには何をされてもOKのサインです。ビッグチャンスなので、普段は恥ずかしくてできないようなことも、やっちゃいましょう……えぇ、本当かこれ……?」


 その記事の内容は、にわかには信じがたいものだった。

 いくら相手と2人っきりの状況とはいえ、いったいどこにそんな根拠があるというのだろう?


 ライターは、何を考えながら、この記事を書いたのだろう?

 もしかしてこの記事は、妄想の産物ではないのか?


 オレはそう思いながら、さらに読み進めた。


「えーと……寝ているときは、相手は何かあってもすぐに抵抗できません。そもそも、あなたから何をされてもOKと思っていないと、2人っきりの部屋で寝ることは女子としてあり得ません! あなたと同じ部屋で寝るということは、もう覚悟ができているという証拠! 相手をあなただけのものにしてしまいましょう!」


 そこまで読んで、オレはライラを見た。

 ライラは相変わらず、すやすやと眠っている。仰向けになっていて、突然襲われても反撃したりはできそうにない。


 いや、まさか……!


「そっ、そんな!? ライラが、そんな大胆なことを!?」


 オレは叫んでから、慌てて口を噤んだ。思わずとはいえ、声が大きすぎた。

 もしかして、ライラを起こしてしまっただろうか!?

 慌ててオレは、ライラに目を向ける。


 しかし、ライラは相変わらず仰向けになって眠っていた。

 どうやら、起きたりはしていないようだ。


 オレはホッと胸を撫でおろした。


「それにしても……まさかライラが、そんな大胆なことなんて……」


 オレのことが大好きとはいえ、さすがにそんなことをするだろうか?

 だけど、もしもそうだとしたら、オレはどうすればいいんだろう……?


 ライラが眠っている中、オレは少し考え始めた。




 わたし、ライラはビートくんの叫び声で、目を覚ましました。

 ちょっとビックリしてしまいましたが、わたしは寝たふりをしてしまいました。


 どうして、そんなことをしたかですか?

 それはビートくんの言葉が、少し気になったからです。


 わたしがどうして、大胆なことをしているのか?

 それが気になってしまいました。

 起き上がってビートくんに訊けば、早いことは確かです。でも、それでは面白くないような気がしました。


 ビートくんが、わたしが寝ている時にどんなことを考えているのか。

 それを覗き見できるかもしれないとも、考えたためです。

 さて、ビートくんはどんなことを考えているのでしょうか?


 ちょっと、様子を見てみましょう。




 オレはライラを見つつ、考え事をしていた。


 仰向けになって眠っているライラは、まるで絵画のようだ。気持ちよさそうに眠るライラを見ていると、もっと近くまで行って見ていたくなってしまう。

 すると、ライラが寝返りをうった。そのときに尻尾が動き、オレの目に映った。


 尻尾!

 そうだ、ライラの尻尾はモフモフしていて、触り心地は最高だ。

 オレはずっと、ライラの尻尾に夢中になっている。一度触ってしまうと、もう離れられない魔性の存在だ。なかなか触らせてくれないから、こっそりと触っては、いつも注意される。だけど、オレは止められない。


「尻尾に触っちゃおうかな?」


 ライラの尻尾を見ながら、オレはそんなことを考えた。




 わたしはビートくんの言葉に、呆れてしまいました。


 どうしてビートくんは、わたしの尻尾に触りたがるのでしょう?

 モフモフしていて気持ちいいのが理由みたいですが、そんなにいいものなのでしょうか?


 グレーザー孤児院に居た頃から、全くと云っていいほど変わっていません。

 そんなところが、ちょっと嬉しいのですが……。




 ふとオレは、ライラの顔に目を向けた。

 ぷっくりとした唇が、少しだけ動いたような気がした。唇からは、少しだけ八重歯も見えている。


 ライラは、ほぼ1日に1回は、オレにキスをしてくる。

 オレと唇同士でキスをすることもあれば、頬にキスしてくることもある。どこにしてくるかは、その時々で全く違う。もちろんオレは、ライラからのキスは大歓迎だ。


 しかし、オレからキスをすることは、あまりない。

 その理由は、恥ずかしいからだ。


 ライラは気軽にキスをしてくるが、オレはなかなかライラにキスができない。

 もちろん全くしないわけではないが、人前でもキスをしてくることがあるライラとは違い、オレは2人っきりでないとなかなかできない。

 ちょうど今なら、2人っきりだ。


「キス……しちゃおうかな?」


 オレはライラの唇を見て、呟く。

 ちょっと強引にキスしてみるのも、たまにはいいかもしれない。


 い、いやダメだ!

 合意がないのにキスをするなんて、夫婦間であってもダメじゃないか!?


 オレは雑念を払うように、頭を振った。




 えっ、ええっ!?

 き、キスしちゃうの!?


 わたしはビートくんの発言に、驚きを隠せませんでした。


 わ、わたしが寝ているのをいいことに、キスをしちゃうなんて……!

 ビートくんのことは好きだけど、これは、どうすればいいの!?


 受け入れるべきなの!?

 それとも拒絶するべき!?

 拒絶しちゃうとビートくんがガッカリしちゃうかな?


 で、でも……ビートくんがそういうことを考えているってことは、わたしのことが好きだからってことよね?

 それは嬉しいけど、寝ているわたしにキスしちゃうの……!?


 わたしはもしビートくんがキスをしてきたら、受け入れるか否かで悩みます。

 起きているときでしたら、わたしは大歓迎です。大好きな人からのキスは、どんなところで受けても、嬉しいものです。

 だけど、今はどうしてか心の準備ができません……!




「いや、待てよ……」


 オレはライラを見て、さらに考えを巡らせた。

 何をされてもOKなら、いっそのことアレをやってしまうのはどうだろう?


「そういう雰囲気じゃないと触れない場所を触ってみても、OKだとしたら……?」


 オレはライラの胸に目を向けた。

 Fはあるだろう大きな胸は、街を歩いていると常に視線を集めてしまう。それは男はもちろんだが、女も注目してしまうのだ。


「ライラの胸、触りたいな……い、いや、これはダメだ!!」


 オレは再び、頭を振った。


「寝ているからといって、そんなことは絶対ダメだ! そんなことをしたら、オレにはライラの隣に居る資格が無くなってしまう!」


 そう自分に云い聞かせて、オレは自分を抑えた。

 そうだ、そんなことをしたら、オレは最低の人間になってしまいそうだ。


 ライラの隣に居たい身としては、やってもいいことと、絶対にしてはいけないことをわきまえないと!




 わたしは、自分の耳を疑いそうになりました。


 わっ、わたしの胸に触りたい!?

 眠っているのをいいことに、わたしの胸を揉みしだくっていうの!?


 男の人が、女性の胸が好きなことは知っています。

 もちろんビートくんも、それは例外ではありません。もちろん、大好きなビートくんにでしたら、触っても怒ったりはしません。わたしに夢中になって喜んでくれるなら、いくらでも触ってもらっても構いません。


 でも、寝ている時に触るのはダメですよね?

 いくら夫婦でも、それだけはダメだとわたしは思います。


 もういっそのこと、起きてしまいましょうか。

 そしてビートくんに、ちゃんと触りたいときは一言云うように、話しておいた方がいいかもしれません。


 そんなことを考え、わたしは起き上がろうかと思いました。

 でも、ビートくんの言葉に、起き上がれなくなってしまいました。




「それにしても……ライラは可愛いな」


 オレは眠っているライラを見て、そう云った。


 美しい白銀の腰まである長い髪に、獣耳と尻尾。

 痩せすぎでもなく、かといって太りすぎでもない体型。

 あどけなさを残す顔を持った美少女なのに、大きな胸とお尻という、大人の身体。


 そして何より、オレに対してどこまでも一途だ。


「美人な上に可愛くて、オレに対してはとことん一途なところを隠そうともしない。まさか……まさかオレのいない世界に未練がないとまで云い切ったのには、驚いたなぁ」


 オレは、ノワールグラード決戦の後に、ライラが泣きながら叫んだ言葉を今も覚えている。

 シャインさんに向かって、そう云ったのだ。オレのいない世界に未練はないと。

 その時に、オレはライラと結婚して、心底良かったと思った。ライラ以上にオレのことを愛してくれる女性は、二度と現れないだろう。


「……オレも、ライラのいない世界に、未練は無いよ。ライラ以上に、オレのことを愛してくれる女性は、絶対にいない。だからライラ……愛してるよ」


 少しだけ顔を紅くして、オレは眠っているライラにそっと云った。

 とてもじゃないけど、起きているライラの前では恥ずかしくて云えないや。




 そのとき、ライラがむっくりと起き上がった。


「うわっ!?」


 オレは驚いて、声を出してしまう。

 もしかして、起こしてしまっただろうか?


「……ライラ?」

「ビートくん……わたしの尻尾を触ったり、キスしたり、胸を触りたいって本当?」

「!?」


 ライラの言葉に、オレは口から心臓が飛び出すかと思った。

 全て、オレが実際に口に出したことばかりだった。


「まさか……起きていたの?」

「うん……。全部、聞いていたわよ……?」


 オレは身体中から、汗が噴き出していくのを感じる。

 全部、聞かれていた。

 とてもライラに聞かせられないことを、全て聞かれていた。


「ビートくん、わたしに対してそういうことを考えていたのね……」

「もしかして……怒ってる?」

「怒ってはいないわ。ただ、ビートくんがそういうことを考えているんだなーって、思っただけ」


 ライラは微笑んで云うが、少しだけその微笑みが怖かった。


 ん?

 待てよ?


 ということは……。


「じゃあ……もしかして本当に、オレには何をされてもOKっていうことだったの?」


 もしそうだとしたら、惜しいことをしたかなぁ。

 そんなことを考えていたが、それはすぐに否定された。


「そんなわけないでしょ!」


 ライラの呆れた声に、オレは肩をすくめる。

 そうだよなぁ。そんな上手い話なんて、世の中あるわけないよなぁ。


「……でも、嬉しかったよ」

「えっ?」


 オレが首をかしげていると、ライラは笑顔になった。


「ビートくんが、わたしのことを愛しているってことも、最後に分かったから」

「あっ……!」


 再びオレは、顔を真っ赤にした。

 最後に云った、ライラへの言葉。


 そうだ、ずっと起きていたのだから、あの言葉もしっかりライラの耳に届いていたんだ!


「あ……あの……えーと……」

「ビートくん、大好き!」


 ライラはそう云って、オレの頬にキスをした。

 オレの思考はオーバーヒートし、オレは何も考えられなくなってしまった。




 その最中に、汽笛が鳴り響いた。


 オレたちは、ブルーホワイト・フライキャッチャー号に最初に乗った駅、ホープに確実に近づいていた。

 そしてブルーホワイト・フライキャッチャー号は、ホープに向けて線路を走り抜けていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、3月27日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ