表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第6章 帰り道の始まり
75/140

第75話 決断

 オレはミーケッド国王とコーゴー女王の墓標の前で、跪いた。


「父さん、母さん。オレはこれから、妻のライラと共に銀狼族の村に帰ります。トキオ国の跡地に来れて、本当によかったと思います」


 オレの横で、ライラも跪いた。


「ミーケッド国王様、コーゴー女王様。わたしは銀狼族のシャインとシルヴィの娘、ライラと申します。今は、結婚してビートくんの妻として一緒になりました! ビートくんのことは、生涯添い遂げることを誓いました!」

「結婚した報告が後になってしまって、ごめんなさい。だけど、オレはライラと結婚できて、すごく幸せです。これからはライラと共に、帰る場所を作っていきます。父さん、母さん、本当にありがとうございました」


 オレはライラと共に、ミーケッド国王とコーゴー女王の墓標に頭を下げた。

 それから、オレたちはトキオ国の跡地を離れることになった。




「ねぇビートくん」


 トキオ国の跡地を出てから、ライラが口を開いた。


「どうしたの?」

「……本当に、いいの?」


 ライラが、真剣な表情でオレに訊いた。

 どういうことなのか、オレには分からなかった。


「ライラ……?」


 オレが首を傾げていると、ライラがオレの前に立って、オレを正面から見据えた。

 正面から見ると、ライラの胸は本当に大きいな……。


「ビートくん、本当に銀狼族の村に帰るの!?」

「そっ、そうだけど……?」

「ビートくん、生まれ故郷でお父さんとお母さんが居る場所に、帰ってきたのよ!?」


 ライラ、何を云っているんだ!?

 オレはライラの云うことが、分からなかった。ずっと一緒に過ごしてきて、結婚までしたのに、ライラの考えていることが全く分からない。

 トキオ国が生まれ故郷であることは、確かだ。それは間違いない。

 父さんと母さんが居る場所というのも、間違いではない。


 だけど、ここは帰る場所ではない。


「ビートくん、ここに居たいのなら、わたしも残るよ!!」

「えっ、ここに残る!?」


 予想外の言葉だった。


「ここは、ビートくんの生まれ故郷。もしもだけど、ビートくんがここに残ってトキオ国を再建したいと思っていたら、わたしも残るよ! だって、ビートくんの居る場所が、わたしの居る場所だから!」

「ライラ、何を云っているんだ?」


 オレがトキオ国を再建するために、ここに残る?

 そんなこと、オレは考えていない。


「ライラ、信じてもらえないかもしれないけど……オレはさっき墓標の前で、父さんと母さんに会ったんだ! そこでオレは、こう云われたんだ!!」


 オレは父さんと母さんから云われたことを、ライラに話した。



 『ビートとライラは、トキオ国で生まれた。それは紛れもない事実だ。しかし、ここはもうお前たちの帰ってくる場所ではない。トキオ国は、滅ぼされてしまって、もうないのだからな。それに、私たちもここにはいないんだ』

 『心配することはないわ。これからは、あなたたちが、自分の力で自分の帰るべき場所を作っていくのよ』

 『母さんの云う通りだ。ビートよ、お前はもう1人前の男だ。帰るべき場所を、自分で作っていくことができる。ライラちゃんとそこで、いつまでも仲良く暮らすんだ』

 『グレーザーでも、銀狼族の村でもいいわ。そしてそこを、トキオ国より素晴らしい場所にしていくのよ。ライラちゃんと、いつまでも仲良く暮らしてね』



「これが、父さんと母さん……ミーケッド国王とコーゴー女王から、云われた言葉だ」


 死者の声が聞こえるなんてことは、普通あり得ないことだ。

 だけど、オレは確かに父さんと母さんの姿を見たし、声も聴いた。


 幻覚を見たのかもしれない。

 でも、幻覚でも構わない。

 確かに父さんと母さんは、オレにそう云ったのだから。


「それに、オレはシャインさんとシルヴィさんに約束した。銀狼族の村に帰ると」

「ビートくん、いいの? 本当に、いいの!?」

「……そうだ!」


 オレは、あることを思い出した。

 ついこの前、白狐族から教わった、王族の決意表明のやり方だ。


 ライラの手を、オレは掴んだ。


「ライラ、行こう!」

「えっ!? ビートくん!?」


 オレはライラの手を掴んだまま、来た道を戻り始めた。

 そのままトキオ国の跡地に戻ると、王宮に向かった。




 王宮に戻ったオレたちは、集合写真を拾った玉座の間に、やってきた。

 かつて父さんと母さんが座ったイスがあり、その上には色褪せた大きなトキオ国の国旗が掲げられている。


 オレはそこで拾った、写真を取り出した。

 ミーケッド国王とコーゴー女王、そしてシャインさんとシルヴィさんが写された写真。その中には、赤ん坊のオレとライラも写っている。

 その写真を、オレはイスに立てかけるように置いた。


「ビートくん、何をするの?」

「決意表明さ」


 ライラにそう云って、オレは腰に差したボウイナイフを引き抜いた。

 オレは写真を置いたイスと、トキオ国の国旗と向き合った。そしてその場で、オレはボウイナイフの刃を、首元にあてがう。


「ビートくん!?」


 ライラが叫ぶが、オレは左手でライラに合図を出した。

 何もしなくていい。その場で待っていてくれ。

 オレの合図を感じ取ったのか、ライラの足音は、途中で止まる。


 よし、これで準備は整った。


 オレは深呼吸をしてから、口を開いた。



「トキオ国国王ミーケッドの王子、ビートはここに宣誓する! 我は最愛の妻ライラと共に、銀狼族の村を第二の故郷と定める! 銀狼族の村をかつてのトキオ国のような、良い場所にすることを、誓う!!」



 これは、王族たちの間で行われている決意表明を真似たものだ。

 白狐族のテンはかつて、白狐族の族長としてトキオ国の儀式に参列したことがあった。そしてそこで、国王に対する決意表明の場で、このようなことが行われたのを見てきたという。オレはその内容を、テンから聞いていた。それをそのまま、オレはこの場で真似してみせた。


 もちろん、真似だとしてもオレは本気だった。

 今は無くなってしまった生まれ故郷のトキオ国と、天国にいる父さんと母さん。その2つに向けて、オレは誓いを立てたつもりだ。

 父さんと母さんは、ここが戻ってくる場所ではないし、もうここにはいないと云っていた。

 そしてこれからは、オレが帰る場所を作っていくべきだとも、云っていた。


 それならば、それに応えるのがオレにできる父さんと母さんへの、親孝行ではないだろうか。


 父さんと母さんは、これからもオレのことを天国から見守ってくれるはずだ。

 そしてライラは、両親であるシャインさんとシルヴィさんに、銀狼族の村で再会できた。両親に再会できたのだから、もう離れ離れになってほしくない。それにシャインさんとシルヴィさんは、オレも実の息子のように接してくれている。


 オレがやるべきことは、決まった。

 銀狼族の村を帰る場所と定め、そこをトキオ国のような場所にしていくことだ!


 オレにはもう、迷いは無かった。


 ボウイナイフを鞘に戻して振り向くと、ライラがキョトンとした表情で、オレを見ていた。


「ビートくん……?」

「オレは、一生涯ライラと共に生きていくと誓って、ライラと結婚した。そしてライラには、同族と両親がいる銀狼族の村で、いつまでも幸せに暮らしてほしいと思っている」


 オレはそう話しながら、ライラに近づいていく。

 ライラの前に立つと、ライラと視線を合わせた。


「オレが帰るべきトキオ国は、滅ぼされて無くなった。だけど、父さんと母さんはオレに云ったんだ。1人前の男になったのだから、これからは自分で自分の帰るべき場所を作っていける、と。そしてそこを、トキオ国よりも素晴らしい場所にしていくべきだ、とも云った」


 そっとオレは、ライラの手を取った。


「だから、オレは銀狼族の村で生きていくと、父さんと母さん、そしてトキオ国の国旗に誓ったんだ。これは、オレの決断なんだ」

「ビートくん……!」

「だからライラ、これから銀狼族の村に帰ろう! 父さんと母さんも、ライラといつまでも仲良く暮らしていくことを、願っていた。オレもいつまでも、ライラと一緒に居たいんだ!」


 オレがそう云うと、ライラが抱き着いてきた。

 尻尾をブンブンと降りながら、ライラはオレの胸に頭を埋める。


「ビートくん、わたし……嬉しい……!」

「ライラ……」


 オレはそれに応えて、ライラを強く抱きしめた。

 しばらくの間、オレたちは玉座の間で抱き合っていた。




「さて、そろそろ行こうか」

「うん!」


 オレの言葉に、ライラは頷いた。

 イスに置いた写真を手にすると、オレはそれを手帳に挟んで、カバンに入れた。


 最後にトキオ国の国旗に敬礼してから、オレたちは玉座の間と王宮を後にした。




 トキオ国の跡地を出たオレたちは、パイラタウンへ向けて足を進めた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、3月21日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ