第74話 トキオ国へ
トキオ国のことを、調べてほしい。
そう云われると思ってもみなかったオレたちは、驚きに支配された。
「実は、このパイラタウンの近くには、トキオ国という国があります。いえ、正確には『あった』です」
町長の言葉に、オレは胸が痛んだ。
トキオ国が滅びたことは知っているが、改めて云われると苦しい。
それはライラも同じらしく、オレの隣で悲しそうな表情になった。
「ミーケッド国王とコーゴー女王という素晴らしい国王様と女王様が統治されていた、平和な国でした。しかし、十数年以上前に謎の軍隊によって、滅ぼされてしまいました。国王様と女王様は殺され、国民は生き残った者も散り散りになり、今は廃墟となっています。亡くなった方の遺体は、すでに我々や周辺の領地や諸国から来た騎士によって、回収されて埋葬されました。しかし、トキオ国の跡地にはすでに十年以上、人が寄り付いていません。もしかしたら、盗賊団のアジトとして利用されていたりするかもしれないんです。そうなっていると、我々は安心して眠れないんです」
町長の言葉に反応するように、周りに居た町の人々の表情にも心配の色が浮かんだ。
確かに、近くに大きな廃墟があって、そこに盗賊団が居たら安心できないよな。
「どうか、トキオ国の跡地を調べてはいただけないでしょうか!? もちろん報酬はお支払いいたします!」
オレは少しだけ、責任を感じてしまった。
トキオ国を滅ぼしたのはアダムと、アダム率いる導きの使徒だ。当時赤ん坊だったオレには、何の罪もない。それに自分で云うのも何だが、オレはどちらかといえば被害者だ。両親を殺され、生まれ故郷を奪われたのだから。
だけど、どうしてもオレは責任を感じてしまう。
ここはたとえ報酬が低かったとしても、調べるべきだろう。
いや、貰えなくても調べるべきだ!
オレは、そのためにここまで旅をしてきたのだから!!
「わかりました。調べます……いえ、僕たちはトキオ国の跡地を調べるために参りました!」
「それは……どういうことですか?」
町長の問いに、オレは左胸のトキオ国の国旗を示した。
「僕は、ミーケッド国王とコーゴー女王の息子、ビートです!」
「そ……それは、本当ですか!?」
「本当よ!」
ライラが叫んだ。
「あなたは……?」
「わたしは銀狼族のライラ。ミーケッド国王とコーゴー女王に仕えていた、銀狼族の従者の娘よ! そして今は、ビートくんの奥さん! ビートくんのカッコイイ顔は、ミーケッド国王の生き写しだって、わたしのお父さんは云っていたわ!」
ライラ、確かにシャインさんはそう云ってたけど、オレの顔ってカッコイイか?
オレはそう思いつつも、ライラがそう思ってくれていることが嬉しかった。
「確かに、ミーケッド国王とコーゴー女王には、銀狼族の従者がいたと聞いたことがありますが……」
町長はもう一度、オレの顔を見た。
しばらくオレの顔を見てから、目を見張り、生唾を飲み下した。
「確かに、似ています……。あなたが、あの生き残っていると伝わっていた、ビート王子なのですね……!?」
「はい」
オレが頷くと、町長と街の人々が、オレたちに向かって最敬礼をした。
「ビート王子! 滅ぼされた祖国を調べるなどという、不躾なお願いをしてしまったこと、どうかお許しください! そしてミーケッド国王とコーゴー女王につきましては、誠に残念でございました!」
「気にしないでください。僕たちは、祖国がどうなっているのかを調べるために来ました。それに、僕はもう王子じゃありませんし、自分が王子だと思ったこともありません。トキオ国の跡地は、僕が責任を持って調べます。これから行ってきますので、どうか少しの間、待っていてください」
オレの言葉に、町長は再び頭を下げた。
「ありがとうございます! どうか、よろしくお願いいたします!」
「では、行ってきます」
片手を上げてオレは云うと、ライラの手を取った。
「ライラ、行こう。トキオ国の跡地へ!」
「うん! わたしとビートくんが生まれた場所に、出発!」
オレたちが歩き出すと、パイラタウンの人々が、声援を送ってくれた。
「ビート王子! お気を付けて!」
「王子! 無事をお祈り申し上げます!」
「戻られましたら、王子と王女に食事をご用意いたしますので!」
王子じゃあ、ないんだけどなぁ……。
オレはそう思ったが、パイラタウンの人々はオレに敬意を感じてそう呼んでくれている。それを否定することはできない。
オレとライラは手を挙げて応えると、トキオ国の跡地に向けて歩いていった。
「ねぇ、ビートくん」
トキオ国の跡地へと続く道を進んでいる途中で、ライラがオレに訊いた。
「トキオ国の跡地に着いたら、まずは何から調べる?」
「まずは……」
オレはカバンから、手帳を取り出した。
手帳を開いて、しおりを挟んでおいたページを開く。そこに、トキオ国の跡地でやることを箇条書きにしておいた。
「盗賊団がいないかどうかを確認する。とはいっても、トキオ国の跡地は広いから、全ての建物を見て回るわけにはいかない。そんなことをしていたら、日が暮れちゃう」
「じゃあ、どうやって調べるの?」
「そこで、どうしてもライラの力が必要なんだ」
オレの言葉に、ライラは耳をピクピクさせた。
「わたしの!?」
「うん。ライラは鼻が効くから、トキオ国の跡地に着いたら、臭いを調べてほしいんだ。それで盗賊団や強盗がいるか分かると思う。ライラ、お願いできる?」
こんなことをお願いしたら、怒るかなぁ?
オレは少しだけ冷や冷やしながら、ライラに訊いた。
「もちろんよ!」
ライラは力強く、そう云った。
「ビートくんのお願いなら、断れないよ! まかせて!」
「ありがとう、ライラ!」
「盗賊団や強盗がいないと分かったら、次は?」
「それから、父さんと母さんの足跡を探す。もしかしたら……もしかしたらだけど……」
オレは一度深呼吸をしてから、再び口を開いた。
「父さんと母さんが、こっそり生き延びていて、何かメッセージを残しているかもしれない。だから父さんと母さんが死んでいるとはっきりするまでは、オレは父さんと母さんの足跡を探す」
「もしも……その……亡くなっていたら……?」
ライラの言葉には、戸惑いがあった。
こんなことを訊くのはダメじゃないかと、思っているのだろう。
だけど、オレはそれも覚悟している。
「そのときは、父さんと母さんがもうこの世にはいないことを、確認するだけだ」
「そ……そうね……」
「ライラ、気にすることは無いよ」
オレは手帳を閉じてカバンにしまうと、そっとライラの手を取った。
「トキオ国の跡地に行ってみないと、分からない。全ての答えは、そこにあるんだから。それに、どんな結果が待っていたとしても、オレには覚悟ができているから」
「ビートくん、強いね」
「それほどでも、ないよ」
オレはそう笑いながら云ったけど、本当は少しだけ不安だった。
もしも父さんと母さんが死んでいるとはっきり分かったら、オレはどうなってしまうのだろう……?
「ビートくん、あれ!!」
ライラが、前方を見て叫んだ。
視線の先を追って、オレは目を見開く。
前方に、巨大な廃墟となった街があった。
街は城壁に囲まれていて、都市国家であることが分かった。
すぐに地図を取り出して、オレはライラと共に現在位置を確認した。
確認が取れると、オレは地図から顔を上げた。
「間違いない……あれが、トキオ国の跡地だ!!」
ついに目的地、トキオ国の跡地に、オレたちは辿り着いた。
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次回更新は、3月20日の21時更新予定です!
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昨晩は更新できず申し訳ありませんでした!
楽しみにしていただいていた方、ご迷惑をお掛けいたしました!
執筆が追いつかなくなってしまったことが原因です。
そしてこの後は「幼馴染みと大陸横断鉄道」の第211話「辿り着いた場所」に続きます。
トキオ国の跡地で2人が何をしたのかは、そちらをご参照ください。
第75話は、トキオ国の跡地から去る2人のシーンからスタートとなります!





