表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第5章 西大陸の南へ
72/140

第72話 白狐族との別れ

 翌朝。


 オレとライラは、昨夜行われた白狐族たちのお祭りの後片付けを手伝っていた。

 オレはシュラインの前に設置されていた、木のテーブルを運び、倉庫の中に入れていく。ライラは白狐族の女性たちに混じって、洗い物の片づけを行っていた。

 昨日のお祭りといい、さすがにこれで何もしなくていいとなると、あまりにも世話になりすぎているように感じられた。


「人族の兄ちゃん、手慣れているねぇ」


 白狐族の男が、オレを見て云った。


「もしかして、運送業とかに勤めていた経験があるんじゃないか?」

「鉄道貨物組合で、クエストを請け負っていたことがあります」

「やっぱり!」


 そう云って白狐族の男は、五色の色で彩られた旗を抱える。旗は2本あり、それぞれに鏡と勾玉、そして剣が取り付けられていた。


「俺も、オリザ国の鉄道貨物組合で、クエストを受けていたことがあるんだ。懐かしいなぁ」

「今はやらないんですか?」


 オレは昨日クウが使っていた、酒を入れる壺を持ち上げる。壺からはほのかに、酒の匂いがした。


「今は行きたくても行けないんだ」

「どうしてですか?」

「それは、知らないほうがいい。さ、仕事だ仕事!」


 白狐族の男は、そう云って、旗を抱えて倉庫に向かっていく。

 知らないほうがいいって、どういうことなんだろう?

 何か、オレが知ってしまうとマズい理由でもあるのだろうか?


 とはいえ、無理に聞き出すのも気が引ける。

 オレも、仕事を片付けることを優先しよう。


 壺を手に、オレは倉庫に向かって進んでいった。




 10時ごろになると、オレたちは荷物をまとめた。

 すっかりシロの家にお世話になってしまった。そろそろ、ブルーホワイト・フライキャッチャー号に戻らないといけない。


 オレたちはテンとクウにそのことを告げ、お礼の言葉を述べた。

 テンとクウはすぐに納得してくれたが、1人だけ納得しなかった者がいた。


 オレたちを白狐族の村に連れてきた張本人の、シロだった。




「私も一緒に、旅をしたい!!」


 シロはそう云って、ライラに抱き着いた。


「シロ、ダメですよ」


 クウがたしなめるが、シロはライラから離れようとしなかった。


「ビートさんとライラさんは、これから行くべき場所に行かなくてはならないのです」

「私も列車に乗って、広い世界を旅してみたい! もっと多くの人に、会ってみたい!」

「シロ、ビートさんとライラさんを困らせてはいけないじゃないか!」


 テンが叱るが、シロは動かなかった。

 なかなか強情なところがあるなと、オレはシロを見て思った。


「ねぇ、ライラさんにビートさん、私を一緒に連れていって!」


 シロがオレたちを見上げて、懇願する。


「絶対に迷惑は掛けません! 好き嫌いも云いません! ビートさんとライラさんと一緒に、世界を見てみたいのです! どうか、お願いします!!」

「ビートくん、どうする?」

「うーん……」


 オレはライラから聞かれて、困った。

 シロを旅に連れていくことは、できないことはない。話し相手が増えてくれるし、シロほどテキパキと動けるのなら、働き手としても使えるのは間違いない。

 しかし、それには両親のテンとクウの承諾がないといけない。それに、シロは白狐族だ。ライラのような銀狼族ほどではないにしても、奴隷商人や奴隷狩りに狙われる可能性がゼロとはいえない。身の安全が保障できない中で、シロを旅に連れていくべきかどうかなんて、考えなくても判断できる。


 だけど、このままじゃシロは納得しないだろう。


 そう思ったオレは、シロと同じ目線までしゃがみ込んだ。


「なぁ、シロちゃん」

「?」


 オレの声に、シロは首をかしげる。

 オレはそっとホルスターから、リボルバーを抜き取った。


 そして銃身を持ち、グリップをシロに向ける。


「これを、撃てるか?」

「!?」


 オレの言葉に、ライラとテンとクウが、目を見張って驚くのが分かった。

 自分より10歳近く離れた歳の女の子に、リボルバーを握らせようとしているのだ。それもオモチャなどではなく、実銃。撃てば弾丸が発射され、それが命中すると、相手は最悪の場合死に至る。立派な武器だ。危険なものだからこそ、実銃を子供に積極的に持たせようとする者は、まずいない。


「こ……これをですか……?」

「そうだ。旅をするとなると、自分の身は自分で守らないといけない。これを持って、狙いを定めて、撃つんだ。できるか? できたら、旅に同行してもいいぞ」

「で、でもこれって……」


 戸惑うシロに、オレは云った。


「やめておくか?」

「い、いえっ! やります!!」


 シロはそう云って、オレの手からリボルバーを手に取った。

 手にした直後、シロは予想以上の重さに驚いたらしく、落としかける。しかし、すぐに持ち直した。リボルバーを握り締めた手は、震えていた。


「よし、それじゃ……あの木を撃ってみるんだ」


 オレは近くにある、比較的大きな気を指し示した。


「あの木を、人だと思って撃つんだ」

「えっ!? ひ、人だと思って!?」

「そうだ。木じゃなくて、人だと思って引き金を引くんだ」

「は……はいっ!」


 シロは震える手で、リボルバーの銃口を木に向ける。


「ビートくん!」


 ライラが声を上げるが、オレは人差し指を自分の唇に当てた。


「いいから、いいから」


 オレがそう云うと、ライラは何も云わなくなった。そしてオレと共に、リボルバーを構えるシロをじっと見守る。テンとクウも、息を呑んでその様子を見守っていた。




 30分くらい時間が流れた頃。

 シロはゆっくりと、リボルバーを下ろした。


 1発の弾丸も発射することなく、シロはリボルバーを下ろすと、オレの前に戻ってきた。


「これを……お返しします」


 シロは両手でリボルバーを持ち、オレに差し出した。

 オレは頷いて、リボルバーを受け取る。


「シロちゃん、なぜ撃たなかったんだ? 撃てば、一緒に旅に出られたのに」

「……怖く、なっちゃいました」


 シロは震える声で、そうオレに打ち明けた。


「目の前にある木が人だと思うと……その人が悪い人なのか良い人なのか、家族がいるのかいないとか、どうしても考えちゃったんです。それで何度も、撃っていいのか悪いのか悩みました。でも、やっぱり撃てませんでした……」


 今にも泣きそうな声で、シロは云った。


「わたし、怖いです!! 銃で人を撃つなんてこと、わたしにはできません!!」

「じゃあ、旅には一緒に行けなくなるけど、それでもいいの?」

「私は、お父さまとお母さまと、一緒に暮らしていたいです!!」


 シロがそう叫ぶと、目から大粒の涙がポロポロと零れだした。

 オレはリボルバーをホルスターに戻すと、シロの肩にそっと手を置いた。


「うん、よくぞ云った」

「……?」


 首をかしげるシロに、オレは口を開いた。


「シロちゃんには、世の中のことを教えてくれる、テンさんとクウさんという両親がいる。世界のことを知る手段は、旅だけじゃない。まずは両親から教えてもらうんだ。それから旅に出ても、決して遅くは無いよ」


 オレはハズク先生の授業を、思い出していた。

 ハズク先生はこの世界のことと、生きるための方法を教えてくれた。オレやライラにとっての親代わりとなってくれた、ハズク先生。オレもハズク先生から世の中のことを学んでから、旅に出たと今でも思っている。


「だから、今はテンさんとクウさんと一緒に過ごしたほうがいい。わかった?」

「……はい!」


 シロは頷くと、テンとクウのところに戻っていった。


「お父さま! お母さま!!」

「シロ!」


 テンとクウが、シロを抱きしめる。


「お父さま、お母さま! ワガママ云ってごめんなさい!!」

「いいんだ、シロ……!」

「シロ、あなたは偉いわ。ちゃんと、分かってくれたのだから……!」


 一家が元通りに戻ったところを見届けていると、ライラがオレの手を握ってきた。


「ビートくん、すごいよ! シロちゃんが、納得してお父さんとお母さんの所に戻っちゃうなんて!」

「いや、あれはシロちゃんが自分で決めたことだ。オレはちょっとだけ、シロの背中を後押ししただけだよ」


 オレはそう云うと、両親と抱き合うシロを見た。

 これでなんとか、一件落着だ。

 シロにはまだまだ、旅に出るのは早い。


 そう思いながら、抱き合うシロと両親を眺めた。




「本当に、お世話になりました!」

「ありがとうございました!」


 テンとクウから、オレたちは改めてお礼の言葉を述べられる。


「いえ、こちらこそお世話になりました。白狐族のお祭りまで見せていただいて、とても楽しい時間を過ごせました」

「一生の思い出ができました。ありがとうございます!」


 オレとライラは、昨晩のことを思い出した。

 大きな焚き火を中心にして、営まれた白狐族たちのお祭り。とても神聖な空気の中で行われたお祭りは、オレたちの知っているお祭りとは一線を画していた。あの夜のことは、今後忘れることはあり得ないだろう。


「ねぇ、あなた……!」

「ん……そうだな!」


 クウが何か云い、それにテンが頷いた。

 一体、何のことだろう?


「ビートさんにライラさん、ちょっと待っていてください。シロ!」

「はいっ、お父さま!」


 シロが駆け出し、家の中へと戻っていく。

 少しして、シロが戻ってくると、テンに何かを手渡した。


「ビートさんにライラさん、これをどうぞ」


 テンがオレたちに、鍵と宝珠が刺繍された小袋を手渡してきた。

 小袋はカリオストロ伯爵から貰ったものと似ていたが、中には米が入っているわけではないようだ。触った感じでは、紙か何かが入っているらしい。


「テンさん、これは何ですか?」

「それはお守りだよ」


 オレの問いかけに、テンは答えた。


「シロを助けてくれたことへのお礼、そしてお2人の幸せを願って、これを贈ろうと思う。中にはお札というものが入っていて、それは神様の力を宿している。受け取ってほしい。これで我々銀狼族とお2人は、永遠に仲間だ」

「ありがとうございます!」


 そういうことなら、遠慮なく受け取っておこう。

 オレは受け取ったお守りを、ポケットに入れた。


 その後、オレたちは白狐族に見送られて、オリザ山を下りて行った。




 オリザ山からオリザ国の街中に戻ってくると、オレたちはすぐにブルーホワイト・フライキャッチャー号へ向かった。

 オリザ山にずっといたせいか、人混みの中に入ると、埃っぽさで息が詰まるような気がした。


 ブルーホワイト・フライキャッチャー号の2等車にまで戻ってくると、オレたちはベッドに寝転がった。


「ふぅ、疲れたなぁ……」

「うん。わたしも疲れちゃったぁ……」


 靴を脱いで、オレたちはベッドに寝転がる。セミツインサイズのベッドだから、寝転がっても狭さは感じなかった。

 ベッドに寝転がると、ポケットからお守りが転がり落ちた。それを拾い上げ、オレは見つめる。

 小袋だが、中に入っているお札という紙には、神様の力が宿っている。

 オレは不思議に思いつつも、それを自分のカバンに取り付けた。これで、いつでも持ち歩ける。


「ビートくんとお揃いのものが、もう1つ増えて嬉しい!」


 ライラがそう云いながら、オレと同じように自分のカバンにお守りを取り付けた。

 もう1つ増えた?


「お揃いのもの……もう1つということは……?」

「ビートくんってば!」


 ライラがころころと笑いながら、オレに近づいてきた。


「ビートくんとお揃いのものといったら、婚姻のネックレス以外にないでしょ!」

「わあっ!?」


 ライラに抱き着かれ、オレはベッドに押し倒された。

 オレに抱き着いてきたライラは、オレの身体に頬ずりする。まるで、自分の匂いをこすりつけているようだ。


「ライラって……本当にオレに抱き着くのが好きだよなぁ……グレーザー孤児院に居た頃から、全然変わらないな」

「いいじゃない、好きなんだもん。それに、今は夫婦になったんだから。ビートくんだって、わたしに抱き着かれるのは、嫌じゃないでしょ?」


 その言葉に、オレは頷いた。

 ライラの云っていることに、何も間違いは無かった。夫婦なんだから、誰にも気兼ねすることはない。それに、オレもライラから抱き着かれるのは、望むところだ。

 獣耳巨乳美少女のライラから抱き着かれるのは、全ての男にとって夢だろう。

 だが、それを独り占めできるのは、オレだけだ。


「もちろん、ライラなら大歓迎だけど……」

「嬉しい……!」


 ライラが尻尾をブンブンと振る。

 これじゃあ、狼というよりも犬だ。


「それじゃあ、ご褒美!」

「えっ……わあっ!?」


 そう云ったライラに、オレは唇を塞がれてしまった。




 夕方になると、ブルーホワイト・フライキャッチャー号は最終目的地である、パイラタウンに向かって走り出した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、3月17日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ