第70話 トキオ国の国旗
トキオ国の国旗が、壁に掲げられている。
それを見たオレたちは、驚かずにはいられなかった。まさかここで、トキオ国の国旗を目の当たりにすることになるなんて……!
今まで、オレたちが見たことがあるトキオ国の国旗は、オレがカルチェラタンで入手したトキオ国防軍の戦闘服に縫い付けられたものだけだ。
しかし壁に掲げられたその国旗は、オレたちの身長と同じくらいの大きさがあった。ここまで大きなトキオ国の国旗を見たことは、これまでに一度も無い。
「こ、これは……!?」
「どうして、トキオ国の国旗がここにあるんですか!?」
オレがテンに尋ねると、テンはごもっともだと云うように、頷いた。
「驚くのも、無理は無いと思います。こちらは、トキオ国から持ち帰ってきたものなのです」
テンはそう云うと、この国旗を手に入れた経緯を、話してくれた。
トキオ国が滅ぼされたという情報が入った後。
周辺国からは、亡くなった人々を埋葬するために人が集められた。その中には、火事場泥棒を働くような不届き者もいた。しかし、ほとんどの人は亡くなった人々をそのままにはできないと、志願して集まった人々ばかりだった。
そしてその中には、白狐族もいた。
白狐族は、オリザ国という近隣だったこともあり、最初にトキオ国に足を踏み入れた。そこで激戦の後を見て言葉を失い、殺されたトキオ国の民を見て、泣いた。それから、亡くなった人々を埋葬し、怪我人を保護した。
トキオ国の人々は全員が殺されたわけではなく、生き残った人々も大勢いた。
生き残った人々は、全ての人がアダムからの報復を恐れて、トキオ国を復興させるようなことは無かった。廃墟と化したトキオ国を離れて、散り散りになって新しい生活を始めた。
「そしてこの国旗は、生き残った家臣の方々から贈られました。ミーケッド国王とコーゴー女王は、とてもお優しい王様と女王様で、いつも我々白狐族が作るオリザ国の穀物を美味しくいただいてくれました。今でも私たちは、ミーケッド国王とコーゴー女王を神様のように敬愛しています。その証拠として、いただいたトキオ国の国旗を、こうして祀っています」
テンの説明を聞いていると、オレは胸に熱いものがこみ上げてきた。
少しでも気を緩めると、それが涙となって溢れ出てしまいそうだ。
父さんと母さんが、本当に好かれていたことが、オレにはよく分かった。
「……ありがとうございます!」
オレは、テンに向かって頭を下げた。
「僕の父さんと母さんが、とても好かれていたことが、よく分かりました。なんだか、とても嬉しいです」
「ビート王子、孤独と悲しみは、いかほどばかりであったかと心中お察しいたします」
テンの言葉に、オレは顔を上げた。
「いえ、今はもう寂しくはありません」
「ほっ、本当ですか!?」
「はい。僕の隣には、いつも共に居てくれる、最愛の女性がいますから」
オレはそう云って、ライラを見た。
ライラは少しだけ顔を紅くして、尻尾を左右に振った。
「だから、今は寂しくないですよ」
笑顔でそう云ったが、オレはまだ父さんと母さんが生きているという淡い気持ちを、捨てていなかった。
生き残った人々がいるのだから、もしかしたら父さんと母さんも、逃げのびてどこかで生きているかもしれない。ライラの両親、シャインさんとシルヴィさんが生きていたのだから。
もしかしたら、オレの両親も……。
オレはそんな気持ちを、悟られないように抑えた。
「私たちは、このトキオ国の国旗に誓いを立てました」
テンが、トキオ国の国旗に目を向ける。
「もしもトキオ国が再興された折には、必ず力になると……。ビート王子がここに来たということは、もしかしたらトキオ国が再興されるのかもしれませんね」
そういうと、テンはオレに顔を向けた。
「ビート王子、我々白狐族はあなたの味方です。もしもの時は、必ずお力になりましょう」
「ありがとうございます!」
オレはお礼を述べると、テンと握手をした。
こうしてオレたちには、白狐族という味方ができた。
「ねぇお父さま。ビートさんとライラさんを、今夜のお祭りにご招待するのは、いかがでしょうか?」
シロが、テンに提案した。
「お母さまにも紹介したいですし、いかがでしょうか?」
「うむ、それはいい考えだ!」
テンは頷くと、オレたちを見た。
「今夜は、我々白狐族のお祭りがあります。普段は白狐族のみで行う非公開のお祭りですが、もしよろしければ参加してみませんか?」
「えっ、いいんですか?」
オレが問うと、テンは頷いた。
村長であり族長でもあるテンがそう云うというのなら、いいかもしれない。
後は、ライラの返答次第だ。
「ライラ。どうする?」
「ビートくん、見て行こうよ! 普段は見れないものが見れるんでしょ? 貴重な経験になると思うよ!」
ライラの返事に、オレは頷いた。
「ブルーホワイト・フライキャッチャー号は、明日の夕方出発でしょ? 時間はたっぷりあるよ!」
「そうだな。テンさん、どうぞよろしくお願いいたします!」
オレがテンに向かって頭を下げると、テンは頷いた。
「ビート王子、特別招待客として歓迎いたします!」
その後、オレたちはトキオ国の国旗に敬礼してから、その場を後にした。
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