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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第5章 西大陸の南へ
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第67話 ながい夜

 朝が、訪れた。




 オレとライラが目を覚ましたのは、ブルーホワイト・フライキャッチャー号の個室ではない。

 一軒家の、ベッドの中だ。


 窓から明かりが注いでいるのを感じて、オレは目を覚ました。

 枕元に置いた懐中時計を見ると、朝の7時より少し前だ。起きるには、ちょうどいい時間だろう。


 オレが起き上がると、ライラも目を覚ました。

 なぜライラは寝ていても、オレが目を覚ますことに気づけるのだろう?


「ビートくん、おはよう」

「おはよう……ライラ、オレが目を覚ましたこと、分かるの?」

「うん!」


 オレの問いに、ライラは頷いた。


「どうやって?」

「気配で分かるの。だからビートくんが目を覚ましたら、わたしも目を覚ませるの。それに……」


 ライラは少しだけ、顔を紅くした。


「いつもどんなときも、ビートくんと一緒に居たいの。だから、ビートくんと一緒に起きて、ビートくんと一緒に寝るの」

「でも、それってオレが起きたら、ライラも起きるってことだよね? 熟睡できるの……?」

「大丈夫よ、よく眠れたわ」


 その言葉に嘘は無いらしい。

 ライラの目はくっきりとしていて、オレよりもよく眠っていたのかもしれない。


「さ、そろそろ起きようよ!」


 ライラの言葉に、オレは頷いた。


 身支度を整えてから、部屋を出て居間に入ると、カルロスが朝食の準備をしていた。

 オレたちは準備を手伝い、カルロスと共に朝食を食べた。自家製バターを乗せただけのパンケーキは、甘さ控えめなのにとても美味しく感じられた。


 そしてついに、オレたちとカルロスが別れる時が、やってきた。




「「本当に、ありがとうございました!」」


 オレとライラは、カルロスに頭を下げた。


「いやいや、礼には及ばん。私も久しぶりに客人と話せて、楽しかったよ」

「あの、1つ訊いてもいいですか?」


 オレが尋ねると、カルロスは頷く。


「どんなことかね?」

「カルロスさんは、人と話すのが嫌いじゃないのに……どうしてこんな周りに何もない環境で、1人で暮らしているんですか?」


 昨日からずっと、オレはそのことが疑問だった。カルロスの家がある場所は、地平線まで何も見えない、平野のような場所だ。歩いていける距離にモントの町があるとはいえ、こんな場所で暮らす理由があるのだろうか?

 世捨て人か、人嫌いなら、こんな場所で暮らしているのも理解できる。周りに人がいない環境は、世捨て人や人嫌いには理想的だ。

 だけど、カルロスは世捨て人でもなければ、人嫌いでもない。そうでなければ、オレたちをこうして泊めて、食事を振舞ったり、ギターを演奏してくれたりはしない。そもそも、モントの町で声をかけてくることさえ、しなかったはずだ。


「それが、好きなのさ」


 カルロスは、そう答えた。


「孤独で居たいだけなのさ。孤独でいると、人に対して優しくなれる。それに静かに過ごせるからね」


 カルロスの言葉に、オレは頷いた。

 少しだけ、カルロスの気持ちが理解できたような、気がしたためだ。


 オレたちはカルロスに見送られて、モントの町へと歩み始める。

 モントの町に戻ると、そのままモント駅に停車しているブルーホワイト・フライキャッチャー号の個室へとオレたちは戻った。


 そして昼過ぎに、ブルーホワイト・フライキャッチャー号はモント駅を出発した。




 夜になっても、次の停車駅に向かってブルーホワイト・フライキャッチャー号は、走り続けていた。


 次の停車駅であるオリザ国への到着まで、まだまだ時間があった。

 夕食を食べてから、オレたちは早めに床に就こうと考えていたが、一向に眠くならなかった。


「ビートくん、眠くならないね」


 そのことを先に指摘したのは、ライラだった。


「そうだね。オレもなぜか、眠くならないよ」

「不思議ね。ビートくんとわたし、2人とも眠くならないなんて……」

「もしかしたら、これも運命なのかもしれないな」


 オレの言葉に、ライラは顔を紅くする。


「もうっ、ビートくんったら!!」


 尻尾を左右に振り、ライラは喜びをあらわにする。

 そんな分かりやすい仕草をするライラは、可愛らしい。


「コーヒーでも、飲もうか?」


 オレは、ライラに訊いた。夕食を買いに売店へ行ったとき、オレはビン入りの水出しコーヒーを2本、買っておいた。濃いコーヒーだから、朝の眠気覚ましに使おうと考えていた。だけど、眠れない夜になったのなら、いっそのこと今飲んでしまってもいいだろう。


「ううん、それはいいわ」


 ライラは首を横に振ると、自分の隣をポンポンと叩いた。


「ビートくん、ここに寝転がってみて」

「そこって……いつもオレが寝ている場所だよね?」


 オレが指摘すると、ライラは微笑んだ。


「いいから、いいから」

「それじゃあ……」


 ライラに促されたオレは、云われるままにライラの隣で横になった。

 仰向けになって上を見ると、淡い光に照らされた天井と、ライラの顔が見えた。しかし、ライラの顔は半分ほどしか見えない。ライラの大きな胸が、顔を隠してしまっているためだ。


「ビートくん、今夜は特別な夜にしようね……」

「特別な……夜……?」


 オレの顔を覗き込んで、ライラがそう云う。

 ライラが何を考えているのか、オレにはほとんど分かった。


 あえて何がとは云わないが、どうやら今夜も、オレはライラに搾り取られてしまうらしい。

 昨日はカルロスの家に居たから、当然そんなことはされなかった。だけど、今いるこの場所は別だ。ここは今、オレとライラのプライベートルームになっている。

 多少の揺れはあっても、ライラはそんなことは気にしない。

 ライラが相手なら大歓迎だが、正直オレは自分の身体がどこまで持つか、不安だ。


 うう、せめて身体が持ちますように……!


 オレは心の中で、そう祈った。




 ライラが、灯りを消した。

 ついに、始まるのか――!


 オレがそう思っていると、ライラは立ち上がって、天井の辺りを手探りし始めた。

 何を始めると、いうのだろう?


 すると、天井の一部が開いた。

 正確には、窓があって、その前に掛かっていたブラインドが取り除かれた。

 ライラがブラインドを取り除いていくと、窓の外に満天の星空と満月が現れる。満月は太陽のように光を放っていて、夜空には天の川も見えた。


 全てのブラインドが消えると、まるで夜空の中に浮かんでいるような感じがした。


「すごいや……!」

「でしょ!?」


 ライラはベッドに座り、そのままオレの隣に寝転がった。


「ライラ、どこでこれを知ったの!?」

「少し前に、天井に手を掛けた時よ。その時に、天井だと思っていたところが、ブラインドに覆われていることに気づいたの。それでブラインドを動かしてみたら、そこに窓があったの」


 ライラの答えに、オレは寝転がったまま頷いた。

 こんなすごい仕掛けがあったなんて、ちっとも気がつかなかった。ここから見える景色は、まさに絶景だ。

 仕掛けを見つけてくれたライラに、オレは感謝の気持ちが沸き上がってきた。


「ライラ、素晴らしいものを見せてくれて、ありがとう」

「えへへ……どういたしまして!」


 オレとライラは、しばらくの間寝転がって、夜空を見上げていた。




 どれくらい時間が経っただろうか。

 時間が経つのも忘れて、オレたちは夜空を見上げ続けた。そのおかげか、まるで夜空に浮かんでいるような感覚に、オレたちは包まれていた。


 天の川がオレたちの真上まで着た頃、ライラが口を開いた。


「ねぇビートくん、天の川のお話って、覚えてる?」

「天の川のお話?」

「ほら、星祭りが近づくと、よく読んでいたあの絵本!」

「……あぁ、あれかぁ」


 ライラの言葉で、オレは思い出した。

 グレーザー孤児院に居た頃、グレーザーでは夏前になると星祭りが行われていた。そしてその星祭りに関する、ある絵本が、グレーザー孤児院にはあった。

 オレもその絵本は、何度か読んだことがあった。


 昔、一組の男女が出会って恋に落ちた。

 しかし、いつも一緒にいるのを快く思わなかった地主によって、2人は川によって引き離されてしまった。さらに1年に1回しか、会うことを許されなかった。それを悲しみ、2人は川に身を投げて死んでしまった。

 それを知った神様が可哀そうに思い、2人を星たちの世界に迎え入れ、1年に1回だけ天の川で会うことを許してくれた。星たちの世界での1年は、今いる世界の1日に当たるため、男女はとても喜んで幸せに暮らした。


 この絵本を、星祭りが近づいてくると、ライラはよく読んでいた。

 もちろんオレも、一緒になって読んだことは何度もある。


 オレは、ライラに顔を向けた。


「ねぇライラ。もしもライラが1年に1回しかオレと会うことが許されなかったら、どうする?」

「もちろん、決まっているわよ!」


 ライラはオレに顔を向けた。

 オレたちは星空の下で、寝転がりながら向き合う形になった。


「そんな決まりを作った人をやっつけて、ビートくんに会いに行くの! わたしのビートくんへの気持ちは、誰よりも強いのよ! たとえ相手が地主でも誰であっても、絶対にやっつけてビートくんの所に行く。わたしの帰る場所は、ビートくんの腕の中だけだから!」

「そう云うと、思ったよ」


 ライラの答えに、オレはそう返す。

 やっぱりライラは、ブレない。オレに対する気持ちは、一途そのものだ。それがオレにとっては、すごく嬉しい。こんなオレのことを、どこまでも一途に慕ってくれる唯一の女性なのだから。


 ライラがそう云うなら、オレはこれで答えるべきだろう。


「それじゃあ、こうしようか」


 オレはそっと、ライラに手を回す。

 何が始まるのか、ライラも分かっているらしく、そっとオレの腕に身体を預けてきた。


 オレはライラを、優しく抱きしめた。


 ライラから体温が伝わってきて、さらにいい匂いも漂ってくる。

 柔らかいライラの肌に触れていると、癒されていくのを感じた。


「おかえり、ライラ」

「ビートくぅん……」


 ライラはオレに身体を預けながら、尻尾を振った。


「なんだかわたし、グレーザー孤児院の夜を思い出してきちゃった」

「それって、ライラが自分の夢を話してくれた、あの夜……?」

「うん……!」


 ライラが頷き、オレもその夜のことを思い出す。

 今日のように満月が出ていて、眠れない夜だった。散歩に出たオレとライラがばったり出くわし、そこでライラがオレに自分の夢を話してくれた。両親に会いたいという、誰にも話したことが無かった夢を。

 思えば、あの夜からオレは、少しずつライラを意識するようになっていった。

 2人だけの秘密が、できたためだろうか?


「懐かしいなぁ……あの夜から、全てが始まったのかもしれないな」

「きっと、そうだよ。わたし、あの夜からビートくんのことを考えると、尻尾がブンブンと揺れるようになったの。ビートくんのことが好きになった夜に、間違いないの!」

「そうか……。実はオレも、あの夜からライラのことを少しずつ意識するようになったんだ」


 オレがそう云うと、ライラの顔が明るくなった。

 満月が放つ光で、それはよく分かった。


「嬉しい……!」

「夜は長い。ライラ、今夜は寝かせないからね……?」

「きゃんっ!」


 オレは少しだけ手を緩めてから、再びライラを抱きしめた。




 その後、オレたちは夜が明ける頃まで、お互いの想いを打ち明けた。

 月明かりの下で喜ぶライラは、魅力的な笑顔を何度も見せてくれた。


 そして東の空が白くなり始めた頃、オレたちはブラインドを閉めて、眠りについた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、3月12日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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