表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第5章 西大陸の南へ
62/140

第62話 山賊たちとの再会

 エルヒに向かいながら、ベーゲル山の山中を走っていくブルーホワイト・フライキャッチャー号。

 その個室で、オレとライラはセミツインサイズのベッドの上で、景色を眺めていた。


「ビートくん、山の中に来るなんて、久しぶりじゃない?」

「うん。これまでは平野を走っていくことが多かったからね」


 オレはライラの問いに、そう答えた。

 鉄道はあまり、山中に敷かれることはない。急勾配に強く無い鉄道特有の弱点と、山中に線路を敷くコストを考えると、割に合わないからだ。さらに、山賊に列車が狙われる危険性もある。そのため線路のほとんどは平野に敷かれ、山を経由する場合は迂回するか、トンネルを掘ることのほうが圧倒的に多い。

 ベーゲル山のように、山中に線路を敷くこと自体が、あまりないことだ。


 ベーゲル山は、固い岩盤が多いために、トンネルを作ることができなかった。そしてベーゲル山に連なる山々が山脈として横たわっているため、迂回した線路を敷くのにも、莫大な費用がかかった。

 そのため、例外的に山中に線路を敷くことになったのだ。


 しかし、山中に線路を敷くことは、山賊にとって列車を襲うために好都合でもある。


 オレは常に手に取れる場所に、ソードオフとリボルバーを置いていた。

 何かあれば、すぐに手に取って、相手に向けられる。

 ライラに手を出すようなら、問答無用で発砲する心構えもできていた。


 だけどもちろん、何事も無いのが一番だ。

 できることなら撃ちたくないし、殺傷は避けたい。


「ビートくん、お腹痛いの?」

「えっ?」

「なんだか、表情が険しいよ?」


 ライラに指摘されて、オレは考えていることが、表に出ていると知った。

 このままでは、いけない!


「い、いや、なんでもないよ!」


 オレはそう云った。


「そう? お腹が痛いとかじゃないなら、いいけど……」


 ライラはそう云って、再び窓の外に目を向けた。

 そんな俺たちを乗せたまま、列車はエルヒに向かって、線路を進んでいった。




 ブルーホワイト・フライキャッチャー号は、道中何事もなくエルヒの駅に到着した。


 エルヒは、ベーゲル山の中腹ほどの位置にある、小さな町だ。

 町というよりも、その規模は村に近い。


 山の中の町とだけあって、人口はさほど多くは無い。

 しかし、山の中でしか採れない貴重な山菜やきのこ類、そして獣の肉を加工した保存食が売られている。


「ビートくん、珍しいものがあるよ!」


 駅を出た直後に、ライラは大きな切り株の前にまで走っていく。

 切り株はテーブルくらい大きく、パーティーで使えそうだった。


「わたし、こんなに大きな切り株を見たの、初めて! グレーザーにも銀狼族の村にも、こんなに大きな切り株なんて無かったよ!」

「オレも初めて見たよ。この切り株を囲んで、パーティーとかできそうだな」

「楽しそう! おとぎ話みたい!」


 ライラは無邪気に笑う。

 確かに町はのどかだし、これだけを見れば、平和な山の中の村だ。

 だけど、山の中の町は、山賊が襲ってくる確率も高い。一見平和に見えても、それが仮初めのものである可能性もある。

 用心するに、越したことは無い。


 オレは常に、ライラの手を取りながら、行動することに決めた。




「山賊? いるって聞いたことはあるけど、見たことは無いね」

「山賊なんて、本当にいるのかい?」

「行商人が襲われたって話は聞いたことあるけど、ここ最近は聞かないなぁ……」

「山賊なら、たまに交易で来ることもあるよ。でも、よく来るのは山賊と名乗ってはいるけども、どちらかというとマウンテンマンのような連中だね」


 出会う人々に山賊のことを尋ねると、そんな答えが返ってきた。

 物騒な話は、まず出てこなかった。


 オレがボケンホー村で耳にした話は、何だったのだろう?

 作り話だったのか?

 いや、作り話にしてはリアルだ。行商人が襲われたのは、本当にあったことで間違いない。


 だけど、ベーゲル山にはいないのだろうか?


「ビートくん」


 エルヒの町を回っていると、ライラが声をかけてきた。


「どうしてさっきから、山賊について聞いて回っているの?」


 ライラにはまだ話していなかった。

 不安にさせてしまうかもしれないが、このまま黙っておくのは得策ではないな。


 オレはライラに、考えていることを話した。


「ボケンホー村で、山賊の話を少し耳にしたんだ」

「山賊の話?」

「エルヒに向かう途中で、行商人が襲われたと聞いて、不安になったんだ。もしも……もしもだけど、さ……」


 少し恥ずかしくなってきた。

 だけど、今さら恥ずかしくなっても、後戻りなんかできない。

 それに、これまでライラに云ってきたことと、内容は変わらないじゃないか!


「ライラが山賊に攫われたりしたら、大変なことになるだろ? もし集団で突然襲われたら、いくらオレたちでも対処しきれない。もしライラに何かあったりしたら、オレはシャインさんとシルヴィさんに合わせる顔が無いよ。だから、山賊の情報を少しでも多く、知っておきたいんだ」

「ビートくん……!」


 ライラは尻尾を振りながら、オレの手を握った。


「わたしのために、ありがとう!」

「わあっ!?」


 ライラから頬にキスを貰い、オレは驚いた。




 思っていたほど山賊の情報を得られないまま、オレたちは一度ブルーホワイト・フライキャッチャー号に戻ることにした。

 このまま闇雲に情報を集めようとしても、足が棒になるだけだ。


 駅に戻ってくると、駅の前に人だかりができていた。

 人々は、看板の前に集まっている。


「ビートくん、何かあったみたい」

「行ってみよう」


 オレたちは、人だかりへと近づいていく。

 人だかりに近づくと、集まっている人々の声も聞こえてきた。


「どういうことなんだ」

「出発がこんなに遅れるなんて……!」

「急ぎの人は、どうすればいいのかね……?」


 出発が遅れる?

 急ぎの人はどうすればいい?


 列車に何か、問題でもあったのだろうか?


 オレたちは人だかりをかき分けながら、看板の前に出た。

 そこの看板には、次の内容が書かれたお知らせが張り出されていた。



【緊急のご案内】


 先ほど、次の停車駅モント駅との間で倒木があり、線路が塞がれてしまいました。

 エルヒ駅とモント駅の職員が、倒木の撤去並びに線路と周辺への安全確認を行っております。

 作業完了までお時間を頂くこと、そしてこの先の勾配を登るために、機関車を重連する作業を行います。

 そのため、ブルーホワイト・フライキャッチャー号はエルヒ駅にて72時間停車いたします。


 お急ぎのところご迷惑をお掛けいたします。

 復旧まで今しばらくお待ちください。



「……なんてことだ」


 オレは愕然とした。


「オレたちは72時間、エルヒ駅で過ごさなくちゃならない」

「そんなあ!!」


 ライラが叫んだ。

 無理もない。エルヒは山の中腹にある、ちょっとした休憩地点のような場所だ。宿屋はあっても、ブルーホワイト・フライキャッチャー号の乗客全員が宿泊できるような宿は無い。

 アークティク・ターン号では、ほとんど起こらなかったトラブルだ。小さな駅に臨時停車することはあっても、それは数時間のことだ。72時間のような長時間の停車は、よほど大きな駅でないとあり得なかった。


 ここに来て、こんなトラブルに見舞われるなんて……!


「ビートくん、どうしよう?」

「オレたちにできることは、ないなぁ……」


 線路の倒木をどけたり、安全確認を行うのは、駅員の仕事だ。

 強盗を相手に戦うことはできても、自然だけはどうしようもない。


 できることといえば、駅員が一刻も早く倒木の撤去と、線路の安全確認を行うことだけだ。

 そして、機関車を重連にする作業も。


「……ライラ、何か食べに行こうか」

「うん……」


 オレたちは、看板の前から離れていった。




「あれっ、ビートさんにライラさんでは!?」


 エルヒの街を歩いていた時、聞き覚えのある声がオレたちを呼んだ。


「だっ、誰!?」

「あぁっ、やっぱりビートさんだ!」


 声がした方を、オレは見た。




 そこにいたのは、なんとかつて助けた山賊のアルトムたちだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、3月7日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ