表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第5章 西大陸の南へ
60/140

第60話 アケド村の決闘

 夜が明けた。

 オレが目を覚まして隣を見ると、ライラはオレを抱き枕替わりにして、まだ眠っていた。


 どこからか、ライラのものではない、いい匂いが漂ってくる。ゲンとドウが、朝食を用意してくれているに違いない。

 旅の話をしただけで、朝食まで用意してもらえるなんて、なんだか悪いなぁ……。


 懐中時計を取り出してみると、もう7時を過ぎている。

 そろそろ起きて、身支度を済ませないと!


「ライラ、ライラ」


 抱き着いて眠っているライラに、オレは声をかけて、軽く揺さぶる。

 しかしライラは、獣耳をピクピクと動かしただけで、起きなかった。

 どうやら熟睡しているらしい。いつもなら、オレが名前を呼ぶと、間違いなく目を覚ますのに。


 何度か名前を呼んだが、結果は変わらなかった。


「困ったな……」


 早く起きないと、ゲンとドウが起こしに来るかもしれない。

 そしてこんな姿を見られたら、恥ずかしいなんてレベルじゃない!


 だが、オレはこんなときでも慌てたりはしない。


「しかし、こんなときは……!」


 オレはそっと布団の中に手を入れ、手を動かす。

 すると、モフモフしたものが指に当たった。


 間違いない、ライラの尻尾だ。

 オレはそれに、そっと触れた。


「それっ!」


 そして少しだけ力を入れて、尻尾を掴んだ。


「ひゃうんっ!!」


 ライラが変な声を出して、オレの手を振り払う。

 オレはすぐに手をどけた。


「も……もう、ビートくん!! 尻尾を強く掴むのはダメだって、前にも云ったじゃない!!」


 ライラが、少しだけ怒りを込めてオレに抗議する。


「ごめんごめん。ライラがなかなか起きなかったから、つい……」

「もう……!」


 少し呆れた声で、ライラが起き上がった。

 やっとこれで、身支度ができる。


 オレたちは、ベッドから抜け出した。




「「おはようございます!!」」


 オレたちが挨拶しながら、居間に入る。

 昨夜夕食を食べたテーブルには、すでに朝食が準備されて、並んでいた。


「ビート王子にライラ王女! おはようございます!」

「おはようございます!」


 ゲンとドウが、オレたちに向かって云う。

 王子じゃないんだけど……まぁ、いっか。


「ずいぶんとお早いお目覚めで……朝食の準備は整っております。どうぞ、お召し上がりください」

「紅茶になされますか? それともコーヒーにされますか?」


 いったい、どこまで至れり尽くせりなんだ……。

 過剰ともいえる接待に恐縮しながら、オレとライラはドウが作った朝食をいただいた。


 その後、オレたちはこれまでのお礼として、家の掃除を手伝った。




 お昼より少し前に、オレたちはゲンとドウの家から、ブルーホワイト・フライキャッチャー号に戻ることにした。


「もう行ってしまわれますか、王子」

「出発までお時間が、かなりございますが……」


 ゲンとドウがそう云うが、オレたちはブルーホワイト・フライキャッチャー号に戻ることにした。


「お気持ちはありがたいのですが、出発前に準備をしないといけないので……」


 オレはそう云ったが、準備とは建前だった。

 これ以上世話になってしまうのは、悪い気がしたからだ。旅の話を聞かせるだけで、ここまでもてなしてくれた。さらにオレがミーケッド国王とコーゴー女王の息子だと知ると、余計に気を使わせてしまったような気がした。

 このまま滞在して、昼食までご馳走になってしまうと、老夫婦にかなりの負担をかけてしまうだろう。

 それはできれば、避けたいと思った。


 こうしてオレたちは、ブルーホワイト・フライキャッチャー号に戻ることを決めた。

 最後に家の掃除を手伝ったのは、せめてもの恩返しだ。


「そうですか……心残りですが、王子がそう決めたのでしたら……」

「またアケド村にお越しの際は、是非ともトキオ国の跡地がどうなっていたのか、お聞かせください!」


 ゲンの言葉に、オレは頷いた。


「わかりました。帰りにアケド村に立ち寄った折には、是非そのことをお話いたします」

「おぉ! ビート王子……その優しさ、やはりあのミーケッド国王とコーゴー女王の子でございます……!」


 ゲンとドウはオレの手を握り、深々と頭を下げた。


「どうか道中、ご無事で……!」

「お世話になりました。ありがとうございました」

「美味しい料理、ありがとうございました!」


 オレたちはゲンとドウに別れを告げ、駅に向かって歩き出した。




「ビートくん、まさかあんなに親切にされるなんて、思わなかったね」

「うん。なんだかちょっと、悪い気がするな」


 ライラと共に歩きながら、オレはそう答える。


「ビートくん、トキオ国からの帰りに、絶対に立ち寄ろうね。わたし、またドウさんの料理食べたい!」

「うん。トキオ国がどうなっているのか見て、それを伝える約束もしたからな。必ず立ち寄らないとな」


 話しながら歩いていくと、オレたちの前に1人の男が現れた。

 屈強な体格を持った、単発の男。


 昨日ライラを家に呼ぼうとしていた、男だった。


「どうも、おはようございます」


 男はオレたちに向けて、軽く頭を下げた。


「出発のお時間まで、まだ時間があります。どうか俺にも、旅の話を聞かせてくれませんか?」

「あの、僕たちは……」


 またコイツか。

 列車に戻ってから、ゆっくりしたいのに……!


 断ろうとしたとき、オレの耳に聞き覚えのある声が届いた。


「ビート王子、そいつから離れてください!!」

「ふぁ?」


 振り返ると、ゲンとドウがこちらに向かっていた。

 今の声は、ゲンのものだろうか?


「そいつはブルータスといって、ならず者です! 旅行者から金品を奪っています!!」


 ゲンの叫びに、オレは目を丸くした。


「なんだって!?」

「バレちゃあ、しょうがないな……」


 オレの背後から、そんな声がした。

 嫌な予感が、オレの全身を駆け巡った。


「危ない!」

「フンッ!!」


 オレがライラを抱きかかえて距離を取ると同時に、オレたちが少し前まで居た場所に、ナイフが振り下ろされた。

 危なかった。あと一歩でも遅かったら、切られていただろう。


「クソッ、ジジイとババアのせいで……!!」


 忌々しく、ブルータスが云う。

 その手には、刀身の長いナイフが握られていた。オレが持っているボウイナイフよりも、明らかに長い。まるでナタのようだ。かつてジャングルで暮らす部族が使っていたという、ククリナイフをオレは思い出す。


 オレはライラを、駆け付けてきたゲンとドウに任せた。


「ブルータス! どうしてこんなことをするんだ!?」

「決まっているだろ。その獣人族の女をいただこうと、思ったまでよ!」


 ライラのことを指していることは、云われなくても分かった。


「その獣人族の女を、渡してもらおうか!」

「ふざけるな!!」


 オレは怒鳴った。

 ライラを渡すよう要求してきた者は、これまでに何人もいた。だが、オレは全て拒否してきた。力づくで奪おうとしてきた奴もいたが、全員返り討ちにしてきた。


「ライラは渡したりしない!」

「いいや、渡してもらう! そして俺の妻になってもらうのだ!」

「わたしがあんたの妻なんかになるわけないじゃない!!」


 ライラが、ブルータスに向けて怒鳴った。


「わたしは身も心も、ビートくんだけのものなのよ! あんたの妻なんかになるくらいなら、死んだほうがマシよ!!」

「そういうことだ! 諦めろ!!」

「く……くそう……!!」


 これで諦めてくれたら、いいんだけどな……。

 オレは心の中で、そう思った。これで済んでくれるなら、これほどありがたいことはない。

 できることなら、争いたくは無いんだ。


 しかし、オレのそんな希望は、虚しく打ち砕かれた。


「決闘だ!! 決闘で決めるぞ!!」


 あぁ、なんてこったい。

 オレは自分の背丈の何倍もある、ブルータスと決闘することになってしまった。




 ブルータスとの間で、決闘のルールが決められていった。

 具体的には、次のように決まった。


 ・使う武器はナイフだけ。それ以外の武器は使わない。

 ・相手を傷つけるまでが許されるが、殺すことは許されない。

 ・助っ人を雇うのは禁止。

 ・どちらかが銭湯不能になるか、負けを認めた時点で勝敗が決まる。

 ・どちらが勝ったとしても、最終的に相手を選ぶのはライラ次第。


 こうして、決闘を行うことになってしまった。




「ダメです王子! おやめくださいませ!!」


 ドウがオレに云った。


「ブルータスは、この村で1番のナイフ使いです! それにブルータスには、王子でも関係ありません! どうか、どうかお考え直しを……!」

「それはできません」


 ドウにオレは、キッパリと云った。


「ここで決闘を放棄したら、僕の負けになります。大切なライラを失うくらいなら、死んだほうがマシです」


 オレはそう云って、ガンベルトを取り外した。そしてそこから、一緒に取り付けてあった、ボウイナイフを取り外す。ケースに入ったボウイナイフは、ケースごと革製のベルトで固定してあっただけだから、すぐに取り外すことができた。使う武器は、ナイフだけ。ブルータスがどれほどの実力者かは分からないが、このナイフは野良仕事にも日常の家事にも、戦闘にも使える汎用性の高い一品だ。相手にするには、十分だろう。


 そして残ったガンベルトを、オレはライラに手渡した。

 少し重たかったようで、ライラが受け取ると、一瞬だけライラが驚いた表情をした。


「ビートくん、終わったら列車に戻ろうね!」

「ああ、待っててね」


 オレたちがそう言葉を交わすと、ブルータスだけでなく、ゲンとドウも驚いた表情を見せる。

 普通なら、もっと心配するものじゃないの?

 そんな考えが、表情に現れていた。


 だが、オレもライラも、心配などしていなかった。




「決闘だ、決闘だ!!」

「決闘が始まるってよ!」


 辺りに人が集まってきた。そのほとんどが村人と、ブルーホワイト・フライキャッチャー号の乗客たちだ。


「さぁさぁ、村1番のナイフ使いブルータスと、あの少年のどちらが勝つか!? 予想しないかい? さぁ、張った張った!」

「俺はあの少年に賭ける!」

「なら俺はブルータスだ!」

「それにしてもあの獣人族の美少女、めっちゃ可愛いな……」


 ギャラリーの中から、オレとブルータスの勝敗を予測して、賭けをする連中まででてきた。

 そこのあんた、ライラに手を出したら、許さねぇからな。


 オレはブルータスと、向かい合った。

 ブルータスがナイフを手にすると、オレもナイフをケースから取り出した。


 お互いの手にナイフが握られると、辺りに緊張が走った。

 このピリピリした空気は、オレはあまり好きじゃない。


「――行くぞっ!」


 最初に動き出したのは、ブルータスだった。

 オレはナイフを構え、ブルータスの動きを注視する。


 そして、避けた。


「上手く避けられたな」


 ブルータスが、オレに目を向けてそう云う。


「だが、次は外さないぞ!」

「それは、どうだろうね?」


 オレはナイフを構え直すと、ブルータスが再び向かってくる。

 あの男を攻略するためには、真正面から立ち向かってもダメだ。対格差がありすぎるから、戦闘不能にするためには、他の手を考えないと!


 ブルータスの攻撃を避けながら、オレは時折ナイフでブルータスの手や足を攻撃する。

 しかし、ブルータスは少し切られた程度では、全くひるんだりしなかった。

 これは予想以上に、手強い相手かもしれない。


 ブルータスとオレの一進一退の攻防が続き、ギャラリーはそれを注意深く見守っていた。




「おりゃあっ!」

「わっ!!」


 ブルータスのナイフを避けた時、オレはつまづいた。

 そしてそのまま、オレはナイフを落としてしまった。


「しまっ――!」


 すぐにナイフを拾おうとしたが、その手をブルータスが押さえつけてきた。


「いでで……!」

「どうだ? 動けないだろう?」


 オレの腕に痛みが走り、ブルータスがオレを見下ろして云った。腕だけじゃない。足をバタつかせても、起き上がることさえできない。

 そしてオレの喉元に、ナイフが突きつけられた。


「勝負あったか!?」

「こりゃあ、ブルータスの勝ちだな!?」

「いいや、まだ分からない!」


 ギャラリーが騒がしくなる。

 だが、オレはまだ負けを認めていない。


「これでお前はもう戦えない。あの獣人族の女は、いただいていくぜ。あれほど美人で美しい銀髪は、そうそう滅多にいないからな。それにいい身体してるから、楽しめそうだぜ……!」


 ライラを見て、ブルータスは舌なめずりをした。

 こうなったら、あの手を使うしかない!


「……悪いけど、まだ勝負は終わっていないぞ?」

「あぁん?」


 オレがそう云うと、ブルータスは首をかしげた。


「どうしてだ? お前はもう動けないぞ?」

「ライラを自由にしたいのなら、知っておかなくちゃいけないことがある。そしてそれを知っているのは、オレだけなんだ。これを知れば、ライラを思いのままにできるんだぜ?」

「なに!? 本当か!?」


 ブルータスは目の色を変えて、オレに顔を近づける。

 しかし、ちゃんとオレの腕を抑えていた。

 そういうところは、抜かりないな。


「お、教えろ!!」

「なら、もっと顔を近づけろ。周りがうるさいから、聞こえないだろ?」

「それもそうだな」


 ブルータスはさらに、オレに顔を近づけてきた。

 もうオレとブルータスの間に、10センチもないだろう。


 よし、これであの手が使える!


「教えろ、どうすればあの女を自由にできるんだ?」

「――かかったな」

「えっ?」


 ブルータスがそう云った直後。

 オレは自分の額を、ブルータスの額に思いっきり打ち付けた。


「んがっ――!」


 ブルータスが脳震盪を起こしたらしく、抑えていたオレの腕から、手を離した。

 その一瞬で、オレは立ち上がると、足払いでブルータスを地面に横たわらせた。


 そして、ナイフを拾い上げて、ブルータスの右腕を切った。


「ぎゃあっ!!」


 叫び声が上がり、ブルータスはナイフを落とす。

 そのまま、ブルータスは動かなくなった。


「ま……負けだ……」


 力なく吐いたその言葉で、オレの勝利が決まった。


「あの少年が、ブルータスに勝ったぞ!?」

「あの大男をやっつけるなんて!!」

「やった、大儲けだ!!」

「ちくしょう、大損だぜ!!」


 ギャラリーが湧き上がる中、オレはナイフをケースに戻すと、ライラの所へ向かった。


「ビートくん、お疲れ様!」

「ありがとう、ライラ!」


 オレはライラからガンベルトを受け取ると、腰に巻きなおした。

 そしてブルータスは、村人数人掛かりで、運ばれていった。


 後になって知ったが、ブルータスは自分勝手な行動でアケド村の評判を落としたため、村から着の身着のまま追放されたという。




 夕方になると、オレとライラはブルーホワイト・フライキャッチャー号でアケド村を出発した。


「ビートくん、どうやってあの時、逆転できたの?」


 ライラが、決闘のときのことを、オレに訊いた。


「石頭でノックアウトしたのは分かるけど、普通ならあそこまで相手を近づけるなんて、無理でしょ?」

「普通なら、無理だろうね」


 オレは頷いた。


「だけど、オレがブルータスに『ライラを自由にするために、知っておかなくちゃいけないことを教える』って云ったら、興味津々で顔を近づけてくれたよ」

「わ……わたしを自由にするために、知っておくこと!?」


 ライラが目を丸くして、叫んだ。


「そ、それって、どんなことなの!?」

「それはもちろん……」


 オレはそこまで云いかけてから、ライラをそっと抱きしめた。

 そしてオレは、優しくライラの頭を撫でる。


「オレがこうやって、スキンシップを取る事!」

「ビートくぅん……!」


 ライラが尻尾を振りながら、オレを呼ぶ。


「嬉しい……わたしのこと、ちゃんとわかってくれてる……!」

「そりゃあ、分かるよ。ずっと一緒に過ごしてきたんだから……」




 南へ向かうブルーホワイト・フライキャッチャー号の個室で、オレはライラの頭を撫で続けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、3月5日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ