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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第1章 トキオ国への旅立ち
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第6話 困った手荷物

 アークティク・ターン号は、北大陸と東大陸の間を結ぶ大陸間鉄道橋の上を走っていた。


 大陸間鉄道橋は、4つの大陸の間に架けられた鉄道橋だ。鉄道工事では、最も工事が難航した場所でもあり、工事では多数の死者も出たという。アークティク・ターン号が4つの大陸を走破する唯一の大陸横断鉄道として存在できるのも、この大陸間鉄道橋のおかげである部分が大きい。


 しかし、大陸間鉄道橋の上では、何もすることがない。

 オレとライラは個室の中で、大人しく過ごしていた。




「あっ、そういえば……!」


 突然、ライラが何かを思い出したらしく、自分のトランクを開けた。

 中には化粧道具一式やドレスなど着替えの衣服、非常食、本や小物が入っている。もちろんそれらの中には、ピンク色の液体が入った小瓶もある。それが避妊薬であることは、すぐに分かった。ライラにとっては、必要なものだからだ。


 その中から、ライラは小包を取り出した。


「ライラ、どうしたの?」

「これ、お母さんから受け取ったものなの……」


 ライラが手にしている小包を見て、オレは思い出した。

 それはオレたちが、トキオ国の跡地へ出発する少し前のことだ――。




「ライラちゃん、これを持って行って!」


 シルヴィさんから、ライラは小包を受け取った。


「お母さん、これは何?」

「ミーケッド国王とコーゴー女王にお渡しするための、大切なものよ。トキオ国に辿り着くまでの間、絶対に無くしたりしないで」

「それはいいんだけど……お母さん、ミーケッド国王とコーゴー女王は――」


 ライラがそこまで云いかけた時。

 シルヴィさんがライラの口を塞いだ。


 ライラは横にいるオレを見てから、シルヴィさんに視線を戻して、頷いた。


「うん。分かったわ」


 ライラは頷いて、その小包をシルヴィさんから預かった。




 オレの父さんと母さんに渡すための、大切なもの。

 いったい小包の中身は、何だろう?


「ビートくん、これって何かしら?」

「もしかしたら……お供え物かな?」


 オレの言葉に、ライラは納得したように口を開いた。


「そっか。だからお母さん、ミーケッド国王とコーゴー女王にって……あっ!!」


 その直後、ライラはしまったという表情をした。失言をしてしまったと、ライラは思ったのだろう。

 しかし、ライラは悪気があってそう云ったわけじゃないことは、オレにも分かった。


「ごっ、ゴメンね! ビートくん!!」

「いや、全然気にしてないよ」


 オレはそう云って、ライラをなだめた。

 オレの父さんと母さん……ミーケッド国王とコーゴー女王は、アダムの魔の手からオレたちを守ろうとして、命を落とした。つまり、死んでしまった。だからオレはライラとは違って、どんなに願っても探し続けても、生きている両親に会うことはできない。

 しかしオレは、まだ死体も墓も見たことが無く、シャインさんとシルヴィさんから亡くなったとしか聞いたことが無い。

 そんなことから、オレは何度か「ひょっとしたら脱出に成功して、どこかで身分を隠して生きているのではないか?」と考えたこともあった。だが、生きているという証拠もない。それに、ミーケッド国王とコーゴー女王の側近として仕えていた、シャインさんとシルヴィさんがウソをつくとは思えなかった。


 生きていないという気持ちと、まだもしかしたらという気持ちが、オレの中では渦巻いている。これはライラにも話したことが無かった。

 だからオレは、その揺れる両親への気持ちに切りをつけたかった。

 トキオ国の跡地に向かうこの旅の目的の1つが、それだ。


「それにしても、お供え物だとしたら中身が何なのか、気になるな……」


 シルヴィさんが、オレの父さんと母さんに渡したいものとは、何だろう?


「ビートくんも? わたしも気になっているの。どうしよう?」

「開けて中身を確かめるのが手っ取り早いけど……勝手に開けてしまうのは、なんだか気が引けるな」

「やっぱり? わたしもそう思えて、中身が気になるけど、開けられなくて……」


 人から預かったものを勝手に開けることに、強い抵抗があった。

 オレたちに贈られたものではないためだ。そんなことは、孤児院に居る小さな子供だって知っている。


 しかし、中身が何なのか知らされていないため、このまま持って行ってもいいのか疑問だ。


 もしも傷みやすい食品だったりしたら、西大陸までの間に傷んでしまうことは間違いない。

 クッキーのようなお菓子だったとしても、保存状態によってはカビてしまうことだってある。

 開けずに中身を確認できる透視能力があるのなら、困ることは無い。だがオレたちには、そんな特殊能力はない。オレたちはただの人族の少年と獣人族の少女であり、超能力者ではないのだ。


 さて、これを一体どうしたらよいものか……。

 オレとライラは腕を組み、小包を見つめ続けた。




「……仕方がない」


 オレは組んでいた腕を解き、口を開いた。


「中身が何なのか分からない以上、一度開けて中身を確かめなくちゃいけない。シルヴィさんには申し訳ないけど……。ライラ、どう思う?」


 念のため、オレはライラに尋ねる。

 送り主はなんといっても、ライラのお母さんだ。オレが勝手に開けたりしたら、ライラとの信頼関係にヒビが入りかねない。それだけは避けたかった。


「うん、ビートくんの云う通りだと思う。ビートくん、中身を開けて確かめよう!」


 ライラが同意すると、オレは頷いた。


「それじゃあ……開けるよ」


 オレは小包に手をかけ、封を解いた。

 ゆっくりと包装を傷つけないように封を解いていくと、中から小さな紙の箱が現れた。

 そしてさらに、紙の箱を空ける。


「あっ」

「わっ」


 紙の箱の中を見て、オレたちは声を上げた。

 中身は、色とりどりのベリー類だった。


 そのベリー類が何なのか、オレたちは知っている。

 銀狼族の村の周辺にある森で、いくらでも採集できるものばかりだった。銀狼族の村では、主にジャムやマーマレードやポムパンなどの保存食を作ったり、薬を作るために使われている。贈り物としても、とても喜ばれることに間違いは無かっただろう。

 少なくともそれが、銀狼族の村の中であったのなら、だ。


「お母さんってば!!」


 ライラが叫んだ。


「ベリー類なんて、ただでさえ傷みやすいのに、西大陸まで生のまま持っていけるわけないじゃない!」


 ライラのその言葉は、最もだった。

 木の実やベリー類は、新鮮なものほど良い。その理由は傷みやすいからだ。わずかな傷からも果汁が流れ出て、その価値は著しく落ちやすい。だから生のまま流通する木の実やベリー類は限られていて、ほとんどがジャムを始めとした加工食品としてしか流通していない。


 いくらお供え物にするとはいえ、このまま西大陸に持っていくことはできない。

 東大陸の途中で、傷んでしまうことは間違いない。


「シルヴィさんには申し訳ないけど、これは参ったな……」


 オレはこのベリー類をどうしようか、悩んでいた。

 ジャムに加工できたら、西大陸まで十分に持っていける。それにライラはジャムを作れる。シルヴィさんから教えられて、今ではどんなジャムも作れるようになった。

 しかし、それは設備が整っていればの話だ。

 オレたちが今乗っている、アークティク・ターン号の2等車には、調理できる設備も器具もない。それに材料として必要不可欠な砂糖もない。


 ミッシェル・クラウド家の方々が特等車に乗っていたら、特等車の台所を使わせてもらえただろう。しかし今は、ミッシェル・クラウド家は乗り込んではいない。

 当然のことながら、食堂車の厨房を貸してもらうこともできない。


「ビートくん、どうしよう……?」

「……このまま捨てるのはもったいないから、オレたちで食べてしまおう」


 むしろそれ以外に、答えが見つからなかった。

 捨てるなんてできないし、かといって西大陸まで持っていくこともできない。

 なら、オレたちで食べてしまうほかない。

 ベリー類を買い取る行商人も、いないのだ。


 しかし、せっかくシルヴィさんがオレの父さんと母さんに渡すようにと、ライラに持たせてくれたものだ。

 ただ食べてしまうのでは、シルヴィさんにも申し訳が無い。


 オレはベリー類が入った木箱を手にすると、窓際に持っていく。


「ビートくん……?」

「せっかく、シルヴィさんがオレの父さんと母さんに供え物として、託してくれたんだ。だから、一度父さんと母さんに断りを入れておこうと思って」

「じゃあ、わたしも一緒に!」


 ライラがオレの隣に来ると、オレは頷いた。

 そして木箱を窓際に置く。ちょうど、窓は西大陸の方角に向いた位置に来ていた。


 オレとライラは跪いて、両手を合わせて少し頭を下げる。

 銀狼族が月に祈るときに行うやり方だ。


「父さん、母さん。お供え物としてシルヴィさんから頂いたけど、トキオ国まではこのまま持ってはいけないから、この場でお供えして、後はオレとライラでいただきます。どうか、許してください」

「ミーケッド国王様、コーゴー女王様。わたしの母が失礼しましたこと、どうかお許しください」


 父さんと母さんにそう告げると、オレは立ち上がった。

 窓際に置いた木箱を手にすると、ライラに向き直る。


「それじゃあ、頂こうか」




 オレとライラは温かい紅茶を飲みながら、ベリー類をつまんでいく。

 紅茶ともよく合うベリーがほとんどで、オレたちは次から次へと手が進み、止まらなくなっていた。


「美味しいね、ライラ」

「うん、とっても美味しい」


 ライラは紅茶で口の中のベリーを飲み下すと、口を開いた。


「それにしてもお母さんったら、どうしてベリー類なんてすぐに痛んじゃうものをお供え物に選んだのかしら……?」

「シルヴィさんに訊いてみないと分からないな」


 オレは再び、ベリーを口に運び、かみ潰す。

 ほのかな甘みと苦みが広がり、すぐに紅茶が欲しくなってくる。紅茶を飲むと、口の中がスッキリとしてベリーと紅茶がよく合う。


「帰ったら、お供え物は食べ物以外にしてって、よく云っておかなくちゃ!」


 ライラはそう云うと、大きめのベリーを口に入れた。




 オレたちを乗せたアークティク・ターン号は、いつしか大陸間鉄道橋を渡り切り、東大陸へと入った。

 そしてそのままカルチェラタンとエクロ峡谷を通過し、南へと向かって進んでいった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は12月7日の21時となります!


(2020年12月6日)

一部表示されていない文字を修正しました。

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