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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第5章 西大陸の南へ
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第58話 ホープ出発

 ホームに出たオレたちは、身体を伸ばした。

 やっぱり狭い部屋にいるよりも、外の方が気持ちがいい。そう感じるのは、まだ身体がアークティク・ターン号の2等車に慣れているからだろう。ブルーホワイト・フライキャッチャー号の2等車が、狭く感じられる。


「さて、駅の中にレストランがあったはずだ。そこに行って、昼食を食べようか」

「ビートくん、わたしはグリルチキンね!」

「本当に、よく飽きないなぁ」


 オレとライラはそんな会話を交わして、ホームを歩きだした。

 しかし、レストランに行く予定は、その直後に変更になってしまった。




「駅弁ー、お弁当ー!!」

「お茶とお弁当ー! いかがっすかー!?」


 ブルーホワイト・フライキャッチャー号の3等車付近。

 そこでオレたちは、売り子の叫ぶ声を耳にした。


 3等車の各窓を回って、駅弁売りの売り子が弁当を売っていた。

 首から下げた大きな木製のトレーに、いくつものお弁当とお茶を乗せ、売り歩いている。


「駅弁? ビートくん、駅弁売ってるよ!」

「珍しいな。レストランがあるというのに」


 駅弁を売っているのは、ほとんどがレストランのない駅だ。

 その理由は、レストランは駅弁を作っていないためだ。駅弁は駅の近くにある宿屋や惣菜屋といったところが、内職として作っている。もちろんその中には、レストランに勝るとも劣らない味を持つものもある。


「……そうか! そういうことか!」


 ふとオレは、あることを思い出した。

 ブルーホワイト・フライキャッチャー号には、食堂車が連結されていない。そのため、必然的に列車での食事は座席か個室で食べることになる。

 だから、駅弁をブルーホワイト・フライキャッチャー号の乗客に販売しているんだ!


 オレがそのことに気づくと同時に、駅弁の匂いがオレたちのいる場所にまで漂ってきた。

 なんて美味しそうな匂いなんだろう……。

 駅弁の放つ匂いは、オレたちの鼻孔を刺激し、口の中に唾液を発生させた。


 そしてそれは、鼻の良いライラにとって、効果は絶大だった。

 オレの隣から、唾液を飲み込むゴクンという音が聞こえ、それがライラのものであるとすぐに分かった。


「ビートくん、すごく美味しそうな匂いがする……」

「オレも、同じことを考えていたよ……」


 3等車の窓に売り子は何度も近づいていき、その度に銀貨や銅貨と駅弁を交換していく。

 3等車だけでも、もうすでにかなりの数を売りさばいているに違いない。


 だとしたら、早くしないと売り切れるかも!!


 そう思ったオレは、自然と動き出していた。

 駅弁を売る売り子に近づき、オレは口を開いた。


「すいませーん! 駅弁くださーい!」

「まいどありー!」


 先ほどまでレストランに行こうと考えていた自分は、もうどこかに消えていた。

 オレは大銀貨1枚を差し出し、2人分の駅弁とお茶を購入した。




 オレとライラは駅弁とお茶を手に、2等車の個室に戻ってきた。

 個室以外で、駅弁を食べる場所を思いつかなかったためだ。


 幕の内弁当というものをオレが買い、ライラは焼肉弁当を買った。ライラはグリルチキン弁当を探していたが、残念なことにグリルチキン弁当は取り扱っていなかった。

 お茶は陶器製のヤカンに入っていて、小さなコップが付属していた。どうやらこれで、お茶を飲むようだ。コップにお茶を注いでみると、アーリーシュラインで飲んだものと同じ、緑茶が出てきた。


「ビートくん、この駅弁って、フォークもナイフも無いよ。どうやって、食べたらいいんだろう?」

「この箸っていう、木の棒を使うみたいだ」


 オレが駅弁に付属してきた、箸というものを手にする。真ん中で2本に割れるようにできていて、これを使って食べるらしい。

 これで食事をするというのが、まだ信じられない。おまけにパンは無く、その代わりに西大陸の南部で生産されている、米が敷き詰められていた。グレーザー孤児院でも米を食べたことはあったが、必ずスプーンを使っていた。それなのに、どうやら駅弁では箸で食べるものらしい。


 こんな頼りない木の棒で、本当に食事なんてできるのだろうか?

 こんなことなら、カトラリーのセットを買っておくべきだったかもしれないな。

 だけど、もうお腹が空いてたまらない。

 カトラリーのセットを買いに行っている時間は無い。


 オレは箸を2つに割った。

 思いの外、綺麗に2つに割れた。なぜか分からないが、それが気持ちよくて、少し懐かしい。


「いただきます!」


 オレは箸で米をつまみ上げると、それを口に運んだ。そしてさらに、小さなハンバーグを口に入れる。

 何度か噛んでから、緑茶で口の中のものを飲み下した。


「……美味しい!!」


 駅弁って、こんなに美味しいものだったのか。

 それに米も、おかずとよく調和している。米をこんなにも美味しく感じたのは、初めてかもしれない。


「ライラ、これすごく美味しいよ!」

「本当!? 食べづらくない?」

「少しコツがいるけど、それを差し引いても美味しいよ!」

「じゃ、じゃあ……!」


 ライラも箸を2つに割り、焼肉弁当を食べ始めた。

 たどたどしく米を口に運び、そして焼肉を口に入れる。

 その瞬間、ライラの表情が一気に変わった。


 次から次へと箸を進め、駅弁を食べ進めては、緑茶で流し込んでいく。


「美味しい! すっごく美味しい!!」

「これは、レストランよりも美味しいかもしれないな!」

「ビートくん、わたし気に入った!」

「オレもだ!」


 オレたちはすっかり、駅弁が気に入った。

 中に入っているおかずを交換しながら、駅弁を食べ進めた。気がつく頃には、駅弁も緑茶も無くなり、オレたちはお腹も心もすっかり満たされた。


 もちろん、ゴミはちゃんとホームにあるゴミ箱に持って行った。




「美味しかったなぁ」

「美味しかったね!」


 オレとライラはセミツインサイズのベッドに寝転がり、駅弁についての感想を交換した。

 オレの幕の内弁当は、いくつものおかずが入っていて、どれもが美味しかった。ライラの焼肉弁当は味が濃い目で、米が進む味になっていた。

 結論としては、どちらの駅弁も美味しかった。


「ビートくん、また駅弁が売っていたら買おうよ!」

「うん。レストランが無い場所や開いてなくても、駅弁があればこの個室がいつでもレストランになる。それでいて、価格も弁当2つとお茶がついて大銀貨1枚なら、安いもんだ!」


 そう云った直後、オレはあくびをした。

 お腹がいっぱいになったためか、眠気が襲ってきた。


「あー……なんだか眠くなってきた」

「わたしも……」


 ライラもあくびをして、オレに身体を寄せてきた。


「ビートくん、ちょっとだけお昼寝しようよ」

「そうだな。やることも無いし、ちょっと休憩だな」

「いつでも、わたしを抱き枕にしていいからね……」

「それなら……」


 オレはライラの言葉に甘えて、ライラの身体に手をまわした。

 ライラと密着すると、ライラのいい匂いと温もりが、オレに伝わってきた。


「あん……ビートくぅん」

「ライラ……」


 オレはライラの匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。




 そのままオレたちは、ブルーホワイト・フライキャッチャー号の出発時刻となる夕方6時まで、個室で眠り続けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、3月3日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!


やりたかった駅弁回です!!

駅弁は新幹線で遠出したときなんかに時々買ったりしています。

各地に色々な駅弁があるので、見ているだけでも楽しいですね。

みなさんは好きな駅弁はありますでしょうか?


早く以前のように、あちこちに旅行できるような世の中に戻ってほしいですね!

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