第57話 南へ向かう列車
オレとライラは、ホープ駅のホームにいた。
これから、ホープから南へ向かう唯一の列車、ブルーホワイト・フライキャッチャー号がやってくる。
ブルーホワイト・フライキャッチャー号は、大陸横断鉄道ではなく、長距離列車だ。
大陸横断鉄道は、あくまでも全ての大陸を走破する唯一の列車である、アークティク・ターン号にだけつけられる。そのため、ブルーホワイト・フライキャッチャー号は、長距離列車となっている。
「ビートくん、ブルーホワイト・フライキャッチャー号って、どんな列車かな?」
列車を待っていると、ライラがオレに訊いてくる。
「きっと、いい列車だと思うよ」
「わたしも、そう思う! ビートくんと一緒に過ごせる場所があれば、一番安い席でも嬉しい!」
尻尾をパタパタと振るライラに、オレは微笑む。
本当にライラは、どこへ行ってもオレと過ごすことを最優先にする。
ポォーッ!
聞こえてきた汽笛に、オレとライラは振り向く。
流線形の大型蒸気機関車が、オレたちのいるホームに向かって走ってくる。
蒸気機関車はオレたちの前を通り過ぎ、ブレーキをかけて、停まった。
目の前を通り過ぎる時、オレはヘッドマークに「ブルーホワイト・フライキャッチャー号」と書かれているのを、見逃さなかった。
オレたちの前に現れたブルーホワイト・フライキャッチャー号は、青と白の2色で塗装された、美しい列車だった。アークティク・ターン号よりは短いが、それでも十分な量の客車が連結されている。客車からは、次々に乗客が降りてきて、入れ替わるように待ち構えていた掃除夫たちが列車に入っていく。これから清掃が行われ、出発までに車内を全て清掃するはずだ。
先頭では蒸気機関車が取り外され、その先に設置された転車台に載せられていた。
転車台で蒸気機関車は向きを変えられ、列車が到着したホームの横の線路に入っていく。これから蒸気機関車は燃料と水を補給してから、再度連結されるのだろう。
「ビートくん、青と白でとってもきれいね!」
ライラがブルーホワイト・フライキャッチャー号を見て、尻尾をブンブンと振る。
どうやらライラは、ブルーホワイト・フライキャッチャー号の美しさを、気に入ったようだ。
しばらくして、掃除夫たちが掃除を終えたらしく、次々に列車から出ていく。手には掃除道具と、ゴミが入った袋を持っている。
よし、これでもう大丈夫だろう。
「掃除が終わったみたいだ。ライラ、行こう!」
「うん!」
オレたちは荷物を手に、ブルーホワイト・フライキャッチャー号の2等車に乗り込んだ。
ブルーホワイト・フライキャッチャー号は、1等車と2等車と3等車の、3種類の客車で構成されている。
1等車は、2人用個室寝台。
2等車は、1人用個室寝台。
3等車は、4人掛けボックス席。
食堂車はなく、売店が2か所あるだけで、それも営業時間は朝7時~夜11時までとなっている。商品が売り切れてしまえば、閉店だってあり得る。このため、アークティク・ターン号に比べると、サービスや設備はどうしても見劣りしてしまう。
その代わりに、アークティク・ターン号よりも移動距離は圧倒的に短い。長距離を旅するためというよりも、中距離移動を想定して作られている列車だからだろう。
多くの乗客は、3等車に乗り込む。3等車は料金もリーズナブルで、1駅か2駅の間の移動であれば、十分な設備だ。実際、ほとんどの乗客は1駅か2駅移動することが多い。
そしてオレたちが乗り込むのは、2等車だった。
「ここが、オレたちの部屋だな」
切符を見て、オレは部屋を確認する。
間違いない、番号が一緒だ。
オレはそっと、ドアに手を掛けた。
2等車のドアは、アークティク・ターン号のものと違って、引き戸になっていた。
引き戸を開けると、横向きの階段があり、その先にセミツインサイズのベッドがあった。少し高い位置にあるベッドだけが、この2等車の居住スペースだった。
部屋の中に入り、オレとライラはセミツインサイズのベッドに座る。荷物は、階段の踊り場に置くしかなかった。
「思っていたよりも、狭い部屋ね……」
ライラが個室の内部を見回して、そう云った。
無理もない。その意見はごもっともだった。
「ごめんね、ライラ。これしか空いていなかったんだ……」
本当なら、1等車の切符を手に入れたかった。1等車なら、アークティク・ターン号の2等車に相当する設備となっている。シャワーは無いが、洗面台はあるから、顔だって洗える。下着なら洗濯もできる。
だが、1等車の切符は全て売り切れていた。3等車で旅をすることは、最初から除外していた。予約は不要だが、ライラが銀狼族だと分かったら、奴隷商人の耳に入るかもしれない。それに、3等車の4人掛けボックス席で寝ることは、負担が大きすぎた。最低でも、横になれることが条件だ。
そうなると、残された選択肢は、1人用個室寝台を2人で使うことだけだった。幸い、1人用となってはいるが、入る人数に制限などはない。そのため1人で使っても2人で使っても、料金は同じだ。それに1枚の切符で、2人まで乗車できた。
「本当は1等車を予約したかったけど、空きが無くて……狭い部屋になっちゃって、本当にごめん」
「ビートくん、いいのよ」
ライラはそう云って、オレに身体を向けた。
「わたしは、ビートくんと一緒なら、狭い部屋でも全然いいの。ビートくんと離れ離れになっちゃうのなら、1等車でも乗りたくない。むしろ、これで良かったと思っているわ」
そっと、ライラはオレの隣まで移動してきた。
「だって、いつもビートくんと一緒の場所だから。横になれば、いつでもビートくんと寝られる。わたし、すごく気に入った!!」
「ライラ……」
不満を云うこともなく、ライラはオレと過ごせるということだけで、喜んでくれた。
どうしてライラは、こんなに性格がいいんだろう。
「ありがとう、ライラ」
オレはライラに感謝して、頭を下げた。
「ビートくん、出発はいつかしら?」
「えーと……」
懐中時計を取り出して、オレは今の時刻を確認する。
今の時刻は、ちょうど12時だ。
「夕方の6時だから、まだかなり時間があるなぁ」
「じゃあ、ここに閉じこもっていてもつまらないから、ホームに出ようよ! それに、お腹も空いてきちゃった」
「そうだな。何か食べに行こうか」
ライラの言葉に頷き、オレは立ち上がった。
最低限の荷物を持ち、オレたちはブルーホワイト・フライキャッチャー号から、ホームへと降り立った。
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突然体調が悪くなってしまい、PCR検査まで受けました!
結果は陰性でしたので、一安心しました。
そしてようやく回復してきましたので、本日からまた連載を再開いたします!
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