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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第5章 西大陸の南へ
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第55話 アークティク・ターン号との別れ

 オレとライラは夕方、ホープの駅に来ていた。


「はい、ではこちらが入場券です」


 窓口でオレたちは、入場券を購入した。

 入場券とは、駅に入ることだけが許されるものだ。入れる時間は2時間ほどで、料金は銀貨2枚。入場券では、列車に乗ることはできない。主に、見送りに来る人がホームで見送るために、購入することがほとんどだ。


 オレたちが入場券を購入したのは、アークティク・ターン号を見送るためであった。

 これまでお世話になってきたアークティク・ターン号にも、別れを告げておきたい。

 そんなオレの考えをライラに話すと、ライラもすぐに同意してくれた。


 こうして出発予定時間の少し前に、オレたちは入場券を購入したのだ。




 オレとライラは、アークティク・ターン号を牽引する超大型蒸気機関車、センチュリーボーイの前に立っていた。


 センチュリーボーイは、いつ見ても迫力がある。

 先頭に取り付けられたヘッドマーク。闇を切り裂くヘッドライト。8つの大きな車輪と、その上に載った巨大なボイラー。そしてその後ろにつなげられた、炭水車。

 全ての大陸を走破できる唯一の機関車だ。


 今まで、オレたちをここまで運んでくれて、ありがとう。

 またしばらくお別れだけど、きっとまた、お世話になるときが来るはずだから……。


 オレがそう思いながら見つめていると、ライラがセンチュリーボーイに手を伸ばしていた。

 その先にあるのは、ボイラーで作られた高熱の蒸気を送るための、パイプだ!


 マズい!!


「ライラ、ストップ!!」


 オレはライラの腕を掴み、伸び掛かっていた腕を引っ込めた。


「びっ、ビートくん!?」

「ライラ、何してるの!?」

「ちょっとだけ、撫でてあげようかと……」

「ダメだって!!」


 ライラの気持ちはよく分かった。オレも手を添えて、一言お礼の言葉を掛けたい。

 だが、そこは触れてはいけない場所だ。


「ライラ、そこは触っちゃダメ。めちゃくちゃ熱いから、素手で触れたら、大火傷するよ!」


 鉄道貨物組合で働いていたオレは、よく軽い火傷をした。

 疲れなどから、うっかりボイラーやパイプに触ってしまったことが、何度もあった。


 オレが火傷するのなら、まだいい。

 だが、ライラが火傷してしまうことは、絶対に避けないといけない。

 真っ白な美しい手に、火傷の跡が残ったりしたら、大変だ。


 オレの言葉に、ライラは驚いた。


「そうだったの!?」

「知らなくても無理は無いけど、機関車は危ないから見るだけにしてね」

「うん! ありがとう、ビートくん!!」


 ライラはそう云うと、センチュリーボーイに伸ばしていた手を、オレの身体に回した。




 オレとライラは、センチュリーボーイの前でこれまでの出来事を思い出していた。


 初めて、アークティク・ターン号に乗った時。

 広く感じられた車内と、たくさんの乗客。

 そしてオレたちが過ごした、2等車の個室。セミツインのベッドは、ライラと2人で過ごすには少し狭いが、それでも十分な広さだった。

 毎日のように、ライラに搾り取られて大変だった。あえて何がとは云わないが。


 食堂車では、よくライラからのリクエストで、グリルチキンを食べた。

 時にはサーロインステーキのような、ちょっとお高いものを食べたりもした。そして夜になると、夜のお茶会でフルーツサンドなんかも食べることがあったっけ。

 値段が張るものからリーズナブルなものまで、色々なものを食べた。


 ミッシェル・クラウド家の人々や、ハッターさんといった人たちとも出会った。

 ミッシェル・クラウド家のナッツ氏やココ夫人は、オレたちをよくお茶会に招待してくれた。それに困った時には、力を貸してくれた。メイヤとラーニャさんも雇ってくれて、レイラの就職先にもなってくれた。ナッツ氏とココ夫人を始めとした、ミッシェル・クラウド家の人々には、感謝してもしきれない。

 ハッターさんからは、とにかくいろいろなものを購入した。弾薬から日用品まで、多くのものを購入した。間違いなく、オレたちの旅を強くサポートしてくれた行商人だ。銀狼族の危機にも、AK47を大量に仕入れて、駆けつけてくれた。


 これ以外にも、本当に多くの人たちとアークティク・ターン号で出会った。

 オレたちは、人に恵まれていたと思える。


 ライラは、どんな出来事を思い出しているんだろう?

 後で、聞いてみようかな。




 そのとき、センチュリーボーイが汽笛を鳴らした。




「ビートくん!」

「間違いない、出発時刻だ!」


 オレは懐中時計を取り出し、時刻を確認した。

 現在の時刻は、16時ちょうど。


 アークティク・ターン号の出発予定時刻だ。


「ライラ、少し離れよう!」

「うん!」


 オレはライラの身体をそっと手で引き、ライラもそれに続くように後ずさった。

 機関車の近くに居ると、排煙を被ることがある。排煙を被ると、せっかくの美しいライラが台無しだ。


 センチュリーボーイが、巨大な車輪を回して、ゆっくりと前に進み出した。

 すぐにスピードを上げていき、オレたちの前を走り去っていく。センチュリーボーイがオレたちの前を通り過ぎると、次々に客車が現れた。


「「さようならーっ!」」


 オレとライラは、走り去っていくアークティク・ターン号に向かって、手を振る。

 それを見たらしい乗客の何人かが、手を振り返してくれた。


 アークティク・ターン号から、さようならの返事を、オレはもらえたように感じた。


 やがて貨物車になり、それも走り去ると、ホームは静かになった。

 遠くから聞こえてきたセンチュリーボーイの汽笛が、オレには少しだけもの悲しく感じられた。


「行っちゃったね……ビートくん」

「うん。だけど、またきっと、アークティク・ターン号に乗る日がやってくる。そんな気がするよ」


 オレはそう云って、アークティク・ターン号が走り去っていった線路の先を見つめた。




 それから駅を出て、オレたちはホテルへと戻った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、2月16日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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