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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第4章 ホープへの道
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第50話 アフチスでの朝食

 次の停車駅である、エノク領のアフチスに到着したことに、オレとライラは最初気がつかなかった。

 それはきっと、アークティク・ターン号がアフチスの駅に停車したのが、早朝だったためだろう。朝早くに到着するときは、機関士たちはかなり慎重に停車するように心掛けている。眠っている乗客がほとんどだから、少しでも眠りを妨げることがないようにと、配慮してくれている。


 おかげでオレとライラは、ゆっくりとした朝を迎えることができた。




 オレとライラは2等車の個室から出て、ホームに降り立った。


「んーっ、よく寝たぁ……」


 たっぷりと寝たおかげか、オレの頭はスッキリしていた。

 やっぱり良く寝ることは、大切だなぁ。


「ビートくん!」


 オレの後ろから、ライラがオレを呼ぶ。

 ライラも共に良く寝たためか、元気いっぱいだ。


「ねぇ、今日の朝食はどこで食べる?」


 尻尾を振りながら、ライラがオレに訊いた。

 オレたちはまだ、朝食を食べていない。


 朝早くに起きたわけではないから、食堂車で食べてもいないし、売店で買ってきて食べたりもしていない。

 完全な空腹だ。

 もちろん、このまま過ごすわけにはいかない。第一、ライラを空腹のままにしておくなんてことは、オレは絶対にしたくなかった。


 オレは懐中時計を取り出し、時刻を確認した。

 時刻は、朝の9時半だ。


「駅を出て、アフチスのカフェで食べようか」

「賛成!」


 オレが懐中時計をポケットに戻すと、ライラがオレの腕に抱き着いてきた。


「ビートくん、行こう!」

「わっ、わかったよ!!」


 列車を待つ人たちの視線が、オレたちへと注がれる。

 どの人も、オレたちを生暖かい目で見ていた。


 そんな視線にさらされると、オレは体温が上がってしまう。

 だがライラは、いつも通りオレ以外のことは眼中にないらしい。

 とにかく、ライラを連れて早くカフェに行こう!


 オレはライラと共に、改札に向かって歩きだした。




 アークティク・ターン号の乗車券を見せると、改札はすぐに抜けられる。

 もちろん、入るのも自由にできる。

 そのためオレたちは、身分証明書と共に乗車券を携行している。


 本当に便利なものだと、オレはつくづく思っている。


 そして便利なのは、それだけじゃない。

 駅の近くにあるカフェやレストランで、料金の割引が受けられることもある。


 世の中には、料金の割引を活用する男をセコいとみなす女性が多いという。

 だがライラは、オレがいくら料金の割引を使っても、それをセコいなどと思ったことは無い。むしろやり繰りが上手として、褒めてくれたことがあるくらいだ。


「いらっしゃいませー」


 カフェに入ると、店員がオレたちを空いている席に案内してくれる。

 向かい合わせで腰掛けると、オレとライラはメニューを開いた。


「ご注文はお決まりですか?」


 店員の問いかけに、オレたちは答えた。


「「モーニングメニューで!」」


 2人同時に、全く同じ注文。

 店員は一瞬目を丸くしたが、すぐに注文を確認して、厨房の方へと去っていった。




「お待たせいたしました。モーニングメニュー2セットです」


 店員が運んできたのは、トースト2枚とゆで卵、そしてサラダにソーセージとオレンジジュースがついたセットメニューだった。

 店員が伝票を置いて立ち去ると、オレたちは朝食を食べ始めた。


「ビートくん、このソーセージ美味しいね」


 ライラは早速肉料理であるソーセージにかじりついて、幸せそうな表情をしている。


「あぁ、薄めだけど味がついていて、ちょうどいいな」

「サラダも……ドレッシングがあっさりしていて、すごく美味しい」


 オレとライラは感想をかわしつつ、モーニングメニューを食べていく。

 オレンジジュースで口の中をリセットしては、次から次へと食べ進めていく。


 モーニングメニューを食べていると、オレはあることに気がついた。


「……どこのカフェに行っても、モーニングメニューでトーストとゆで卵は、絶対についてくるなぁ」


 トーストとゆで卵を見て、オレはそう呟いた。

 これまでにオレたちは、いくつかのカフェで朝食を食べた。どのカフェでも、モーニングメニューを注文すると、必ずといっていいほどトーストとゆで卵はついてきた。時にはコーヒーを注文しただけなのに、トーストとゆで卵がついてきたこともあった。そしてそれらは、朝の時間帯のサービスであって、追加料金などは取られなかった。


「これで、料金もお手頃なのが、嬉しいね」


 ライラが、オレの言葉に頷いた。


「フリーランチみたいに、コーヒー2杯の注文で、食べ放題とかにしてほしいね。ソーセージとかベーコンとか、あとは甘いシリアルも!」


 肉と甘いものって、ライラの好物ばっかりじゃないか。

 オレは苦笑しつつ、答えた。


「追加料金で、トーストとゆで卵は追加できるみたいだよ」

「本当!?」

「ほら、このメニューに書いてあるよ」


 オレがメニューを指し示す。そこには『銀貨1枚お支払いいただけましたら、トーストとゆで卵の追加ができます』と書かれていた。

 ライラはメニューを手にすると、手を挙げた。


 すぐに店員がやってきた。


「何かございましたでしょうか?」

「追加で、トーストとゆで卵を。それとあと……」


 ライラは次から次へと、追加で注文をしていく。


「ライラ、それ全部食べきれるの……?」

「きっと、大丈夫!」


 心配になって訊いたオレに、ライラは笑顔で答えた。


「食べられる時に、いっぱい食べておきたいの!」


 ライラは尻尾をゆらゆらと揺らしながら、追加した料理が運ばれてくるのを待った。

 そして運ばれてきたのは、追加のトースト2枚とゆで卵、それにサンドイッチのセットだ。オレが食べる量よりも明らかに多い。ライラは普段から大量に食べるわけではないのに、食べきれなかったら、どうするのだろう?


 オレは少しだけ不安に思いつつも、美味しそうに食べるライラを見守った。




「ビートくん、ちょっと苦しい……」


 ライラが、そう云った。

 追加のトーストとゆで卵は完食したが、サンドイッチのセットには手を付けていない。


「どうするの……?」

「食べたいけど、今はちょっと無理かも……」


 このまま残して退店するのは、正直気が引けた。

 それにライラは、かつてレストランで働いていた。とても残していくとは思えなかった。


 さて、どうすればいいのだろう?


 オレが頭を悩ませていると、ライラが再び手を挙げて、店員を呼んだ。


「いかがなされました?」

「あの……」


 まさか、まだ何か注文するのか!?

 オレがそう思ったとき、ライラが口を開いた。


「食べきれなくなっちゃったので、持ち帰りしたいんですが……」

「かしこまりました、それでは持ち帰り用の紙袋をご用意いたします」


 店員がそう云って、立ち去った。そして少しして、小さな紙袋を持って戻ってきた。


「こちらをお使い下さい」

「ありがとうございます!」


 ライラはそれを受け取ると、サンドイッチのセットを紙袋の中に入れていく。


「持ち帰りができるの……?」

「そうよ」


 オレがライラに訊くと、ライラは頷いた。


「余っちゃったら、店員さんにお願いすれば、紙袋を貰えるの。それに入れて持ち帰って、後で食べることもできるのよ。ボンボヤージュに勤めていた時に、教えてもらったの」


 ボンボヤージュとは、かつてライラが働いていたレストランだ。

 オレと共にグレーザーを旅立つ前、ライラはそこでウエイトレスをしていた。

 なるほど、その時に持ち帰りができることを、知ったのか。


「それじゃあ、そろそろ列車に戻ろうか」

「うん!」


 ライラは紙袋を手に、席を立った。

 オレたちは会計を済ませてから、列車へと戻った。




 列車に戻ってから、ライラは食欲が戻ってきたらしく、持ち帰ったサンドイッチのセットを食べ始めた。


「うーん、このサンドイッチ、美味しい~」


 ライラは獣耳と尻尾をパタパタと動かしながら、サンドイッチを頬張っていく。

 美味しそうに食べているためか、そんなライラを見ていると、癒されるような気持ちになっていく。


 そしてライラは、サンドイッチのセットを全て1人で食べきった。


「美味しかったぁ」


 ライラはすっかり満足したらしく、ベッドに寝転がった。


「ねぇビートくん、トーストとゆで卵だけでも、美味しかったよね?」

「あぁ、確かに美味しかったなぁ。どこに行っても、トーストとゆで卵は同じ味で安心して食べられるような気がするよ」

「どうして、トーストとゆで卵というシンプルなものなのに、あんなに美味しいのかな? それに、どこに行っても必ずメニューにあるよね?」

「そうだなぁ……」


 ライラの言葉に、オレは天井を見上げて、目をつむった。

 頭がくるくると回りだし、オレは思考を巡らせる。なぜトーストとゆで卵が、どこにでもメニューとして存在しているのか。


「うーん……食べなれているから、かなぁ?」


 オレが思いつく理由は、それしかなかった。

 なぜ、それが理由として出てきたのか。


 それは、オレとライラの幼少期にあった。


「グレーザー孤児院でも、朝食ではトーストとゆで卵って、よく出ていたよね?」

「グレーザー孤児院……」


 その言葉に、寝転がっていたライラが、起き上がった。


「グレーザー孤児院の朝食といえば……オレンジジュース!」

「そうだ! オレンジジュースもよく出ていたなぁ。確か、風邪予防にもなるとかで出ていたような気がする」

「それに、曜日によって変わっていた! 卵料理の日とか、必ずスープが出る日とか!」

「あったなあ。オレはスープの日が、楽しみだったな。ライラは?」

「わたしはもちろん、肉料理の日!」


 オレとライラは、グレーザー孤児院での朝食で盛り上がった。

 共に、グレーザー孤児院で過ごした間柄だ。グレーザー孤児院に関することでは、共通の話題しかないと云ってもいい。


 ライラとグレーザー孤児院の朝食について話していくうちに、話題はグレーザー孤児院の食事全般へと、移っていった。


 グレーザー孤児院では、朝食・昼食・夕食の3食を子供たちは食べることができた。

 3食出されない日は無かったが、悪いことをしたりすると、懲罰の1つとして食事抜きになることもあった。


 朝食はパンや卵料理、ベーコンなどのちょっとした肉料理といった、軽めのメニューだった。

 昼食はパンの他にシチューや、サラダなどの野菜類が中心だった。他に魚介類も出ることがあった。

 夕食は決まって、一般的な家庭料理だった。子供たちが、一般家庭の子供たちと同じものが食べられるようにという、ハズク先生の方針によってそう決まっていた。


「ハズク先生が、食事についてよく云っていたこと、覚えてる?」

「うん! 覚えてるよ。『子供はしっかり食事を食べないといけません。食べることは生きること。食べないと元気も出てこないし、勉強することも、友達と遊ぶこともできません。だから日々、しっかり食事を食べて健康でいられることが、大切なことなんですよ』でしょ?」

「それ!」


 オレは頷くと、上を見上げた。

 ハズク先生の顔が、まぶたの裏に浮かんでくる。


「今になって……ハズク先生の云っていたことが、すごく分かるようになったよ。ハズク先生……オレたちのために、ありがとう」

「うん。ハズク先生……ありがとうございました」


 オレとライラは、今もグレーザー孤児院を切り盛りしているハズク先生に向けて、お礼を云った。




 いつか、ハズク先生にも会いに行きたい。

 でもまずは、オレたちが生まれた場所である、トキオ国に行かなくちゃ。


 そんなことを考えていると、いつの間にか太陽は高く昇り、昼がやってきた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、2月11日の21時更新予定です!

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