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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第4章 ホープへの道
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第48話 九尾族の女性

 アークティク・ターン号は大荒野地帯を抜け、オレウジュに到着した。




 カロライナ領クーツ地方オレウジュ。

 最初に訪れたのは、ボニーとクライドを冒険者協同組合に行くよう案内した時だ。そしてライラが美容院に行っている間に、オレがありえない夢を見た。

 夢の内容は、今思い出しても夢で良かったと、思える内容だ。


「ビートくん」


 速度を落としていく列車の中で、ライラが云う。


「オレウジュって、美容院があったでしょ?」

「ん……あぁ、ライラが髪の毛と尻尾の手入れをした、あの?」

「うん!」


 ライラが頷いた。


「わたし、また美容院に行きたいの。そろそろ髪の毛と尻尾の手入れをしたいの」

「そういえば、だいぶ伸びているし、あちこちくせ毛があるな」


 オレはライラの全体を見て、云った。

 長い髪と尻尾は、ところどころ毛がはねている。オレとしてはそれもまたいいと思っているが、ライラにとって髪の毛と尻尾の状態は、とても大切なものだ。常にセットしておき、毎日手入れを欠かさない。

 それほど、大切にしていることなんだろう。髪は女の命と聞いたことがあるから、ライラもそう思っているのかもしれない。

 それに、ライラにはいつもきれいで美しくいてほしい。


「それじゃあ、手入れが終わるまでオレは待っているよ」

「うん! もちろん、美容院で待っていてくれるんでしょ?」

「……え?」


 ライラの言葉に、オレは目を丸くした。

 オレとしては、オレウジュの街を散策しながら待つと考えていた。終わるころぐらいに、美容院に迎えに行くつもりでいたのだが……。


「オレも美容院まで?」

「ビートくん、わたしはいつだって、ビートくんと一緒よ?」


 そうなると信じて疑う様子のないライラ。

 どうやら、またオレは美容院で待つことになるらしい。


 そんなやり取りを繰り返している間に、アークティク・ターン号はオレウジュの駅に到着し、ゆっくりと停車した。




 久々にやってきた、オレウジュの街。

 そしてオレとライラは、以前ライラが髪の毛と尻尾の手入れをした、美容院へと足を踏み入れた。


「いらっしゃいませー、こちらへどうぞー」


 ちょうど空いていたらしく、獣人族豹族の女性美容師が、ライラをイスへと促した。


「じゃあビートくん、ちょっとだけ待っててね!」

「うん、待ってるよ」


 オレはそう云って、順番待ちのイスに腰掛ける。他に待っている人はいないから、付き添いで来たオレが待つくらい、許してくれるだろう。

 オレは雑誌を手に取り、パラパラとめくり始めた。




 雑誌を読んでいる途中で、オレは思い出した。

 以前、ここで眠ってしまって、ライラがオレの元を去っていく悪夢を見たんだった。


 今度は絶対に眠らないようにしないと!

 また悪夢を見たら、たまったものじゃない。


 そんなことを考えていると、表が騒がしくなってきた。


「すっごーい!」

「なんて美しいんだ!」

「モフモフだぜ、モフモフ!」


 美しい?

 モフモフ?

 一体、何が起きているんだろう?


 オレは雑誌を置いて、表に出た。

 美容院を出て表通りに出たオレは、騒がしさの理由が分かった。


「あれは……!」


 オレは目を見張った。

 獣人族の中でも珍しい、九尾族の女性が歩いていた。その名の通り、9本のモフモフした尻尾を持つ、狐系の獣人が九尾族だ。銀狼族ほどではないが、数があまり多くないため、珍しい獣人族でもある。スレンダーかつスタイルの良い身体をしていて、なおかつ9本のモフモフした立派な尻尾。

 なるほど、歓声が上がるわけだ。


 いいなぁ。

 オレも一度でいいから、あんなモフモフした尻尾に包まれてみたい。9本の尻尾で包まれたら、どんな世界がそこには待っているんだろう。


 オレがそんなことを考えていると、いつの間にかオレの目の前に、九尾族の女性が立っていた。

 高いヒールを履いているせいか、その身長はとても高く感じられた。そして両側にスリットが入ったドレスを着ていて、太ももから足が見えていた。


「あなた、私の尻尾に触ってみたいんでしょ?」

「えっ?」


 女性の問いに、オレは動揺した。

 とても妖艶な声だ。メラさんの声と似ている。だけどメラさんの安心できる声とは違って、どこか緊張と刺激を与えてくるような声だ。


「いや、そんなことは……」


 本音を云うと、触ってみたい。

 9本のモフモフした尻尾に囲まれるなんて、夢のようだ。


 だけど、それを云ってはいけない。

 変質者と認定されて、騎士団を呼ばれたりしてはたまらない。それに見ず知らずの女性に、そんなことを云えるほど、オレは正直じゃない。


「顔に書いてあるわよ」


 九尾族の女性はクスクスと笑いながら、そう云った。


「私の名前はタマモ。あなたとっても可愛いから、特別に触ってもいいわよ」


 可愛い。

 オレはそう云われて、戸惑う。メラさんやこのタマモと名乗った九尾族の女性のような、年上の女性から云われると、戸惑ってしまう。どうして、オレのことを可愛いと思うのだろう?

 この人も、メラさんと同じように、年下の男が好きなのだろうか……?


 い、いや、そんなことはどうでもいい!

 いくら相手がいいと云っていても、見ず知らずの女性の尻尾を触るなんて!!


「そ、そんな……僕とあなたとは、親しい間柄ではありません。それに、ここは娼館でもありません。女性の尻尾を触るなんてことは……」


 なんとかして、切り抜けないと!

 そう思っていると、タマモがオレに近づいてきた。オレは逃げることもできず、壁際へと押し込まれていく。そしてあと少しで顔が触れそうなところまで、タマモは近づいてきた。


 タマモは、オレの耳元でこう囁いた。


「本当に、いいの? 九尾族の女性の尻尾なんて、そうそう滅多に触れないわよ? それに、とーっても、モフモフなのよ?」


 とーっても、モフモフ。

 その言葉にオレは、手がウズウズとし始めてきた。


 触りたい! 触りたい!! 触りたい!!!

 モフモフした尻尾に、触って癒されたい!!


「……あの」


 オレは恐る恐る、口を開いた。


「……本当に、触っても、いいんですか? 触った瞬間に、痴漢だとか騒いだり、しませんか?」


 失礼だとは思ったが、ハニートラップということもある。

 オレは万が一に用心して、尋ねる。これで怒ったりしたら、すぐに逃げ出そう。


 しかし、オレの予想は裏切られた。


「騒いだりしないわ。だってあなた、好みのタイプだもの。いくらでも、満足いくまで、モフっていいのよ?」


 騒がない。

 その言葉を聞いたオレは、そっとタマモの尻尾に、手を触れた。


「あふっ……ふふ、いいわよ」


 タマモの言葉に、オレはそれまで抑えていた理性が飛んだ。

 次々に両手で尻尾を触っていき、尻尾に囲まれていく。

 生まれて初めて触った九尾族の女性の尻尾に、オレはすっかり虜になってしまった。


「す……すごい……!」

「ふふっ、可愛いわね。もっともっと、触ってもいいわよ……?」


 タマモの好意に甘え、オレは尻尾をモフモフしていく。

 そこに待っていたのは、桃源郷だった。


 それからしばらくして、満足したオレは、尻尾から手を離した。

 そしてタマモに、頭を下げる。


「あの……ありがとうございました。尻尾、素晴らしかったです。尻尾に囲まれて、幸せでした」

「そう、喜んでくれて良かったわ。あなたの手つき、なかなか上手だったわよ。また触りたくなったら、いつでもここに連絡してね」


 タマモはそう云って、小さなカードを差し出してきた。カードには連絡先となる住所やタマモの特徴などが書かれていた。

 オレはそれを受け取ってから、タマモと別れた。




「いやぁ~、いい思いをしたなぁ……」


 オレはフワフワした気分で歩きながら、先ほどの9本の尻尾を思い出していた。


 まさにあれは、モフモフの暴力。

 獣人族の中でも、あれほどのモフモフを発揮できるのは、九尾族以外にはいないだろう。

 九尾族を愛人にしたいと考える金持ちがいることが、なんとなく分かった。


「また今度、お願いしてみようかな……?」


 そんなことを考えていた時だった。

 オレの目の前に、騎士団が現れた。


「お前だな?」

「はい?」


 何のことだろう?

 オレが首をかしげると、騎士が叫んだ。




「お前を、逮捕する!!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、2月9日の21時更新予定です!

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