第46話 海賊の銃
「その女性を放せ!!」
ジャックさんが、海賊の銃を向けて、叫んだ。
「なら売り上げを全て持ってこい!!」
「断る!!」
ジャックさんは毅然と云い放った。
「売り上げをお前のようなゲス野郎に渡すなど、とんでもない! 女性を放さないのなら、お前を撃つ!」
そんな無茶な!!
空砲しか装填されていない銃で、相手は倒せない!!
オレが口を開こうとしたが、男の方が早かった。
「撃てるものなら、撃ってみやがれ!!」
その直後。
ジャックさんが、引き金を引いた。
バァン!!
空砲とは明らかに違う銃声が、辺りに轟いた。
「ぐおっ!?」
「キャア!!」
男が叫び、被っていた帽子が宙に舞った。
それと同時に男が手を離してしまい、人質の女が開放される。
女は走って逃げ、宙を舞っていた帽子は男の足元に落ちた。
帽子には穴が開けられていて、弾丸が貫通したことを物語っていた。
オレはその時、空砲しか装填されていないと思い込んでいたことに気づいた。
いや、正確にはショーの時だけ空砲を装填していただけだった。
今、ジャックさんが手にしている海賊の銃には、実弾が装填されている!!
「よくも……人質を……!!」
男は怒りに燃え上がり、短剣をさらにもう1本取り出した。
「こうなったら、ニューオークランド・パイレーツ全員、皆殺しにしてやる!! 海賊は船長さえ殺せば、あとは皆殺しにしても罪にはならなかったんだ!!」
「面白い、やれるものなら、やってみろ!」
ジャックさんが叫んで口笛を吹くと、船員たちが動き出した。
船員たちが男を取り囲み、手にした角材で攻撃を始める。
「やあっ!」
「とうっ!」
「おりゃ!」
船員たちはショーのように飛び跳ねながら、男を翻弄する。
そして男の死角に入った時に、角材で男を叩いた。
決して頭を攻撃しないのは、角材を持っているからだろう。いくら角材という頼りない武器であっても、頭を殴れば死ぬ確率が出てくる。
オレはリボルバーに添えていた手を、そっと離した。
今の状況では、リボルバーを使うと船員に当たるかもしれない。
オレはライラにも目で合図して、今の状況を見守ることにした。
「くらえっ!」
「ぐおっ!?」
そして1人の船員が加えた攻撃で、男はついにひるんだ。
地面に手をつくと、すかさずジャックさんが駆け寄り、銃口を男に向けた。
「ニューオークランド・パイレーツに戦いを挑むことが、間違いだ! 大人しく降伏しろ! 命は取らない!」
「ぐぐぐ……」
よし、あと少しであの男はお縄だ!
オレはそう思って安心しかけた。
だが、それは甘かった。
「……野郎!!」
突如として男が、短剣を振り回した。
「うわあっ!!」
ジャックさんと船員たちが後ずさりし、ジャックさんはその時に、海賊の銃を落としてしまった。
それを見た男が、ニヤリと笑う。
「船長の首、貰った!!」
男がジャックさんに向かって駆け出す。
オレがリボルバーで援護することは、できない。周りに船員がいるから、流れ弾が当たってしまう危険性がある!
だけどこのままでは、ジャックさんの命が危ない!!
「ジャックさん!!」
オレたちにできることは、無かった。
もうダメだと、オレたちは目を伏せた。
バァン!!
「ぐぐぐ……!」
銃声が轟き、オレたちは顔を上げた。
ジャックさんが海賊の銃を手にしていて、銃口からは硝煙が立ち上っていた。
「や……野郎……!!」
男が恨めしそうな表情でジャックさんを睨みながら、短剣を落とした。
右肩を抑えながら、男は地面に膝をつく。
ジャックさんが、海賊の銃を拾い上げて、ギリギリで男を撃った。
しかも弾丸は、男の右肩に命中したんだ!!
「や……やった!!」
オレは驚きつつも、ジャックさんが心配になって駆け出した。
「ジャックさん!!」
「ビートくん! 悪いけど、騎士団を呼んでくれ!」
「はいっ!」
オレはすぐに、騎士団を呼びに走った。
その後、騎士団による現場検証と取り調べが行われた。
男は騎士団によって逮捕され、そのまま病院へと連れていかれた。
オレとライラは証言者として、ジャックさんや船員と共に、騎士団の事情聴取を受けた。
もちろん、その場に残っていた観客も証人として、オレが騎士団に証言するよう願い出た。
証言者による証言と、男が指名手配犯であったことから、すぐに現場検証は終わった。
もちろんジャックさんや、ニューオークランド・パイレーツの船員たちが罪に問われることなど、無かった。
そして後でジャックさんから、ニューオークランド・パイレーツに対して賞金が支払われたことを、オレたちは聞いた。
「えっ、これから出発してしまうんですか!?」
夕方、オレたちは海賊船ブラックウォーター号の前で、ジャックさんから聞いた。
「そうだよ。これから、南大陸に向かうんだ」
「どうしてですか!?」
「もちろん、興行だよ。南大陸のある街から依頼が来てね。これからそこに向かわなくちゃいけないんだ。幸いにも、準備は少し前に終わっていたから、後は出航するだけ。でも、昼間の騒ぎには本当に参ったよ」
ジャックさんはやれやれと云った様子で、首を振った。
「ビートくんにライラちゃんが居なかったら、もう少し時間がかかっただろうな。本当に、ありがとう」
「お礼なんていいですよ。でも、これからどうやって南大陸に向かうんですか?」
「もちろん、我が海賊船ブラックウォーター号でさ!」
ジャックさんは、海賊船ブラックウォーター号を見て云った。
「ブラックウォーター号は、ニューオークランド・パイレーツの本部であると同時に、移動手段でもあるんだ。興行に必要な道具も船員も、一度に運べるからね。まさに我々にとって、家と呼べる場所なんだ」
「船長!」
1人の船員が駆けてきた。
「船長、まもなく出航します!」
「分かった。すぐに向かおう」
ジャックさんはそう云うと、オレたちに向き直った。
「またしばらくお別れだ。寂しくなるけど、またどこかで出会ったら、是非ショーを観ていってくれると嬉しいよ」
「是非観ます!!」
「ジャックさん、お元気で!」
オレとライラがそう云うと、ジャックさんは微笑んだ。
「それじゃあ、行ってくるよ!」
そう告げて、海賊船ブラックウォーター号へと乗り込んだ。
ジャックさんが乗り込むと、海賊船ブラックウォーター号は錨を上げて、タラップが取り除かれた。
ブリッジに、ジャックさんが立ち、水平線を見つめる。
「微速前進!!」
海賊船ブラックウォーター号はゆっくりと離岸して、大海原へとすべるように進んでいく。
「さようならー!! お元気でー!!」
「さようならー!!」
オレとライラが手を振りながら叫ぶと、船員たちも帽子を振って応えてくれた。
「さようならー!! 我が友ビートにライラーっ!!」
「さようならーっ!!」
オレとライラは、海賊船ブラックウォーター号が水平線に消えていくまで、その場で見送り続けた。
翌日になると、オレたちはホテル・バッカニアを出て、アークティク・ターン号へと戻った。
今日、補給を終えたアークティク・ターン号は再び、走り出す。
「ビートくん、またしばらくは2人っきりね」
ライラが個室のベッドに腰掛けて云う。
「そうだな。しかもこの先に広がっているのは、大荒野地帯。寂しい風景の中を、進むことになるな」
「大丈夫よ! わたしは、ビートくんと一緒なら平気! それに……」
ライラがベッドから立ち上がると、オレの左腕に抱き着いてきた。
「おうっ!?」
むにゅん。
豊満な胸が押し付けられ、オレは変な声を出してしまう。
「2人っきりなんだから……遠慮しなくても、いいよね……?」
「らっ、ライラ! ちょっと待って!!」
オレがそう云うが、すぐにオレの唇は、ライラによって塞がれてしまった。
アークティク・ターン号が動き出すと、再び西へ向かって線路を進んでいく。
先に広がっているのは、誰も居ない大荒野地帯だった。
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