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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第4章 ホープへの道
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第45話 ニューオークランド・パイレーツ・ショー

 朝が来た。


 オレは朝日が昇りきってから、少しだけ時間が経ってから目を覚ました。

 枕元に置かれていた時計を見ると、7時半を指し示している。


「ん……朝か……」


 オレが起き上がろうとすると、オレの目の前を誰かが横切った。

 それがライラであることに、オレはすぐに分かった。ライラからしか漂ってこない、あのいい匂いがオレの鼻孔をくすぐったためだ。


 オレはゆっくりと、ベッドから起き上がった。


「おはよう、ライラ」

「あっ、ビートくん、おはよう!」


 オレの声に気づいて、ライラが尻尾を振りながら、挨拶を返してくれた。


「これから洗面所で着替えて髪を整えてくるから、ちょっと待っててね」


 ライラの手は、ドレスをしっかりと持っていた。

 そして見ると、長い髪はところどころ寝ぐせがついていた。


「わかった。オレもこれから着替えるよ」


 オレがそう返すと、ライラは洗面所に消えていった。

 服を着替え終え、ガンベルトを装着してから少しして、ライラが洗面所から出てきた。


 ドレスに着替え、寝ている時に着ていたインナーキャミソールは手に持っていた。

 髪も整えてきたらしく、寝ぐせが消えていた。


 準備が整ったオレたちは、ホテル・バッカニアのレストラン『ジョリー・ロジャー』で朝食を食べた。




 9時半頃になると、オレたちはホテル・バッカニアを出た。


 これからニューオークランド・パイレーツの本拠地、海賊船ブラックウォーター号の前で、イベントが行われる。

 昨日ジャックさんが教えてくれた、ニューオークランド・パイレーツのショーだ。


 オレはそれが昨日の寝る前から、ずっと楽しみで仕方がなかった。

 初めてニューオークランド・パイレーツのショーを見た時から、オレはニューオークランド・パイレーツのファンになっていた。


「ビートくん、楽しみね!」

「ああ!」


 ライラもオレと同じく、ニューオークランド・パイレーツのショーを楽しみにしていた。


「ジャックさんたちの演劇や曲芸を見れるんだから、楽しみだよ!」

「わたしも楽しみ!」

「そしてまた、ジャックさんから手伝いのお願いがあって、ライラが出演したりしないかな」

「ビートくんってば……あれはあの時の夜だけよ!」


 ホテル・バッカニアで行われた、ディナーショー。

 そのときにライラが助っ人として出演して、即興で演奏が行われた。その時の演劇が、今まで見てきた中で最も面白かった。そのときにライラが貰った羅針盤を、ライラは今も大切に持ち歩いている。

 ライラも口ではそう云っていたが、どこかしら期待混じりの表情になっていた。オレとしては是非、またライラとニューオークランド・パイレーツがコラボした演劇を見たい。

 舞台に立つライラは、いつものライラと違っていて、またそれも良い。


 そんなことを考えているうちに、オレたちは海賊船ブラックウォーター号に、辿り着いた。




 海賊船ブラックウォーター号の前では、ジャックさんと船員たちが設営の最終チェックを行っていた。

 設営とはいっても、大掛かりな舞台などは用意されていない。バックに海賊船ブラックウォーター号があるのだから、そんなものは必要ないと見ても良かった。


 用意されていたのは、イスの代わりとなるタルや木箱。

 そして舞台と観客席の境界線となるロープ。


 それだけで、十分舞台として整えられていた。


「ジャックさん!」

「やあ、ビートくんにライラちゃん!」


 ライティングボードを手に、船長の衣装に身を包んだジャックさんが、オレたちの名前を呼ぶ。


「おはようございます! 昨夜はご馳走様でした!」

「おはよう。どういたしまして」


 ジャックさんは笑顔で、オレたちを迎え入れてくれた。


「あともう少しで開演だ。2人とも空いている場所に座って、待っていて」

「はい!」


 オレとライラは遠慮することなく、最前列に置かれていたタルに腰掛けた。

 その後、ぞろぞろと観客が集まってきて、あっという間にタルと木箱は埋め尽くされた。後ろの方では、空いている席が無くて立ち見になっている人まで出てきた。早めに来て最前列を確保しておいて、本当に良かったと思いつつ、オレたちは演劇が始まるのを待った。


 そしてジャックさんと船員たちが現れ、一列に並んで一礼する。


「レディースアンドジェントルメン! お集まりいただき、ありがとうございます! ニューオークランド・パイレーツです!」


 ジャックさんが叫ぶと、周りから拍手と喝采が沸き上がる。


「本日もお集まりいただき、誠にありがとうございます! 海賊たちの戦いを、思う存分に見物していってください!!」


 ジャックさんがそう告げると、リボルバーを取り出した。

 海賊の銃として名高い、S&WM3というリボルバーを空に向け、引き金が引かれた。


 乾いた銃声が轟くと、船員たちが動き出し、ジャックさんもその中に混ざっていく。

 きっと、演劇用の空砲を入れたリボルバーだろう。

 オレはそう思った。


 その後に行われたニューオークランド・パイレーツのショーは、言葉を忘れて見入ってしまうほど、素晴らしいものだった。

 昨日、食事を共にした船員たちが飛び跳ねて駆け、模造刀で戦う。

 船の上ではないのに、まるで船の上で海賊たちが戦っているかのように、錯覚してしまった。


 たっぷり1時間、オレたちはニューオークランド・パイレーツのショーを楽しんだ。

 即興での演劇は無かったが、それでも終わった時には、惜しみない拍手を贈った。

 もちろん、銀貨もおひねりとして投げた。


 この後は、解散してオレたちはホテル・バッカニアに戻って昼食にする。

 その時までは、そう思っていた。




「キャーッ!!」


 突如として上がった悲鳴に、オレたちは驚いた。


「おうりゃあっ!!」


 男の声がしたかと思うと、ニューオークランド・パイレーツが立っていた舞台に、女連れの男が躍り出てきた。

 帽子を被った男は女を抱えていて、短剣を手にしている。


「放してえっ!」

「騒ぐんじゃねぇ!」


 なんだこれは?

 もしかして、演劇が始まったのか!?


 そう思っていたが、様子がおかしかった。

 ニューオークランド・パイレーツが、動かない。

 ジャックさんも船員たちも、驚きの表情で男を見ている。

 中には戸惑っている船員もいた。


 これは、台本にあることじゃない!!

 つまり、本物の強盗か誘拐犯だ!!


 オレが直感した時、男がジャックさんを見て叫んだ。


「おい! 今すぐニューオークランド・パイレーツの売り上げを全て、ここに持って来い!! さもないと、この女の命は無いものと思え!!」

「助けて!!」


 短剣を突きつけられた女性が泣き叫ぶが、男は怒鳴った。


「わめくな!! それと騎士団を呼んでみろ! その瞬間に、この女の首から血が噴き出すぞ!!」


 その一言に恐れをなしたのか、周りにいた観客が後ずさりした。

 無理もない。戦い慣れていない人なら、強盗だって恐ろしい存在だ。


 だけど、誰かがなんとかしないと、あの女性は捕まったまま怯え続けなくてはならない。

 そしてそんなことは、誰も望んじゃいない!


 オレはガンベルトのリボルバーに、手を掛けようとした。


「そうはさせない!!」


 その時、男の前に海賊風の衣装を身にまとった男が立ちふさがった。

 ジャックさんだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、2月6日の21時更新予定です!

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