第35話 レイラ女史
「いたぞ! 銀狼族だ!」
オレとライラは、男たちから逃げていた。
「しかも銀狼族は若い女だぞ! 何が何でも捕まえろ! 最低でも大金貨100枚は固いぞ!!」
「イエッサー!!」
複数人の男たちから、オレはライラを連れて必死になって逃げ惑う。
どうして、こんなことになってしまったのか。
事の発端は、10分ほど前まで遡る……。
オレとライラは、ギアボックスの金属取引市場にやってきていた。
どうしてこんなところに来たのかと云うと、スノーシルバーの取引価格を調べるためだ。
銀狼族の村の近くには、北大陸でしか産出されない希少な金属である、スノーシルバーを採掘できる鉱山がある。しかもその鉱山の採掘権は、銀狼族の村が持っている。そこで産出されるスノーシルバーは、北大陸の他の場所で採掘されるものよりも、質が良いとされて高値で取引されることが多い。
そのため、銀狼族の村にとってスノーシルバーの採掘は、貴重な外貨を稼ぐための手段だ。そしてスノーシルバーを売るにあたって、常に把握しておかないといけないのが、取引価格だ。
産出されたスノーシルバーの多くは、サンタグラードの金属取引市場で取引されるが、いくらかはギアボックスの金属取引市場にも卸されている。ギアボックスは工業都市であることから、金属取引市場は活発に動き、毎日のように需要があることから、取引価格は常に高くなっている。
オレとライラが行うことは、半年分の取引価格のデータを貰い、信書として銀狼族の村に送ることだ。
銀狼族の村から出て、ギアボックスまで行く銀狼族はまずいない。そのため、ギアボックスのスノーシルバーの取引価格のデータは、銀狼族の村にとって喉から手が出るほど欲しいものになる。
だから今回、オレたちがギアボックスを通るということで、白羽の矢が立てられたのだ。
半年分の取引価格のデータを手に入れたオレたちは、すぐにそれを封筒に入れ、ギアボックス駅の郵便窓口でサンタグラードにいる連絡員宛てで送った。
これで後は、ホテルに戻るだけだ。
「いやー、まさかこんな役目を押し付けられるとは、思わなかったな」
「でも、これできっとまた銀狼族の村も豊かになるよ。スノーシルバーが高く売れたら、その分裕福になれるから!」
「そうだな。オレたちが銀狼族の村に帰る頃には、もっといい生活ができるようになるかもしれないな」
そんな他愛のない会話。
しかし、そんな会話が仇となった。
「ほう、銀狼族の村……?」
野太い男の声に驚き、オレたちは振り返る。
そこには奴隷商人と共に、数人の男がいた。数人の男が奴隷商人の手下であることは、すぐに分かった。
「ということは、その女は銀狼族だな!?」
「ひいっ!?」
ライラが悲鳴を上げる。
そしてその悲鳴は、奴隷商人に答えを教えてしまった。
「銀狼族だ! しかも女だぞ!!」
「ライラ、逃げるぞっ!!」
オレはライラの手を引いて、逃げ出した。
そんな出来事があってから、オレたちはギアボックスの街を駆け抜けて、逃げていた。
しかし、奴隷商人もしぶとい。相手が銀狼族だと分かっているから、何が何でも手に入れたいという気持ちが働いているのだろう。通常なら、いくら奴隷商人でも諦めていてもおかしくはない。
それだけ、銀狼族の取引が魅力的ということか!
だが、いくら銀狼族だとしても、ライラを奴隷商人に渡すことはできない!!
「くっそう!」
オレは半ばヤケになって、リボルバーをホルスターから引き出した。
走りながら背後に向けて撃てば、命中はしなくてもけん制にはなるはずだ。
「ビートくん、ダメ!!」
併走するライラが、オレに向かって叫ぶ。
「他の人に流れ弾が飛んだら、ビートくんが犯罪者になっちゃう! それは本当に最後の手段にして!!」
「わかった!」
オレは頷き、リボルバーをホルスターに戻した。
ライラの云うことは最もだ。罪のない人を撃つために、オレは銃を手にしたわけじゃない。無関係の人を撃つことだけは、絶対にあってはならないことだ。
しかし、だからといって奴隷商人は追いかけてくるのをやめてくれたわけじゃない。
むしろリボルバーを取り出したのに引っ込めたためか、何もしてこないと踏んで、ヒートアップしてきたようだ。
このまま走り続けたら、こっちが息切れして捕まってしまう!
一体、どうすればいいんだ!?
息が切れ初めてきた時、オレたちはT字路に突き当たった。
しかし、T字路の突き当りには、クラウド茶会のギアボックス支店があった。
オレは過去に、クラウド茶会のオーナーこと、ナッツ・ミッシェル・クラウド氏から云われた言葉を思い出した。
『奴隷商人を見たらすぐに逃げなさい。何なら、各地にあるクラウド茶会に逃げ込んでも良い』
リップサービスだったのかもしれないが、オレはナッツ氏を信じたくなった。
クラウド茶会に、助けを求めよう!!
「ライラ、クラウド茶会に逃げ込もう!」
「うん!!」
ライラはオレの決定に驚くことなく、頷いた。
オレはクラウド茶会ギアボックス支店のドアを開け、ライラを先に中に入れてから、ドアを閉じた。
「いらっしゃいませー」
店員がオレたちを客だと思って出てくるが、今は客にはなれない。
「た、助けてくれ!!」
「奴隷商人に、追われているんです!!」
オレたちが助けを乞うと、店員は首をかしげた。
「お客様……?」
「オレはビート、こっちは妻のライラだ! ミッシェル・クラウド氏とは、知り合いなんだ!」
「あの、お客様――!?」
店員が対応に困っていると、ドアが勢いよく開けられた。
「ひいっ!!」
ライラが悲鳴を上げて、カウンターまで後ずさりする。
奴隷商人が、店の中に入ってきた。
「い、いらっしゃいま――」
「おい、銀狼族をよこせ!!」
奴隷商人が店員の言葉を遮り、叫んだ。
奴隷商人が現れたことで、クラウド茶会ギアボックス支店の中は、一気に緊張状態になってしまった。
なんとかして、クラウド茶会に被害が出る前に、片を付けないと!!
「大人しく、銀狼族を渡すんだ!」
「断る!」
オレは叫んだ。
「ライラはオレの妻だ!! オレの妻は、誰にも渡せない!!」
当たり前のことを、オレは叫ぶ。
いくら奴隷獲得の手段として実力行使が認められていたとしても、これだけは認めるわけにはいかない!
ライラは誰の奴隷になることも望んでいないし、オレもライラを奴隷にする気は無い。そんなことを認めるくらいなら、共に死んだほうがマシだ。
「野郎!!」
突如として、奴隷商人はナイフを取り出した。
「銀狼族を渡さないなら、この店にいる奴ら全員を奴隷にして、店を跡形もなくぶっ壊すぞ!?」
「――!!」
オレはそっと、リボルバーのグリップに手を添える。
どうやら、ヤケになっているようだ。ここまで来たら、他の人に被害が及ぶ前に、撃ち殺してしまったほうがいいだろう。少なくとも、この状況下でなら正当防衛は認められる。
ナイフを投げてきたら無理かもしれないが、早撃ち勝負なら、こっちのほうが上だ!
リボルバーを抜こうとした時、オレの前に1人の女性が出てきた。
女性はオレに背中を向けたまま、オレと奴隷商人の間に立った。
「お引き取り下さい。この方々は、私たちのお客様です」
女性は奴隷商人に向かって、そう告げた。
その時に気がついたが、女性は獣人族白狼族だった。
「私たちのお客様だとぉ……!?」
「はい。そしてお客様であると同時に、このお2人は、我がクラウド茶会のオーナー、ナッツ・ミッシェル・クラウド氏のご友人です」
「知るかあっ!!」
奴隷商人が怒鳴り、クラウド茶会の従業員のほぼ全員が、肩をすくめた。
無理もない。オレだって驚くほどの怒鳴り声だ。むしろ、オレの前に立つ白狼族の女性が全く動じなかったのが、信じられない。
「とっとと銀狼族の女をよこせって、云ってるんだ! 聞こえねぇのか!?」
「では、奴隷取引に関する証明書を見せてください」
白狼族の女性は、そう云った。
奴隷商人はほぼ全員が、奴隷取引に関する証明書を持っている。これが無いと、奴隷商人として商品となる奴隷の売り買いをすることはできない。これを持たない者が奴隷を商品として売買した場合、人身売買となり処罰の対象となってしまう。
「力づくで解決するのでしたら、あなた方は我がオーナーことナッツ・ミッシェル・クラウド氏とその一族に対して、宣戦布告をしたものとみなします!!」
「うぐぅ……!!」
その直後、奴隷商人は固まった。
奴隷取引に関する証明書と、ナッツ・ミッシェル・クラウド氏に対する宣戦布告とみなすという通告。
どうやら、この奴隷商人は偽物のようだ。本当に奴隷商人なら、奴隷取引に関する証明書を見せればいい。それで本物の奴隷商人だと証明できる。もちろん、ライラを売り渡すようなことはしないが。
そして、茶豪と呼ばれる貴族のナッツ・ミッシェル・クラウド氏に対する宣戦布告。
貴族を相手に戦争をするとなると、かなり面倒くさいことになる。奴隷商人なんかは、貴族からは卑しい職業として嫌われていることが多い。
どうやら、勝負は決まったようだ。
「おっ、覚えてやがれ!!」
奴隷商人はそう叫ぶと、クラウド茶会から出ていく。もちろん他の奴隷商人たちも、一斉に逃げ出した。
「ありがとうございました!!」
奴隷商人がいなくなってから、静かになった店内で、オレは白狼族の女性に向かってお礼を云う。
「おかげで助かりました。なんとお礼を云えばよいか……」
「お礼なんて、とんでもありません。当然のことをしたまでです」
白狼族の女性はそう答えると、振り返った。
「だって、私の命の恩人ですから」
「――!!」
白狼族の女性の顔を見たオレとライラは、目を見張った。
なぜなら、そこには見慣れた顔があったからだ。
白狼族の女性は、レイラだった。
「お久しぶりです、ビートさんにライラさん」
「レイラ!!」
「レイラちゃん!!」
オレたちが名前を呼ぶと、レイラは軽く頭を下げ、両手でスカートのすそを少しだけ持ち上げた。
貴族の女性がする挨拶を、レイラが行っていることにも驚いたが、まさか助けてくれたのがレイラだったとは……!
「レイラちゃん、ありがとう!!」
「ライラちゃん、どういたしまして。そして、お久しぶりです」
その後オレたちは、レイラによって応接室へと案内された。
そこでクラウド茶会の紅茶を飲みながら、オレたちはレイラと話した。
ノワールグラード決戦の後、レイラはギアボックスに戻ってから、それまでと同じようにクラウド茶会のギアボックス支店で働いていた。しかし最近になって経理の腕の良さから、ナッツ・ミッシェル・クラウド氏直属の部下として、クラウド家の経理担当にまで出世していた。
まさかナッツ氏の直属の部下にまでなっていたとは。
オレとライラは驚きを隠せず、目をパチパチと瞬いた。
「でも、ナッツさんの直属の部下なら、ギアボックスにナッツさんもいるの?」
「いいえ、今は私だけです」
ライラの問いかけに、レイラは首を横に振った。
「旦那様は明日、ギアボックスに到着します。私は旦那様の命で一足先にギアボックスに来て、ギアボックス支店の経理部に新しく雇われた新人指導をしています。みんな覚えが早くてありがたいけど、未だに長く勤めている方から『戻ってきてほしい』と云われちゃって、困っていますよ」
レイラはすごいな。人に仕事を教えられるまでになって、それでもなお戻ってきてほしいと云われるほどの実力者になったなんて……。
オレがしみじみとしていると、ライラが口を開いた。
「ナッツさんが来るの!?」
「はい。明日の連絡船で到着されます。もしよろしければ、一緒に港までお出迎えに行きませんか? きっと、旦那様も奥様も、喜びますよ。ビートさんとライラさんにまた会いたいって、何度も仰っておりました」
「本当!? ビートくん、行こうよ!!」
「それはいいな。オレもナッツ氏とココ夫人に会いたいよ」
あの豪快な笑い声のナッツ氏と、いつも穏やかで落ち着いたココ婦人。
ミッシェル・クラウド家の人々にも、久しぶりに会いたい。
「では明日の9時に、ギアボックス港の連絡船専用埠頭で、待っていますね」
「分かった。それとレイラ、今夜オレたちと食事なんてどう?」
オレが提案すると、レイラは驚いた表情になった。
「い、いいのですか?」
「今日のお礼もさせてほしいし……ライラはどう思う?」
「わたしも、ビートくんの意見に賛成! レイラちゃんとの食事も久しぶりだから、レイラちゃんさえ良ければ!」
ライラがそう云うと、レイラは嬉しそうな表情になった。
「ありがとうございます。それでは、18時にお仕事が終わりますので、それからでしたら……」
「じゃあ、決まりね!」
「18時半に、噴水広場で待ち合わせでいいかな?」
「はい。今夜はご馳走になります」
レイラはそう云って、お辞儀をした。
それからオレたちは、レイラと別れた。
もちろん助けてくれたお礼に、ギアボックス支店でいい粉末紅茶を多めに購入しておいた。
さて、後は夕方になるのを待つだけだ。
オレとライラはホテルの部屋に戻り、そこで夕方まで時間が過ぎるのを待った。
夕方になり、オレたちは時間を確認してからホテルを出て、噴水広場に向かった。
噴水広場は、ちょうどホテルとクラウド茶会のギアボックス支店の中間地点にある。そこからレストランが集中しているエリアまでは、さほど距離は無い。そのためギアボックスに暮らす人々にとって、噴水広場は定番の待ち合わせ場所になっている。
噴水広場に到着すると、すでに多くの人が待ち合わせをしているらしく、噴水広場に集まっていた。
そして噴水のすぐ近くは、ほぼカップルに占拠されていた。
「ビートくん、わたしたちも負けていられないよ!」
ライラが、噴水の近くに集まるカップルたちを見て、オレの腕に抱き着いてくる。
いやライラ、こんなところで対抗してどうするっていうんだ?
誰かに見せつけるために、オレたちは一緒にいるわけじゃないんだけど……。
オレが反応に困っていると、後ろから声をかけられた。
「ビートさんにライラさん、お待たせしました!」
オレたちが振り返ると、そこにはレイラがいた。
レイラは仕事が終わってから直接来たらしく、ギアボックス支店で着用していた服の上に、薄いコートを1枚だけ羽織っていた。
「待ちました?」
「いや、オレたちも今来たところだよな?」
「うん!」
オレの言葉に、ライラがそう頷く。
もちろんその時も、ライラはオレの腕を掴んで放すことは無い。
それを見たレイラは、微笑んだ。
「ライラさん、いつも通りで安心しました」
「えへへ。いくらレイラちゃんでも、ビートくんは渡さないからね」
オレはライラの言葉に少しだけ呆れつつも、口を開いた。
「さて、そろそろ出発しようか」
「はい!」
レイラが頷き、オレたちはレストランに向かって、歩き出した。
家路を急ぐ労働者たちとは、別の方角へとオレたちは進んでいく。
「お待たせ致しました。サーロインステーキのセット、3人分でございます」
レストランに入り、メニューを注文してから十分くらい経った頃。
オレたちが注文したメニューが、テーブルまでウエイターによって運ばれてきた。
焼きたてのサーロインステーキ。
ジュージューと美味しそうな音を立てる、大きなステーキ。付け合わせの野菜もちゃんとあり、ワイルドな中にも高級感がはっきりと見て取れた。
パンとスープ、それにサラダもついているが、ライラとレイラは大きなサーロインステーキそのものに目が釘付けになっていた。やっぱり狼系の獣人は、肉が好きなのだろう。
全員の前にステーキが置かれ、ウエイターが去っていくと、オレたちは食事を始めた。
サーロインステーキをステーキナイフで切ると、レアな焼き加減の中身が見えた。
「すごく美味しそうです……!」
「わたしも、こんなに美味しそうなステーキは久しぶり……!」
ライラとレイラの目が、キラキラと輝いている。
それを口に入れると、さらにキラキラが増した。
「美味しいです……!」
「んー! いいお肉!!」
尻尾をブンブンと振りながら、ライラとレイラは喜びを露わにしていた。
そしてオレたちは残すことなく、サーロインステーキセットを平らげた。
「ご馳走様でした!!」
食事を終えて、レイラはオレたちに頭を下げた。
「こんなにご馳走になってしまって、ありがとうございます!」
「レイラに喜んでもらえて、良かったよ」
「わたしも、久しぶりに美味しいサーロインステーキが食べられて、幸せ!」
ライラの言葉に、オレは笑った。
確かに、焼き加減も味付けも良いサーロインステーキは、久しぶりだった。
もう1枚食べたいが、これ以上はお酒の力を借りても、途中で食べられなくなりそうだ。
支払いを済ませておこうと、オレが伝票を手にしようとした時だった。
「よぉ、昼間はずいぶんと振り回してくれたなぁ」
1人の男が、オレが手にしようとした伝票をヒョイと、取り上げた。
昼間、オレたちを追い回してきた奴隷商人が、そこには居た。
「まっ、またお前か!!」
オレが叫ぶと、奴隷商人はニヤリと笑う。
「あのまま引き下がったら、せっかくの儲けをみすみす逃すのと同じだからな。さぁ、銀狼族を渡してもらおうか!」
奴隷商人が云い、オレはライラとレイラに目を向ける。
ライラはすっかり怯えた表情になっていて、レイラも突然のことに驚いているようだ。
このままでは、2人が危ない!
そして戦えるのは、オレだけだ!
オレがなんとかしないといけない!!
覚悟を決めると、オレはソードオフとリボルバーが収められたガンベルトを外し、ライラに手渡した。
丸腰になったオレを見て、奴隷商人は首をかしげる。
「なぜ、お前は丸腰になる必要があるんだ?」
奴隷商人の言葉に、オレは答えた。
「奴隷商人を相手にするのに、ソードオフを使う価値もない。もっと云えば、銃もナイフも使う価値は無い。そんなものが無くても、素手とオレの石頭だけで十分だ」
答える理由も無かったが、オレはそう答えた。
本当はソードオフやリボルバーを使うことで、流れ弾が他の客に飛ぶのを防ぐためだ。いくらライラやレイラを守るためとはいえ、無関係な人を巻き添えにすることはできない。
だが、こう云えば相手を挑発できる。
そして挑発に乗れば、相手は理性を失って、こちらとしては戦いやすくなる。
オレの考えは、的中した。
オレの答えを受けた奴隷商人は、顔を真っ赤にして怒り出す。
「威勢のいいガキだ……!」
ポキポキと、指を慣らしながら奴隷商人は云う。
挑発に乗ってきたと、オレは戦闘態勢に入る。
「大人がどんなものか、分からせてやる!!」
奴隷商人が、拳をオレに向けて飛ばしてくる。
間一髪で避けようとしたが、予想よりも早かったから、避けられなかった。
オレは顔の左側に、拳を受けた。
それでも拳の動きに合わせて顔を右に振ったから、あまりダメージは食らわなかった。
「ビートくん!!」
ライラが叫ぶが、オレは大丈夫だ。
どうやら思ったよりも、戦い慣れしているみたいだ。
だが、今度は同じようにはいかないぞ!!
オレが攻撃に出ようとした時だった。
「取り押さえろ!!」
突然、周りの客が動き出した。
そしてあっという間に、客は奴隷商人を抑え込んだ。
「なっ、なんだテメェらは!?」
「騎士団だ!!」
1人の客が叫ぶ。
騎士団だって!?
いったいいつから、騎士団が客に紛れ込んでいたんだ!?
「暴行と障害の現行犯で、逮捕する!」
騎士団は奴隷商人に手錠を掛けた。
そのまま奴隷商人は、レストランの外へと連れ出されていった。
何が起きたのか分からないまま、オレは立ち上がり、服についたホコリを払う。
「ビートくん!!」
ライラが走ってきて、オレの殴られた左頬に手を当てる。
「ビートくん、大丈夫!?」
「大したことないよ。ちょっと痛むけど、全然平気」
オレはそう云うと、ライラからガンベルトを受け取った。
ガンベルトを巻き終えると、レイラがどこからか戻ってきた。
「ビートさん、大丈夫でしたか?」
「あぁ、なんとかな。それにしても、一体何が起きたんだ……?」
「実は、先に通報しておきました」
レイラはそう云うと、全てを話してくれた。
レイラは昼間に来た奴隷商人が、奴隷の取引に関する証明書を見せなかったことから、本物の奴隷商人ではないと見抜いていた。
そして騎士団に確認を取り、指名手配中の犯罪者だと知った。
夜に食事をすることが決まると、きっと食事をしている場所に現れると踏んで、騎士団に身辺警護を依頼していた。そのためレストランの周りには、客に変装した騎士で固めていたのだった。
どうしてレイラが騎士団を動かせたのか。
それはレイラが、ナッツ氏の名前で身辺警護依頼書を作成し、騎士団に依頼したためだった。
「旦那様から、指示を受けていました。ビートさんとライラさんが助けを求めてきた時は、私の名前を使っても構わないので、必ず助けるようにと。もちろんそう指示されなかったとしても、私はビートさんとライラさんを助けるためには、どんな労力も惜しみなくつぎ込みます」
レイラの言葉に、驚きと感謝の感情が、強烈に沸き上がってきた。
オレたちは強力すぎるといってもいい味方を、手に入れたんだ!
「レイラ……ありがとう!!」
「ありがとう、レイラちゃん!!」
オレとライラは、レイラに感謝して、頭を下げた。
明日、ナッツ氏に再会したら、ナッツ氏にもお礼を云おう。
オレはそう、心に決めた。
レストランでの騒動が解決した後、オレたちはレイラと別れて、ホテルへと戻った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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