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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第3章 ギアボックス
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第34話 赤ずきんライラ

 朝、オレとライラはホテルのレストランで朝食を食べていた。


 ライラは肌がツヤツヤとしている。

 対するオレは、少しだけ目の下にクマができていた。


「ビートくん、このベーコンエッグ、美味しいね」


 ライラは食欲もあるらしく、ベーコンエッグにサラダ、そしてスープも取ってきて食べていた。

 オレも食欲が無いわけではないが、眠気が強くてコーヒーが無いと眠ってしまいそうだった。そのため取ってきたベーコンエッグやトーストよりも、コーヒーが進んでいた。


「そうだね。いい卵とベーコンを使っているよ……」


 オレはそう答えながら、コーヒーをすすった。


「ビートにライラ、おはよう」


 突然、名前を呼ばれてオレたちは振り返る。

 そこには、スパナがいた。


「スパナ! おはよう」

「おはよう、スパナくん」

「昨日はご馳走様。ところで、相席してもいいか? 他に空いている場所が無くって……」

「もちろん、いいよ!」


 ライラが勧めて、スパナがオレとライラの向かいに座った。

 どうやら仕事に行く前に、ここで朝食を食べていくようだ。このホテルのレストランは、朝食時だけ宿泊していない人も、料金を支払うことで利用できる。スパナが持ってきた食事用プレートには、すでに大量の朝食が乗っている。トーストにベーコンエッグにスープ。さらにソーセージやサラダにマフィンまで乗っている。肉体労働をするために、それだけの量を食べると考えると納得できた。


「それにしてもビート、昨日寝不足だったのか? 目の下にクマができているぞ?」

「あぁ、ちょっと遅くまで起きてたからかな……」

「ライラはやけに肌がツヤツヤしているみたいだけど……?」

「そう? ありがとう!」

「ビートも、よく眠ったほうがいいぜ。寝不足でいいことなんて、何ひとつとして無いからな」


 本当はライラもオレも、睡眠時間は同じくらいなんだけどなぁ……。

 オレはそう思いつつも、昨夜何があったのかスパナに気づかれなくて良かったと、胸を撫でおろした。あえて何があったのかは云わないが。


 そんなやり取りをしつつ、オレたちはスパナと共に朝食を食べた。




「そうだ! 大事なことを伝え忘れていた!」


 食後にコーヒーを飲んでいたスパナが、思い出したように新聞を取り出した。


「ビートにライラ、これを見てくれ。一番下にある、横長のベタ記事だ」


 スパナから新聞を受け取り、オレは新聞の指示された場所に目を通す。

 そこには、こんな記事が載っていた。


『奴隷商館にて、銀狼族の価格高騰。ギアボックス奴隷商館において、獣人族銀狼族の取引価格が高騰している。前日の取引価格は、1人につき買値が大金貨30枚で売値が大金貨100枚。今後も上がる見込み有』


 記事の内容に、オレは緊張が走った。

 銀狼族の取引価格が上がっている。つまりは、ライラのことが銀狼族だと知られたら、大変なことになるかもしれない。

 記事を読んだライラの表情にも、不安の色が浮かんでいた。


「ありがとう、スパナ」


 オレは新聞を、スパナに返した。


「教えてくれて、ありがとう。なるべく、出歩かないようにするよ」

「いや、出歩くなとは云わない。俺にビートとライラの行動を縛る権利なんて、持っていないからな。俺は、何か対策をしておいたほうがいいと思っているんだ」


 スパナはオレとライラを見て、そう云った。

 対策とは、何をすればいいだろう……?

 オレが悩み始めると、スパナが口を開いた。


「例えばだけどさ、銀狼族の特徴って云ったら、銀髪と狼系の獣人に共通の狼の耳だろ? だからフードとかずきんでそれを隠したりすれば、気づかれにくいんじゃないかな?」

「……そうか!」


 フードかずきん。

 そうだ、その手があったじゃないか!!


 どうしてすぐに気がつかなかったのだろう?

 オレは、云われるまで気がつかなかったそんな自分を、少し恥じた。


「ありがとうスパナ! さっそく買いに行ってくるよ!」

「そうか。俺はこれから仕事に行くから、何事もなく平和であることを、願っているよ」


 スパナはそう云うと、空っぽになったプレートを返却して、レストランを去っていった。

 オレたちはスパナに深く感謝して、レストランを後にした。




「いらっしゃいませー」


 ブティックの店員が、入ってきたオレたちに挨拶してくる。

 オレとライラは、ブティックが開店すると同時に、足を踏み入れた。


 目的は、ライラに似合うフード付きケープか帽子を入手することだ。

 北大陸で使っていたフード付きのマントは、北大陸と東大陸の北部以外では、着用すると暑すぎて使えない。それに、ライラは暑いのが苦手だ。ここから先、西大陸に向かうにつれて気温が上がることはあったとしても、下がることはない。そんな中で、北大陸の寒さに対応したフード付きのマントを、着させるわけにはいかなかった。

 そして西大陸には広大な荒野や砂漠になっている場所もある。ライラの美しい白魚のような肌を守るためにも、帽子やフードがついたコートがどうしても必要になる。


 だから、フード付きケープか帽子を新調しないといけない。


「ビートくん、本当にいいの?」


 ライラが、オレに確認するように訊いてくる。

 フード付きケープか帽子を新調することに決めた直後、その代金はオレが支払うと決めた。もちろん決めたのは、オレ自身だ。

 しかしライラは、自分で代金を支払おうと考えていた。何度かオレが出すと云って納得してもらったが、まだ気にしているみたいだ。


「もちろん。ライラの好きなものを選んでよ」

「でも、もし高かったら……?」

「ライラが安心して歩けるようになるなら、安いもんだ」

「ビートくん……ありがとう」


 ライラがそっと、目元を拭う。

 やっぱり、ライラは可愛い。


「じゃ、じゃあ、早速ライラに似合うものを探そうか!」


 このままだと、オレがライラを抱きしめてしまいそうだ。

 だけど、ここではそれは避けないといけない!

 ここは、プライベートな場所ではないのだから。


「うん!」


 オレの言葉にそう返したライラと共に、オレはブティックの中を物色し始めた。




「ビートくん、これ可愛い!!」


 ライラがそう云って、ひとつの商品を手に取った。

 深紅の、フードがついたケープだった。


「真っ赤なケープか……ライラ、試着してみたら?」

「うん!」


 オレの言葉に頷き、ライラはその場でケープを羽織り、フードも被ってみた。

 ドレスの上に深紅のケープは少し目立ったが、銀狼族の特徴でもある狼耳と美しい銀色の髪は上手く隠せている。


「ビートくん、どう?」


 フードの下から、ライラが顔をのぞかせる。


「よく似合っているよ」

「本当!?」


 ライラが笑顔になると、そこには無垢な少女がいた。

 まるで、童話の中に出てくるような、花も恥じらうような乙女だった。


 オレはすぐに店員を呼び、その場で代金を支払った。

 大銀貨8枚といういい値段がしたが、惜しいとは思わなかった。




「珍しいね、ライラが深紅のケープを選ぶなんて」


 ギアボックスの通りを歩きながら、オレはライラに云った。


「そう?」

「うん。いつもと少し違うように見えるよ」

「……実はずっと、赤いケープには憧れていたの」


 ライラはそっと、語りだした。


「グレーザー孤児院で読んだ絵本に、フードがついた赤いケープの女の子のお話があったの。家に帰るために、夜道を進んでいくお話。その絵本を読んでから、ずっと赤いケープには憧れていた。だから、ずっと使ってみたかったの」

「そうだったんだ。よく似合っていて、まるで絵本の中から出てきたみたいだ」

「本当!?」


 オレが褒めると、ライラは尻尾をブンブンと振った。


「嬉しい!」

「これで銀狼族だと気づかれにくくなったから、安心だ」


 すると、ライラの表情が少しだけ曇った。


「ビートくん……」

「どうしたの?」

「奴隷商館には今、銀狼族っているのかな……?」


 その言葉で、オレは今朝の新聞記事を思い出す。

 銀狼族の取引価格が、上がっているという記事。これに警戒して、オレはライラにケープを買ったんだ。


「奴隷商館に行ってみないと、分からないな」

「ビートくん、行ってみよう!」


 ライラが、フードの下から云い、オレの腕を引っ張る。


「うん、分かった!」


 行ったところで、何かができるわけじゃない。

 だけど、銀狼族が奴隷商館に居るのか否か、確認しないと気が済まなかった。


 オレとライラは、奴隷商館に急いだ。




「えーと、銀狼族の取引価格と、現在の仕入れ状況の確認ですね」


 奴隷商館の窓口で、係員がオレたちが確認したいことを復唱する。


「そうです、間違いありません」

「かしこまりました。現在の銀狼族の買い取り価格は、買値が大金貨10枚で、売値が大金貨100枚です。そして直近の取引は……過去1年の間、取引記録がありません」

「そうですか……」


 係員の告げた内容に、オレたちは安心した。

 ライラもフードの下で、安心した表情になったらしく、少しだけ口元に笑みが見えた。


「しかし、これだけ買い取り価格が上がりますと、奴隷商人たちは血眼になって探すでしょう。さすがは白銀のダイヤといわれる銀狼族です。ところで、そちらの女性は銀狼族でしょうか?」

「「!!?」」


 係員の問いかけに、オレたちの身体に衝撃が走った。

 もしかして、バレたのか!?


「その尻尾から、狼系の獣人であることは、間違いなさそうですが……?」

「銀狼族じゃないですよ! 彼女は白狼族です!!」

「はっ、はい! そうです!!」


 オレが白狼族だと告げ、ライラがフードの下で頷く。

 もちろんこれは、万が一に用意しておいた嘘だ。


「彼女は私の妻でして、恥ずかしがり屋なのでフードを被らないと外出できないんです!」

「そうなんですか。銀狼族の女性でしたら、それこそ一度男に抱かれた身でも、高く買い取りできたのですが……」


 係員が残念そうに云い、オレたちは適当に笑ってごまかした。


「それ以外で、何かご入り用はございましたでしょうか?」

「いえ、それだけ確認できれば十分です」

「かしこまりました。またいつでも、お越しくださいませ」


 多分、2度と来ないよ。

 オレは心の中でそう告げ、ライラと共に奴隷商館を後にした。




 フード付きのケープの効果は、確かにあった。

 ライラはフードを目深に被っているためか、一度も視線を向けられることが無かった。いつもなら男はもちろん、女からも2回は見られるが、フードを被っている効果で景色に溶け込んでいた。


 ホテルの部屋に戻って来てから、ライラは叫んだ。


「ビートくん! フードがあるっていいね!」

「まさかここまで景色に溶け込むとは、思わなかったよ」


 通りを歩いていた時に、きっとフードを使っている女性が多かったからだろう。うまいこと景色に溶け込めたのには、運の良さもあったのかもしれない。

 ひとまずこれで、奴隷商人から狙われる確率は減っただろう。


「フードのおかげで、可愛いライラを拝めるのはオレだけだな」


 半分冗談でそんなことを云うと、ライラの目が輝いた。


「えっ、可愛い!?」

「うん、ライラは可愛いよ。ライラをずっと見てきたオレが云うんだから、間違いないって」


 すると、ライラがオレに抱き着いてきた。

 ライラはそのままオレを見上げながら、尻尾を振っている。


「ねぇ、もっと可愛いって、云って?」

「可愛いよ、ライラは可愛い」

「えへへ……嬉しい……!!」


 オレを見上げながら喜ぶライラは、あどけない少女そのものだった。

 フードを被っているから、見た目以上に幼く見えるためかもしれない。


 あぁ、このライラの笑顔を独り占めできるのは、やっぱりオレだけだ!!




 オレはしばらくの間、ライラに「可愛い、可愛い」と云い続けていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は1月12日の21時となります!


一度はやってみたかった「狼娘 × 赤ずきんちゃん」の組み合わせです。

どう考えてもベタすぎると思いつつも、やりたかったネタです(笑

ライラは可愛いので、きっとどんな服でも似合います!!(親バカ

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