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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第3章 ギアボックス
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第33話 さすらいの占い師

 スパナと別れてから、オレはライラと共に歩いてホテルへと戻ってきた。

 辺りはすっかり暗くなっていて、ホテルに戻るまで客引きをしている娼婦らしき女性や、飲んだくれた労働者がへたくそな歌をうたっていたりしている場面に遭遇した。


「ねぇ、ビートくん……すごく視線を感じる……」


 ライラがそう云って、オレの左腕を強く握る。

 娼婦からは、自分よりも見た目が美しくて若い女が来たという、嫉妬と妬みが混じった視線。労働者からは、下心丸出しのいやらしい視線が、ライラには注がれているのだろう。

 なるべく早く、ホテルに戻ったほうがいいな。


「ライラ、オレがついているから大丈夫。早くホテルに戻って、ゆっくりしよう」

「うん!」


 その一言で、ライラは笑顔になった。

 これで少しは、ライラの恐怖心が消えるといいけど……。


 オレは自然と、歩く速度が速くなった。




 ホテルに戻ってくると、妙にロビーに人が集まっていた。


「何かしら……?」

「行商人でも、来ているのかな?」


 時折、ホテルのロビーで行商人が商売を始めることがある。ホテルとして禁止していることもあるが、ホテルに使用料を払えばお咎めは無しになることが多い。酒場などでは、日常茶飯事の光景だ。

 人だかりの間から、オレは何が起きているのかを見た。


 ひとりの老婆の周囲に、多くの人が集まっていた。老婆は水晶玉やタロットカードを使い、占いをしている。


「すごい! どうしてそこまで分かるんですか!?」

「簡単なことじゃ。水晶玉が、全て教えてくれる」

「さすがは、ブラヴァッキー夫人だ」


 誰かの言葉に、オレはその老婆が誰なのか、思い出した。


 ブラヴァッキー夫人。

 さすらいの占い師として有名な、老婆だ。


 とても老婆とは思えない強靭な足腰の持ち主で、世界中を放浪しては占いで生計を立てている。

 そしてその占いは、よく当たると評判であり、熱心なファンも多い。貴族や王族にも固定客を持つほど、その占いは頼りにされているという。

 少し前に見た新聞に、ブラヴァッキー夫人のことを取り上げた記事があった。


 すごい占い師だとはよく聞いているが、オレは占ってもらったことがないから、分からない。

 それに元々、オレは占いにはさほど興味が無かった。ライラの両親を探すために、ずっとおカネを貯めていくことを第一にしてきたからかもしれない。


 オレはライラを連れて、ホテルの部屋に戻ろうとした。

 しかし、ライラは動かなかった。


「ライラ……?」

「ビートくん、占ってもらおうよ!」


 ライラがブラヴァッキー夫人を見て、目を輝かせている。


「ブラヴァッキー夫人なんて、滅多にお目にかかれないじゃない! いい機会だから、よく当たる占いってどんなものなのか、占ってもらおうよ!」


 ライラは尻尾を振りながら、オレに勧めてくる。

 オレは占いに興味はないが、かといって今この場で断る理由もない。


「じゃあ……占ってもらおうか」


 幸い、手持ちにはまだ余裕がある。

 ブラヴァッキー夫人の占いが、どれほどの金額になるかは分からないが……。


 オレは期待と不安が入り混じった気持ちで、ライラと共にブラヴァッキー夫人に近づいていった。




 ブラヴァッキー夫人の前は、ちょうど空いていた。

 オレとライラが近づくと、ブラヴァッキー夫人は待っていたかのように、顔を上げた。


「いや、これはこれは……なんとも珍しい組み合わせのカップルが来たねぇ……」


 黒いローブの下から、ブラヴァッキー夫人は微笑んだ。

 まるで魔女のようないで立ちだが、ブラヴァッキー夫人からは邪悪な雰囲気は感じない。むしろ落ち着いた、賢者のような風格を感じた。


「すいません、占ってください!!」

「ではまず、どういう占いをするか決めてもらおうかねぇ。どんなことを占いたいのじゃ?」


 占う内容のことか。

 失くしたものや、探しているもの、運命の人とか色々あると聞いたことはあるけど……。


 何を占ってもらおうか悩んでいると、ライラが口を開いた。


「わたしとビートくんのことを、占ってください!」

「それじゃあ、お主の名前と、お主とビートのどんなことを占うか教えてくれぬか?」

「はい! わたしの名前はライラです。ビートくんとわたしの相性が、どこまでいいのか知りたいです!」

「ライラ……!?」


 オレはライラがそんなことを占ってほしいことに、驚いた。

 ライラのことは運命の人だとオレは思っていたから、そんなことはわざわざ占ったりしないと考えていた。しかしどうやら、ライラにとってはそうではないようだ。


「それじゃあ、まずはそこに掛けてもらおうかねぇ」


 ブラヴァッキー夫人の指示で、オレとライラはブラヴァッキー夫人の前に置かれたイスに腰掛けた。


「それでは、始めるぞい」

「お願いします!」


 ライラが云うと、ブラヴァッキー夫人は目の前に置いた水晶玉に手をかざし始めた。

 あの水晶玉、売るといくらぐらいの値が付くのだろう?


「水晶よ……我が一族に受け継がれし、霊力と大地の気力を秘めた水晶よ……ビートとライラの相性を教えたまえ!」


 本当に水晶玉が教えてくれるのかな?

 半信半疑で受けていると、水晶玉が一瞬光ったように見えた。


 すると、ブラヴァッキー夫人が水晶玉から顔を上げてオレたちを見た。


「ほう……ビートよ、お主は高貴なところの出自だねぇ。それもタダものじゃない。王家の血筋を受け継いでいる!」


 オレは耳を疑った。ブラヴァッキー夫人に、オレがトキオ国のミーケッド国王とコーゴー女王の息子だなんて、話したことは無い。そもそもブラヴァッキー夫人と出会ったのは、今日が初めてだ。

 どうして、ライラとシャインさんとシルヴィさんにしか話したことが無いことを、ブラヴァッキー夫人が知っているんだ!?


 ブラヴァッキー夫人は、なおも続けた。


「そしてライラよ、珍しい獣人族ときたね。銀狼族をこの目で見たのは、わしも初めてじゃ」

「えっ……!?」


 ライラも耳をピクンと動かす。ブラヴァッキー夫人の言葉に驚いていることが、オレにも分かった。


「ライラよ、お主とビートの相性は最高じゃ。まさに運命の人! そう表現する以外の言葉を、わしは知らぬ。お互いの性格も経済力も身体も、全ての相性が最高だと水晶玉が云っておる。たとえ何度生まれ変わったとしても、必ず結ばれる運命にある2人じゃ! 他の者が付け込む隙など、まるで考えられぬ!! おぉ!! ここまで相性抜群のカップルをお目にかかれるとは……!! 長生きはするものじゃのう!!」


 ブラヴァッキー夫人は半ば興奮気味に、水晶玉に手をかざしながら、オレたちの相性を述べていく。

 周りに人がいる中で、そんなことを伝えられるのは、正直恥ずかしいんだけどなぁ……。


「ライラよ、安心するが良い。きっと、多くの子宝にも恵まれるであろうぞ!」

「わぁ……子宝……!!」


 それを聞いたライラは、勢いよく尻尾を左右に振る。

 ブンブンという音が、周りにいる人にも聞こえていそうだ。


「ビートくん、わたしたちの相性は最高よ!」

「それは嬉しいけど……」

「心配しなくても、わたしはビートくんの側を離れないから!」


 ライラ、周りに人が居るのに、そんな恥ずかしいことを堂々と宣言するのは……。

 オレが困っていると、ブラヴァッキー夫人が口を開いた。


「しかしビートよ。お主にはこれから行く先で良くないことが待っておる」


 その言葉に、オレとライラは顔を見合わせた。




「良くないこと?」

「これから西へ行き、ある場所に向かうのじゃろう? そこでお主は、良くない真実を知ることになる。覚悟があるのならいいが、そこで知ったことが、お主に良くない結果をもたらすと、水晶玉は警告しておる」


 ブラヴァッキー夫人の言葉に、オレはトキオ国のことだろうかと思いを巡らせる。

 そしてそこで知る良くない真実っていうのは、ミーケッド国王とコーゴー女王のことだろうか?


 アダムの言葉が正しいのなら、ミーケッド国王とコーゴー女王はこの世にいないはずだ。

 オレもアダムが嘘をついたとは思っていないから、ミーケッド国王とコーゴー女王が亡くなっていることは、覚悟しているつもりだ。それが良くない真実だというのなら、それは覚悟の上だ。

 だけど、良くない結果というのは、どういうことだろう?


 気にはなるが、ここまで来て引き返すことなんてできない。

 ライラだって、付き合わせているんだ。

 目的地に辿り着くまでは、何があろうと進むつもりでいる!


「お主に、その覚悟はあるかえ?」


 ブラヴァッキー夫人の問いに、オレは思わず答えた。


「最初から、覚悟していることです!」


 オレの宣言に、ブラヴァッキー夫人は何も答えずにオレを見つめてきた。


「これまで、何があったとしても乗り越えてきました。だから今回も、どんなことがあろうと前に進むつもりでいます! ここまで来て引き返すくらいなら、最初からしなかったほうがいい。警告は真摯に受け止めます。でも、僕は止められたとしても、それを押し切って前に進みます!」

「……そうかえ」


 ブラヴァッキー夫人はそっと、水晶玉から手を引っ込めた。


「お主の決意は、固いようじゃな。無事を祈っておるぞ。占いは、これで終いじゃ」


 ブラヴァッキー夫人はそう告げた。




 オレとライラが料金を支払うと、ブラヴァッキー夫人は店じまいを始めた。

 あっという間に、水晶玉を始めとした商売道具を、行商人が使う行商カバンにしまっていく。行商カバンが閉じられると、ブラヴァッキー夫人はそれを軽々と持ち上げた。

 とても老婆とは思えない動きだ。

 一体、ブラヴァッキー夫人は何歳なんだろう?


「若者たちよ、無事を祈っておるぞ」


 ブラヴァッキー夫人は最後にそう云うと、ホテルのロビーを後にしてギアボックスの夜の闇に消えていった。


「ビートくん……」

「ライラ、きっと応援してくれたんだと、思うよ」


 オレはそうライラに云う。

 ライラの表情が明るくなったのを見て、オレは安心した。


 オレはブラヴァッキー夫人の警告をまるで信じていないが、ライラは不安を感じていたようだ。

 だけどその不安も、オレの言葉で取り除けたらしい。




 オレはライラと共に、ホテルの部屋へと戻った。

 そしてその後、相性抜群という言葉を信じたライラによって、オレは夜遅くまで眠れない時間を過ごすことになった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は1月11日の21時となります!

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