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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第2章 ギアボックスへの旅路
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第27話 メイド服のライラ

 オレが目を覚ました時、隣にライラは居なかった。


 ベッドから身を起こしたオレが起き上がって部屋の中を見回すが、ライラの姿はない。

 どうやらトイレか、朝食を買いに行っているようだ。


 オレは着替えると洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。

 ベッドを整理していると、ライラが戻ってきた。


「ビートくん、おはよう」

「おはよう、ライラ――!?」


 戻ってきたライラに目を向けて、オレは驚いた。


 ライラが、メイド服に身を包んでいた。

 そのメイド服はかつて、オレが購入してライラに手渡したものだ。ライラのメイド服姿があまりにも可愛くて、たまに着てほしくなって購入した。それを今、ライラは着ている。

 久しぶりに見たライラのメイド服姿に、オレは目を奪われてしまった。


「ライラ、メイド服なんて……どうしたの?」

「たまにはいいでしょ? ビートくん、朝ごはん買ってきたから、食べようよ」


 ライラは紙袋から、サンドイッチと2本のビンを取り出していく。

 ビンに入っているものは、オレンジジュースのようだ。


 テキパキと準備をしていくライラは、まるで本物のメイドのようだ。

 そういえば、メイド服を初めて着た時、メイドのような言葉使いをされてドキッとしたこともあったっけ。


 もしもライラが、オレのメイドとなっていたら、どうなっていたのだろう……?


 朝食の準備をするライラを見ているうちに、オレは想像の世界へと思いをはせていった。




「ご主人様、朝でございます」


 優しげな声で起こされ、オレは目を覚ます。

 メイド服を着た銀狼族のライラが、オレを優しい目で見下ろしていた。


 ライラとはグレーザー孤児院で出会い、そしてライラはどういうわけか、オレのメイドになった。

 ずっとオレと一緒にいたいからメイドになることを望んだと、ライラは云っていた。


 そんな出来事から数年後。

 おカネを貯めたオレとライラは、ライラの両親を探すために、大陸横断鉄道のアークティク・ターン号に乗り込んだ。目指すは北大陸にある終点、サンタグラード。そこには、ライラの両親を探す手がかりがある。

 共に大陸横断鉄道で旅をするようになってから、オレの中にはある思いが芽生え、存在を大きくして云った。


『どうしてライラは、オレと一緒に居たいからという理由で、メイドになったのだろう。恋人や夫婦になるのでは、ダメだったのだろうか?』


 一緒に居たいのなら、なにもわざわざメイドになる必要などない。

 恋人や夫婦になるという考えは、無かったのだろうか……?

 オレには、そこまでの魅力は無いということなのか?

 だとしたら、すごく残念だ……。


 オレはライラと、夫婦になりたかった。

 ライラのように美しく、そしてオレに尽くしてくれる女性はいないだろう。グレーザー孤児院で共に育ってきたから、お互いのことはよく知っている。理想的な結婚相手だと、オレは思っていた。

 だがしかし、オレにはそれは許されなかったらしい。


「ご主人様?」

「……あっ! ごめんごめん、すぐに着替えるよ!」


 オレはライラが用意してくれた服に着替え、そのまま朝食を食べに出かける。

 もちろんどんな時も、ライラは一緒だ。


 他の乗客からは、ライラを連れていると羨ましそうな視線を向けられるのを感じた。

 そう見えるのも、無理はない。若い男が、ライラのような美しいメイドを連れているのを見たら、成功者だと思うのも分かる。それを見て指をくわえたくなるのは、男としては正直な反応だろう。

 だが、オレは素直に喜べない。


 オレはライラと共に朝食を食べると、個室へと戻った。



 そんな日々が続いた、ある夜のことだ。

 オレは思い切って、ライラに訊いてみることにした。


「なぁ、ライラ、ちょっと訊きたいことがあるんだけど、いい?」

「ご主人様?」


 ライラは首をかしげながら、オレと向き合った。


「ライラ、前にオレと一緒に居たいから、メイドにしてほしいって云ってたよね?」

「はい。ご主人様と一緒に居たいのは、わたしの本心です」

「一緒に居たいというのは分かるんだけど、どうしてメイドになったの? 恋人や夫婦になるのは、ダメだったの……?」


 オレが訊くと、ライラはビクンと身体を震わせ、尻尾を立てた。

 全く予想外のことを聞かれたと、身体が教えてくれた。


 少し間が空いてから、ライラは口を開いた。


「ご主人様……ありがとうございます。お気持ちは、嬉しいです。しかし、ご主人様にはわたしよりも伴侶としてふさわしいお方が必ず見つかると思います。わたしはご主人様をお慕いしてはおりますが、そこに恋愛感情などはありません。ただ、ご主人様のために尽くしたいだけなのです」

「そうか……オレはライラと恋人や夫婦になっても、悔いは無かったんだけどな……」


 そう云いつつも、オレは納得する。

 ライラの尽くしたいという気持ちに、嘘はないはずだ。もしも嘘なら、オレのメイドになりたいなんてこと、口に出すはずがない。


 しかし、オレは少しだけ気になることがあった。

 先ほどまでゆっくりと左右に振られていたライラの尻尾が、元気なく垂れ下がっていた……。



 夜遅くになった時、オレは目を覚ました。

 隣で、誰かの泣き声が聞こえてきた。


 これだけならホラーだが、オレはそっと隣を見て、声の主を知った。

 ライラだった。


 オレとライラが使っている2等車の個室は、ベッドが1つしかない。

 そのため、オレとライラは同じベッドで眠っている。本来、メイドと雇用主が同じベッドで寝ることなどは、あり得ない。スキャンダルになることだってあるし、暗殺されたりすることだってあり得る。それにメイドの雇用主は、そのほとんどが妻子持ちだ。たとえ独身であったとしても、雇用主とメイドの立場の違いを認識させるため、床を同じくすることはない。

 だが、オレは例外だ。

 メイドは幼馴染みで、気心が知れている。暗殺なんてありえない。それにオレは貴族ではないから、スキャンダルになることもない。そして何より、ライラに床で寝てほしくなかった。

 そのため、オレとライラはベッドを共有していた。


 オレは読書灯を点けた。


「ライラ、どうしたの?」

「ご主人様……起こしてしまいまして、申し訳ございません」


 ライラは読書灯の灯りの中で起き上がり、目元を拭った。


「なんでも、ありません」

「いや、それは嘘だ」


 オレが指摘すると、ライラは押し黙った。


「これまでに一度だって、すすり泣くようなことは無かった。だけど今、ライラは泣いていた。つまりオレが、ライラを泣かせるようなことをしてしまったということだ」

「そんなこと……!」

「ライラ、正直に話しておくれ」


 真剣なまなざしを、ライラに向けた。

 たとえ嘘をついたとしても、オレの目を欺くことはできない。


 そう悟ったのか、ライラは口を開いてくれた。


「……嬉しかったんです」

「嬉しかった?」

「はい。ご主人様から、恋人とか夫婦になっても良かったと、お言葉を頂けるなんて、思ってもいませんでした。でも、その場で気持ちを抑えないと、きっと泣いてしまう。そう思って、ご主人様が眠るまで待っていたんです。こんなに嬉しい気持ちになったのは、生まれて初めてです……」


 ライラの言葉に、オレは自分のこれまでの行動を恥じた。

 どうして、最初から結婚してほしいと、ライラにプロポーズしなかったのだろう?

 ライラの尽くしたいという気持ちの奥底には、オレと結婚したいという気持ちがあったんだ。ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染みだというのに、今まで気がつかなかった自分が、とても情けない。


 オレは覚悟を決めると、ライラの目を見た。


「ライラ、よく聞いてほしい」

「はい……!」

「これからは……ライラはメイドとしてではなく、1人の女性としてオレの側に居てほしい」

「ご主人様……!?」


 恥ずかしい気持ちが、こみ上げてくる。

 だが、これをちゃんと伝えないといけない。

 オレはその思いで、自分を後押しした。


「だから……オレと結婚してください!」

「――!!」


 オレがプロポーズすると、ライラは両手で口元を塞いだ。

 信じられないといった様子でオレを見た後、目元が潤んでくる。


「ご、ご主人様……!」

「ライラ、ご主人様じゃない。これからは、ビートとオレの名前で呼んでほしい。オレの気持ち……受け止めて、くれますか?」

「……はい、喜んで……! ビートくん!!」


 ご主人様と呼ばなくなったライラを、オレは抱きしめた。

 やっと、オレはライラとひとつになれたと、実感した。


 そして読書灯の薄明りの中で、オレとライラはファーストキスをした。




 こうなって、いたのかもしれないなぁ……。

 オレが想像を膨らませていると、再びライラがオレを呼んだ。


「ビートくん?」


 ライラの声で、オレは現実に引き戻された。


「ライラ……」

「ビートくん、さっきからずっとわたしのことを見て、どうしたの? 何かついてる?」


 ライラが首をかしげて、オレに訊いてくる。


「何もついてないよ。ただ……ライラのメイド服姿、久しぶりに見たから、思わず見とれちゃった」


 オレはそう答えた。

 想像していた内容を話したら、ライラがどう思うのかは、あまり考えないほうがいいと思った。


「えへへ、嬉しい……!」


 ライラは笑顔になり、尻尾を左右にブンブンと振る。


「ビートくんは、いつでもわたしの姿を褒めてくれるから、大好き。わたしの旦那さんになる人に、ビートくん以上の人は絶対にいないよ!」

「ありがとう、ライラ。それじゃあ、そろそろ朝ごはんにしようか」

「うん!」


 オレは、ライラが買ってきてくれたサンドイッチを手にした。

 きっと、何があったとしても、オレはライラと結ばれる運命にあっただろう。

 そう考えながら、オレはライラと朝食を食べた。




 アークティク・ターン号は、朝焼けの日差しの中を駆け抜けていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は来年2021年の1月5日の21時となります!


年末年始で執筆が難しくなることと、プロットが尽きかけているため、またしばらくのお休みをいただきます。

5日から更新を再開いたしますので、来年もルトくんとビートとライラを、どうぞよろしくお願いいたします!!

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