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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第2章 ギアボックスへの旅路
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第26話 トキオ国の国旗

 ディーノとキティーの結婚を見届けたオレたちは、2等車の個室に戻ってきて休憩した後、再びリダの街に出た。


 アークティク・ターン号の出発時刻は、夜の0時ちょうど。

 それまでの間に、リダの町を観光したり、夕食を食べる時間は十分にある。

 そして今は、ちょうどおやつの時間だ。


 喫茶店で、ライラにフルーツサンドかパンケーキを奢るのもいいだろう。

 ライラも年頃の女性らしく、甘いものが大好きだ。

 それに、ライラはディーノが無くした婚姻のネックレスを見つけるという、大手柄を立てた。オレからのなでなで以外にも、報酬が出ていいはずだ。


「喫茶店に行って、おやつにしようか。そろそろ小腹も空いてきたし……ライラはどうする?」

「もちろん、行きたい!!」


 ライラは尻尾をブンブンと振り、立ち上がる。


「フルーツサンドでもパンケーキでも、なんでもいいよ。オレの奢りだ」

「嬉しい! ビートくん、大好き!」


 ライラはオレの腕を取り、身体をこすりつけてきた。

 オレに自分の匂いを、つけようとしているのだろうか?


 そんなやり取りを経て、オレたちは駅の近くにある喫茶店へと向かった。




 喫茶店に入って席に座ると、ライラはすぐにパンケーキと紅茶を注文した。ライラが甘いものを頼んだのに対し、オレはピザトーストとコーヒーを注文した。

 もちろん夕食は別で食べることになっている。これくらいガッツリ食べておかないと、今夜もライラに搾り取られた時に、身体が持たなくなってしまう。

 あえて何がとは云わないが。


「ねぇ、ビートくん」


 パンケーキを切り分けながら、ライラが云う。バターとハチミツが掛けられたパンケーキは、しっとりとしていかにも甘そうだ。


「トキオ国の跡地に着いたら、まず何をする?」

「そうだなぁ……」


 オレは食べかけのピザトーストを置いて、宙を見る。

 トキオ国の跡地に着いたら、やりたいことはいくつもある。だが、とても全てを行うことは難しいと、オレは思いつくたびに頭を抱えてきた。


 だけど、どうしてもやりたいことは、はっきりしていた。


「……まずは、父さんと母さんが最後を迎えた、王宮に行きたいな」


 オレはアダムの言葉を、思い出していた。

 アダムによると、オレの父さんと母さん……ミーケッド国王とコーゴー女王は、アダムからオレを守るために最後まで戦って命を落としたらしい。

 もしかしたら、今も王宮に遺骨が残っているかもしれない。そうではないとしても、きっとお墓があるはずだ。


 もちろん、オレはそうなっているとは思いたくない。

 生き延びて、アダムも知らないところで、生き延びていると信じたかった。


「父さんと母さんの遺骨があれば、埋葬したい。もしお墓があるのなら、ちゃんとお参りしたい。父さんと母さんの姿を見ることはできないけど、それはできるはずだから」

「ビートくん、わたしもミーケッド国王様とコーゴー女王様の遺骨があったら、埋葬を手伝いたい。お墓があったら、お墓に挨拶もしたい」


 ライラの言葉に、オレは驚く。


「本当……!?」

「うん。わたしのお父さんとお母さんの命の恩人だもの。ミーケッド国王様とコーゴー女王様がいなかったら、わたしは産まれていなかったかもしれないから。それに……」


 ライラは笑顔になった。


「ビートくんと出会えたのも、ミーケッド国王様とコーゴー女王様の、おかげだから!!」

「ライラ……オレの父さんと母さんのために、ありがとう」


 ここまで云ってくれる女性は、ライラ以外には居ないはずだ。

 これからも、オレはライラの隣に居られるように努力していこう。




 オレたちがそんなやり取りをしていると、1人の男がオレたちのテーブルの前に立った。


「君たち……」

「あっ……はい?」


 獣人族黒狼族の男が、オレたちを見つめていた。

 ひょっとして、ライラとの話の声が大きすぎただろうか?

 それがこの男性にとって、迷惑になっていたのだろうか……?


 それなら、謝罪しておいたほうがいいかな?


「あの――」


 オレが謝罪しようとした時。

 黒狼族の男性が、口を開いた。


「そ……その国旗は……!」


 国旗?

 国旗がどうか――。


 そう思った直後。

 オレは自分が着ている戦闘服の左胸のポケットを見た。


 これは、トキオ国の国旗だ!!


「その胸の国旗は、もしかしてトキオ国のものではないでしょうか!?」

「は、はい……そうですが……もしかして、知っているんですか?」


 オレが問いかけると、黒狼族の男は頷いた。


「もちろんです! 私はトキオ国の王宮で、召使いをしていた獣人族黒狼族のヨイチといいます。先ほどの会話を聞かせてもらいました。君が、ビートという名前なのですか!?」

「は、はい……僕はビートですが……?」


 オレが答えると、ヨイチと名乗った男性は、オレとライラの前で膝まづいた。


「あぁ! やはりあなた様がビート王子でございましたか!!」

「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 オレは周囲を見回して、不審な目がこちらに向いていることを確認する。

 こんなところで、注目を浴びるのはご免だ。


「と……とりあえず、オレの向かいに掛けてください」

「そんな! ビート王子の真向かいなど、畏れ多いでございます!」


 ああ、もう!!

 こうなったら、これしかない!!


「掛けてください。これはビート王子から直々の命令です」


 これで従ってくれないなら、逃げ出そう。

 オレはライラに視線を送り、ライラもオレの考えを理解したらしく、頷いてオレの隣へ移動した。


 すると、ヨイチは顔を上げた。


「畏まりました……!」


 そろそろと、オレとライラの向かい側にヨイチは移動していった。

 やれやれ、これでなんとか、トキオ国について情報を得られそうだ……。


 わずかな間の出来事なのに、オレはどっと疲れたような気がした。




「改めまして、私は獣人族黒狼族のヨイチです。トキオ国の王宮にて、ずっと住み込みで召使いとして、ミーケッド国王とコーゴー女王にお仕えしておりました」

「僕は、ビートです」

「わたしは、ビートくんの奥さんをしているライラです!」


 オレたちが自己紹介をすると、ヨイチはライラに目を向けた。


「ライラ……もしや側近で近衛兵団の団長を務めておられた、獣人族銀狼族シャイン殿のご息女では……!?」

「お父さんを知っているんですか!?」

「もちろんです! シャイン殿とその妻シルヴィ殿を助けたのは、ミーケッド国王とコーゴー女王でございました」


 やっぱり、父さんと母さんが、シャインさんとシルヴィさんを助けたのは間違いなかった。

 父さんに母さん、本当にありがとう。おかげでオレは、今こうしてライラと一緒に居られるよ。


 そんな思いを抱いていると、ヨイチが続けた。


「その後、シャイン殿とシルヴィ殿に女の子が産まれ、同じ時期にビート王子がお生まれになられたのです。その時のことは、今も忘れられませぬ。ビート王子がお生まれになられた後、王宮はもちろん、国中がお祝いムードに包まれておりました。そのビート王子が、今やこんなに立派になられて……!」

「いや、あの……僕はもう王子じゃないですから、そんな……」

「しかも、シャイン殿のご息女がこんなにもお美しくなられた上に、姫君としてお迎えになられていたとは……! ビート王子、羨ましいでございます……!」

「姫君だなんて、そんな……!」


 ライラは尻尾をブンブンと振りながら、顔を紅くする。

 すっかり冷えたパンケーキだけど、美しいと云われたからか、美味しそうに食べ進めていた。


「あの、ヨイチさんお願いしたいことがあります。トキオ国について、知っていることを教えてください」

「ははっ! もちろんでございます! ビート王子のご命令とあらば!」

「で……ではヨイチよ、トキオ国王子のビートが命ずる。そなたのトキオ国について知っていること、全てを我に話し聞かせよ!」

「ははあっ!」


 あぁ、オレは王子じゃないのに……。

 複雑な気持ちの中で、オレはヨイチからトキオ国について教わっていった。




 ヨイチが教えてくれたことで、オレは今まで知らなかったことを知った。


 トキオ国は一応都市国家だったが、その規模は普通の国家と大差ないほどに大きな領土を持っていたこと。

 ミーケッド国王とコーゴー女王は、国民からとても慕われていたこと。

 人族も獣人族もいて、差別などは存在しなかったこと。

 大金持ちは少ないが貧乏人も少なく、ほとんどの国民が十分な収入を得られる仕事をしていたこと。

 気温は穏やかで、過ごしやすかったこと。


 オレとライラが知らなかったことを、ヨイチは教えてくれた。


「トキオ国の国民のほとんどは、アダムによって殺されました」


 悲しそうに告げたヨイチに、オレは口を開いた。


「そうですか……。でも、仇は取りました。僕たちはアダムと導きの使徒を倒しました。この手で、僕はアダムを殺したんです。父さんと母さんだけでなく、トキオ国の国民全員の、仇を取りました!」

「おぉ! なんと!! ビート王子……感謝の言葉が見つかりません。私にできることといえば……ただただ、これだけです……」


 ヨイチは心底安心した表情をして、深々と頭を下げた。


「それにしても、生き残っていた人々がいたことには驚きました」

「生き残った国民については、アダムも知らなかったと思います。4つの大陸のあちこちに散らばって、各々が各地で新しい生活を始めました」

「良かった……! 生き残っていたのは、僕たちだけじゃなかったんですね!」

「ビートくん、良かったね!」


 ライラの言葉に、オレは頷く。


「他に生き残っていた人がいて、新しい生活を始めているのなら、安心したよ」

「おぉ、ビート王子……! 私も生き残った者の1人でございますが、もったいなきお言葉に感謝します……!!」


 再び、ヨイチは深々と頭を下げた。


「ヨイチさん、お願いしたいことがあります」


 オレの言葉に、ヨイチは顔を上げた。


「もしも今後、何かありましたら、僕たちに力を貸して下さいますか?」

「もちろんでございます、ビート王子! ミーケッド国王とコーゴー女王への忠誠心は、今も変わりませぬ! 私でお力になれることなら、どんなことにも力をお貸しいたします!!」


 父さん、母さん。

 すごくいい家来に恵まれていたんだね、羨ましいよ。


 オレはそう思いながら、ヨイチと握手を交わした。

 そして連絡先を交換し、オレたちはヨイチと別れた。




 夜になると、アークティク・ターン号がゆっくりとリダの駅を出発していく。

 再びギアボックスに向かって走り出したアークティク・ターン号を、見つめている1人の男がいた。


「出発したようだ……」


 男は駅の近くでアークティク・ターン号を見送ると、路地裏へと姿を消していった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は12月30日の21時となります!

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