表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第2章 ギアボックスへの旅路
25/140

第25話 結婚式の立会人

 ティーバリの次に停車したのは、アム領ミアイ地方のリダという街だった。


「ライラ、何か食べに行こうか?」


 オレはライラに、そう提案した。


「昨晩は恐ろしい夢を見たし、景気づけに何か美味しいものを食べに行こうと思うけど、どう?」

「美味しいもの!?」


 ライラが尻尾を振り、ベッドから立ち上がる。


「どうかな、行く?」

「行きたい!! グリルチキンが食べたい!!」

「サーロインステーキでもいいよ?」

「本当!?」


 すっかり、ライラは行く気になっていた。


「ビートくん、行こうよ!!」


 ライラはそう云って、服を着替え始めた。

 ライラの着替えが終わると、オレたちは食事に出発した。




 リダの駅を出て街に出ると、すぐ駅前にステーキハウスがあった。


「ビートくん! あそこからすごくいい匂いがしてくる! きっといいお肉を使っていて、腕のいい料理人がいるはずよ!!」

「それじゃあ、あそこで食べていこうか」


 歩き出そうとすると、オレの手をライラが掴んでくる。


「急ごう!」


 尻尾を振りながら、ライラは駆け足でオレをステーキハウスへと引っ張っていった。




 食事を終えてから、オレたちはステーキハウスを出た。


「ビートくん、美味しいサーロインステーキだったね!」

「あぁ。あんなに美味しいサーロインステーキは、久しぶりだったな」


 すっかりライラは、上機嫌になっていた。

 サーロインステーキを食べた上に、それがとても美味しいステーキだったからだ。


「さて、これからどうする?」

「個室に戻って、ビートくんとお昼寝したい!」


 それはいいな。

 ライラの匂いを嗅ぎながらの昼寝とは、贅沢だ。


「じゃあ、個室に戻って――」


 ドンッ。

 そこまで云いかけて、オレは誰かとぶつかった。


「いてっ!」

「あっ、申し訳ありません!」

「いえ、こちらこそすいませんでした」


 ぶつかってきた相手が、謝罪の言葉を口にしたため、オレも反射的に謝罪した。

 オレがぶつかった相手は、人族のカップルの男のほうだった。


「申し訳ありませんでした」

「いえいえ……おや、君たちは夫婦なのか……?」


 男から尋ねられて、オレたちは頷く。


「オレはビートです」

「わたしは、ビートくんの奥さんのライラです!」

「そうなのか……私はディーノ。隣に居るのが、婚約者のキティーだ」

「こんにちは。若い夫婦ね」


 オレとライラは、ディーノとキティーというカップルに出会った。




 ディーノとキティーの話を聞いて、オレたちは2人が結婚を控えていることを知った。


 本当なら結婚式を挙げて、婚姻のネックレスを交換する予定ではあった。しかし、とある事情でそうすることができなくなってしまったらしい。そこで、婚姻のネックレスの交換を先に行うことにしたと話してくれた。

 立会人を立てて、婚姻のネックレスを交換していれば、それで結婚したことの証明となる。


 しかし、立会人になってくれる人がいないという。


 どうしていないのかは話してくれなかった、いずれにせよ、立会人がいなくては婚姻のネックレスの交換ができない。そのために結婚ができなくて、困っているという。


「ねぇ、ビートくん」


 ライラがオレを呼び、オレはライラを見る。

 オレとライラは視線を交わし、お互いの考えていることを理解した。どうやら、オレもライラも、同じことを考えていたようだ。


 オレは頷くと、ディーノとキティーに向き直った。


「ディーノさん、キティーさん。オレとライラが、立会人になります!」

「ほ、本当かい!?」


 ディーノが嬉しそうに云い、キティーも笑顔になった。


「ありがたいわ! これで婚姻のネックレスが交換できるわね!」

「ありがとう! まさに天の助けだ! ありがとう!!」


 ディーノとキティーは、オレたちに何度もお礼の言葉を述べてくる。

 しかし、オレたちはまだ何もしていない。


 婚姻のネックレスを交換する場面で、立会人にならないことには、何かを果たしたとはいえない。


「いえ、それよりも……婚姻のネックレスを交換するのは、どこで……?」

「私たちが暮らしている家があるの」

「元々は僕の家なんだけど、今は僕たち2人で暮らしているんだ。そこに婚姻のネックレスも置いてある」


 ディーノの言葉に、オレは頷いた。


「それでは、すぐに参りましょう!」




 オレとライラは、ディーノとキティーに案内され、2人が暮らしている家へとやってきた。

 東大陸の典型的な一軒家に、オレたちは招き入れられた。


「まぁ、掛けておくれ」


 ディーノに勧められて、オレたちはソファーに腰掛けた。


「これから、婚姻のネックレスを持ってくるから」


 ディーノが奥の部屋に消えると、入れ替わるようにキティーが紅茶を持ってやってきた。

 湯気の立つティーカップから、紅茶のいい香りが立ち上ってくる。


「本当に、ありがとう。これでやっと、私たちは結婚できるわ」

「結婚のお手伝いができて、わたしたちも嬉しいです!」


 ライラが云うと、キティーは嬉しそうに微笑んだ。


「わたしとビートくんも、先に婚姻のネックレスを交換して、それから結婚式を挙げたわね」

「そうだな。結婚式を挙げたのは、婚姻のネックレスを交換してから、1年近く経った頃だったな」

「まあ! そんなに時間が経ってから挙式したの!?」

「そうなんです! 話すと長くなりますが……」


 キティーが興味を示しているのを感じ取ったライラが、これまでのことを話そうとした時。

 ディーノが戻ってきた。


「た……大変だ……!」


 ディーノは顔を真っ青にして、云った。


「婚姻のネックレスが……消えたんだ!!」


 その一言に、オレたちは凍り付いた。




 ディーノによると、いつもの場所に保管してあったはずなのに、いざ見てみると無くなっていたという。

 空き巣に入られたのではないかと思われたが、空き巣にしては銀食器などより金目のものが置かれているのに、それが無くなっていないのはおかしかった。また、施錠はきちんとされていたことから、空き巣の線は無くなった。

 考えられるのは、持ち歩いていた時にどこかで落としたか、家の中のどこかに落ちているかだ。


 持ち歩いていて落としたのは、可能性としては低いが、全くないとは云い切れない。

 オレはライラと共に、ディーノとキティーに出会った駅前を探していた。


「すいません、この辺りにネックレスが落ちていませんでしたか?」


 オレはディーノとキティーから教えてもらった、婚姻のネックレスの特徴を手帳にメモし、駅前で道行く人に尋ねる。


「いやぁ、悪いな。ネックレスなんて、見ていないよ」

「ありがとうございます」


 オレが尋ねた相手は、そのまま立ち去ってしまう。

 もう何度、このようなやり取りを繰り返しただろう?


 もしかしたら、この近辺には落ちていないのかもしれない。

 今頃、ディーノとキティーも家の中を探し回っているはずだ。


 それにしても、もっと効率の良い探し方ってないものなのかなぁ……?


 オレはため息をついて、ライラを見つめる。

 ライラも聞き込みをしながら、婚姻のネックレスを探していた。

 美しい銀色の髪の毛と、同じ色の狼の耳と尻尾は、遠くからでもすぐに分かる。

 さすがは、銀狼族といったところか。本当によく目立つ。


 そんな時に、オレはなぜか薬草の魔女ラベンダーの言葉を思い出した。



『犬系の獣人は、鼻がよく利くの。紅茶嗅ぎや調香師といった職業の人には犬系の獣人が多いのも、そうした理由からなの』



 どうしてその言葉を思い出したのか、後になっても分からなかった。

 だが、その言葉はオレが探し求めていた答えを、与えてくれた。


「……そうだ!!」


 これだ。この方法があったじゃないか!!

 ライラならきっと、失われた婚姻のネックレスを、見つけ出してくれるはずだ!!


 オレは手帳を閉じて、ライラに駆け寄った。


「ライラ!」

「ビートくん、見つかった!?」

「いや、それよりもライラ、お願いしたいことがあるんだ!」


 オレは以前ライラが、薬草の魔女ラベンダーの依頼を受けた時のことを、話した。

 ライラの鼻は、匂いを嗅ぎ分ける能力が高い。それを使って、婚姻のネックレスを探せないだろうかと、オレは話した。

 オレの提案を聞いたライラは、すっかり忘れていたという顔になった。


「ビートくん、すごいよ! そんな方法を思いつくなんて!」

「ライラ、お願いできそう?」

「やってみるわ! ディーノさんとキティーさんの匂いは覚えたから!!」


 ライラは深呼吸をしてから、空気中の匂いを嗅ぎ始める。

 すると、ライラの耳と尻尾がピクンと動いた。


「ビートくん、こっちよ!」

「よし、行こう!!」


 オレはライラの後に続いて、進み出した。




 ライラの後に続いて進んできた先にあったのは、ディーノとキティーの暮らす家だった。


「えっ……ここ?」

「うん。ここからしか、匂いがしないよ?」


 ライラは空気中の匂いを何度か嗅いでから、そう呟く。

 ライラの鼻は鋭い。だから嘘をついているはずがなかった。


「まさか、灯台下暗しだったとは……!」

「ビートくん、家の中を重点的に探そう!」


 ライラの言葉に頷き、オレはドアを開けた。

 家の中では、ディーノとキティーがあちこちを探していた。


「おぉ、ビートくんにライラちゃん!」


 ディーノがオレたちに駆け寄ってくる。


「婚姻のネックレスは、見つかった!?」

「いえ、まだです。でも、おそらくこの家のどこかにあります!」


 オレの言葉に、ディーノとキティーは驚いた。


「どうして、分かるの!?」

「ライラのおかげです」


 オレが云うと、ライラは照れ臭そうに少しだけ頭を下げた。


「ライラの鼻は、すごくいいんです。これから、きっと婚姻のネックレスを見つけてくれます」

「まかせてください!」


 ライラはそう云って、家の中の匂いを嗅ぎ始める。

 部屋を移動しながら匂いを嗅いでいき、オレはその後を進んでいった。ディーノとキティーは、半信半疑のまま、オレたちの後を続いてきた。




 そして寝室の本棚の前で、ライラが止まった。


「この木箱から、ディーノさんとキティーさんの匂いに混じって、金属の臭いがします」


 ライラは本棚から木箱を手に取り、そう云った。

 一見すると、どこにでもあるような、小物入れの木箱だった。当然、オレには匂いなんて分からないし、その中に婚姻のネックレスが入っているのかどうかも、分からなかった。


「……!!」


 しかし、それを見たディーノの表情が、みるみるうちに変わっていった。


「そ……そうだ!!」


 ディーノはライラから箱を受け取ると、木箱を開いた。

 木箱の中には、一対の婚姻のネックレスが入っていた。


「間違いない!! ここにしまっておいたんだ!!」

「どうして、この木箱の中に……?」

「いつも使っている本棚に置いておけば、忘れないと思ったんだ。それなのに、すっかり忘れてしまっていた!!」

「もう、本当に忘れやすいんだから……!」


 キティーが少し呆れた様子で云い、頭を何度も下げるディーノ。

 そんなキティーとディーノのやり取りを見ていると、オレとライラは笑顔になってきた。


「ビートくん、見つかって本当に良かったね!」

「ライラのおかげだ。本当にありがとう」

「あとでいっぱい、なでなでしてね!」


 ライラは期待に満ちた表情で、オレを見つめてくる。

 もちろん、ライラにとってオレからのなでなでは、最高の報酬だ。


「その前に……」


 オレは婚姻のネックレスを見つけて、喜ぶディーノとキティーを見つめる。


「オレたちが立会人としての義務を、果たさなくちゃな……」




 その後、オレとライラはディーノとキティーが婚姻のネックレスを交換するため、立会人になった。

 かつてオレたちが結婚するために、ハズク先生が引き受けてくれた役割を、オレたちは知り合って間もない2人のために勤めようとしている。


 最初にディーノがキティーに、婚姻のネックレスをつける。

 そしてキティーがディーノに、婚姻のネックレスをつける。


 その一連の流れを、オレとライラは見届けた。

 これでここに、新しい夫婦が誕生した。




 立会人を務めたオレたちは、ディーノとキティーからお礼としてお菓子を頂いて、アークティク・ターン号へと戻っていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は12月29日の21時となります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ